送り主

(よし、ついたぞ……)

屋上についた俺は、深呼吸をし待ち構えているであろう手紙の主に気づかれぬよう、慎重にドアを開けた。

ドアを開けると春の少し肌寒い風が吹いた。そして、俺は外をのぞき込む。

そこには、屋上の真ん中あたりで空を見上げる腰まであるきれいな黒髪の少女の後ろ姿があった。

正直、驚いた。俺とほぼ接点のない彼女が手紙の差出人?

俺は、彼女に直接確認を取ろうと屋上へ出た。まだ、彼女が手紙の差出人だとは信じていない。仮に差出人だとしても信じられない。

一歩ずつ彼女に近づき、そして声をかけた。

「倉敷…?」

俺がそう口に出すと彼女、倉敷すみれ(くらしき すみれ)は風で揺れる髪を抑えながら俺の方を向いた。

(まさかこんなに間近で"あの"倉敷すみれを見ることになるとは…)

実家はここら近辺ではとても有名な日本舞踊の家元であり、見た目の美しさはもちろんスタイルの良さや、他者を寄せ付けないクールな性格等々から校内で"高嶺の花"と呼ばれ噂されている。

そして俺は、彼女に聞いた。

「もしかして、手紙を出したのって……」

「ええ、あなたの都合関係なしに呼び出したりしてごめんなさい。時間は大丈夫かしら?」

特に用事もないので、彼女に「大丈夫」と返す。すると彼女は、一度目を閉じ大きく深呼吸をした。

「あまり接点もない私にこんなこと急に言われたら驚くと思うけれど、実は私……貴方のことが好きなの。」




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