第7話 姉妹制服プレイがバンバンジー

 夕方となった。わたしは、ベランダに干してあった洗濯物を取り込み、穂香ほのか(大)のシャツや下着などを畳んだ後に、凪沙野なぎさのジャージ姿となった。そしし、台所に入る。

 はじめに、穂香ほのか(大)に買ってきてもらっていた鶏むね肉を、お肉部分と皮とに選り分ける。

 買ったばかりで切れ味鋭いセラミック刃で、サクサクとお肉を切っていく。少々の調理酒と共にお肉をフリーザバックに入れると、低温調理鍋で一時間ちょい温める。今晩はバンバンジーにするのだ。

  

 鶏皮をスパスパと切り分ける。こちらは、フライパンに加熱しておつまみの鶏皮センベイにする。チャーハン用の鶏油ちーゆも回収予定だ。

 

 トトントンとキュウリを千切りにしながら、わたしの脳内の香織かおりさんの記憶を穂香ほのか(大)に話したものかどうか考える。

 これまで話した限りでは、わたしと穂香ほのか(大)との間で、24歳までの記憶と経験に相違はない。

 仲宗根先輩に憧れてミカ校に進んだことから、割とレアでミリタリーな人生を歩むこととなったわたし達である。穂香ほのか(大)にも香織かおりさんの記憶は眠っているのだろうか?


 バンバンジーのスパイスとする、ネギと生姜をみじん切りにしていく。

 

 ひととおりの作業を終え、後は胡麻ダレをかけるだけという状態でバンバンジーを冷蔵庫に入れた時には、香織かおりさんの記憶の件を話すのは二階堂先輩への訪問を終えてからにしようと決めていた。

 わたしの脳内に、出会った記憶のない人がいる。一方で、出会いも別れもすべて記憶がある人がいる。ほぼすべて記憶が検証可能なのは、ユウだけだった。

 わたしの記憶通りならば、彼氏なし歴24年のはずの穂香ほのか(大)は、少し先にユウと出会うことになる(はず)。ユウにつながる話を、穂香ほのか(大)にしてしまっていいのかを、わたしはまだ決められない。

 穂香ほのか(大)に、わたしの実年齢を話す時に咄嗟とっさに26歳と言ってしまったのは、穂香ほのか(大)のこれからを知りすぎている存在にはなりたくないという気持ちが含まれていた、と思う。

 こちらがわたしのらしい制服、と先程認定したセーラー服に着替え、穂香ほのか(大)を待つ。

 

 ☆

 

 わたしが今のこの部屋に籠もってから始めてピンポ~ンが鳴った。インターフォンの画面には穂香ほのか(大)。わたしと記憶を共有するだけあって、分かっている。玄関プレイタイム、だ。わたしは冷蔵庫からバンバンジーと胡麻ダレを出すと、いそいそと玄関に向かった。

 

 カチャリと玄関のロックが解除される。わたしはバレエの立ちボーズをキメる。

 ドアを開けた穂香ほのか(大)に向け、

「お姉ちゃん、制服が届いたよ」と言ってから、

くるりんとストゥニュー風ターンで一回転をした。

 そして、目があった穂香ほのか(大)と笑いあった。

 

 穂香ほのか(大)の本日の仕事話を聞いたりしながら、バンバンジーを2人で美味しくいただいた後は、パリパリ鶏皮をレンチンして、お疲れ様と穂香ほのか(大)に豊穣系ビールを出した。


「おお、今日は気がきくな、イモウトよ」

と姉妹プレイを続ける穂香ほのか(大)に、

「ねえ、サドガタンって知ってる?」

とわたしは、聞いてみた。


「サドガタン?」

穂香ほのか(大)も当然に知らなかった。


「今日、このちょっと大きめのセーラー服が大丈夫そうか気になったのよね。それで自衛隊体操をしてみた時に、脳内にサドガタンが二之姫っていう謎言葉が浮かんできたのよ」


 なんで、わざわざセーラー服で自衛隊体操を?・・・という方を気にしはじめた穂香ほのか(大)には、わたしがサドガタンが二之姫になるらしいということも、香織かおりさんとの記憶のことも話さなかった。

 無言でパカッとPCを開き穂香ほのか(大)の隣に座ったわたしは、佐渡ヶ島や佐渡ヶ嶽部屋など、語感が似ている単語のページを開き、ウェブ上でサドガタンを探せプレイをした。

 サドガタンなるそのものずばりのタームは見つからなかった。

 

 パリパリ鶏皮をかじりながら、わたしのサドガタンを探せを見ていた穂香ほのか(大)は二本目の豊穣ビールをクピクピしはじめた。

 その後、サド侯爵夫人って、宝塚歌劇になるのかしらねぇ、と、三島原作版のサド侯爵夫人のあらすじを読みはじめた穂香ほのか(大)の頬がポッと赤らんでいるのを見てとったわたしは、らしいブレザー服の方を着てみない、と勧めた。

 

 仕事帰りで汗かいてるし、とか言う穂香ほのか(大)に、どうせ近いうちにクリーニングするんだからと言い説得して、社会人スーツを脱がせた。


「このブレザーね。なんと、オールインワン仕様だったのよ」

と言いながら、穂香ほのか(大)に、らしいブレザー服のスカートをくぐらせ両袖を通させた。わたしは、ブレザー左腕のボタンを押す。

 

 チャ~っとしてピタッと、らしいブレザーが穂香ほのか(大)に貼り付いていく。


 穂香ほのか(大)は、鏡の前に立った。 

 注文したわたしとの2.5cmの身長差と24歳な身体のメリハリのおかげで、穂香ほのか(大)のブレザー姿にはちょっとむっちり感が出ている。三十路の時のわたしとは違って、目元の小ジワはないので中高生の制服姿もさほどの違和感はないけれども・・・

 

「なんか、新米先生が母校の女子校に赴任することになった時に、昔の制服を着てみました、って感じだね」

と、わたしはそう評してみる。

   

「わたし達の母校の制服は、自衛隊曹士テイストだったはずだけれどもね・・・」


 そうボヤキながらも、穂香ほのか(大)は、らしいブレザー姿を割と気に入ってそうだ。今のわたしはもちろん、三十路の時のわたしよりも、ご立派なお胸を張ってポーズを取って少し微笑んでいる。


 わたしは穂香ほのか(大)の右手を握り、「姉妹制服プレイ、完了」と宣言した。


「ブレザー姿と、セーラー服姿とで並んで、姉妹感が増したのかしらね」

 鏡の前に並んだ、似たような顔と身長の2人を見ながら、穂香ほのか(大)が感想を述べた。


「そして、お姉ちゃん用ブレザーには、スペシャル仕様付き」

 わたしは、ブレザー右腕のボタンを押した。


 ツツーっとスカートが下から開きはじめる。鏡の前でフェッと固まる穂香ほのか(大)を、わたしは今度は第三者視線で眺めた。スカートがパラリとほつれ、ブレザー部分のシャツが開き、白ブラジャー姿となっていく穂香ほのか(大)。目を瞬かせながら、その顔がさらにほの赤くなっていく。

(やっぱ、ありえないわね、この仕様スペック


 「何なのよ、これ」とプリプリしはじめた穂香ほのか(大)のブレザーを脱がせ、お風呂に引っ張っていく。

 

 そのまま、全部脱がせるとわたしも脱いで、一緒にお風呂に入った。2人で入るのは初めてだったけれども、予想通り、わたし達が2人で入っても浴槽にはまだ余裕があった。

 

 浴槽で、穂香ほのか(大)の二の腕をぷにぷにと突きながら、さきほどのらしい制服のことを話した。といっても、お任せセットで、あんなブレザーが届く東方新社ラボを見つけたのはお姉ちゃんなんだからね、とイモウトらしいプリップリな表情でつくろって言ってから、セーラー服の方にはチャックがあるけど触れないでねという約束を取りつけた。

 そんなここを話している間にも、ほろ酔いがほぼ仕上がってきたらしい穂香ほのか(大)の目はトロンとしてきた。

 穂香ほのか(大)の手を引きながらお風呂を出た。身体を拭いてあげると、穂香ほのか(大)は、ノロノロとパジャマを着た。下着は身につけていなかったけれども、わたしにも、穂香ほのか(大)くらいの年の頃、お酒を飲んだ後に、同じような格好で寝た記憶があったので、そのままリビングに戻らせる。

 わたしがブレザーとセーラー服を丁寧にハンガーにかけ直すうちに、穂香ほのか(大)は少し目が醒めたらしい。ちょっとだけ2人でヨーガを始めた。すると、既におやすみなさいモードであったのであろう、穂香ほのか(大)は、しばしの後に「おやすみ」と言うなり、ベッドに入り眠りはじめた。


 わたしは一通りのヨーガを終えてから、ベッドに入る。灯りを落とした後、横の寝顔を見つめるのは、今日もわたしだった。

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