第3話
「あなたの最初の仕事は私をクルフ洞窟まで護衛することよ」
クルフ洞窟?聞き慣れない場所だな。
「どこなんですか?」
「街を抜けて山を越えた先にある場所よ」
「そのような辺境に何か用事でもあるのですか?」
「行ってからの秘密」
「はいはい……。さっさと行って俺のボディーガードぶりを見せてやりましょう!」
秘密秘密と何度も言われて、もう慣れている自分がいた。
「お嬢様!この爺もお連れなさいませ」
「爺やは来なくていいわ」
「なんと!?いくらそやつが強かろうと護衛一人では危険ですぞ!」
爺さんが声を荒げる。
「護衛は彼一人で十分です。爺やは館で紅茶でも飲んで待っていてください」
お嬢さんが言うので爺さんは折れて「いいでしょう」と言った。だが爺さんはこちらを殺気を放つ目で睨み。
「お嬢様に何かあったらどうなるか分かっておるだろうな」
そう言いつつ、鞘から刃をチラつかせる。
怖っ!
なんて物騒な爺さんだ!
「爺や、おやめなさい」
「ぐっ……、申し訳ありません。私の非礼をお許しください」
この爺さん、姫さまの言うことは聞くんだな。そりゃ執事だから当たり前か。
「さぁ行きましょう。私のボディーガードさん」
館を出ると既に大型馬車が館の前に止まり俺たちを待っていた。このお嬢さんはいつ馬車を呼んでいたのか。
何にしろとてももない財力だな。
「行くわよ」
言われるがままお嬢さんについていき馬車に乗った。そして通常よりも巨大な馬車を筋骨隆々な馬が引いていく。
順調に都を出て、山脈に向かっていった。これなら順調に行けると思っていた。
しかし山脈真下まで到着した所でいきなり馬車が止まり、馬主が俺たちのほうに小窓から顔を出して、
「ここでお降りください」
「この先はまだ道が続いているはずだろう?なぜ止まるんだ?」
「馬車仲間の『この先障害物あり』という印があるため、ここまでしか移動できません」
馬主は木に彫ってある印を指して言う。
そのような印のことは分からないが、馬主が言うなら従うしかない。
「分かったわ。ここからは二人で歩いていくわ。ここまでありがとう」
そう言い残し、お嬢さんは上品にスカートの裾をたくし上げながら降りた。これからこの険しい山道を二人で登るとなると俺は鍛えてるから大丈夫だが、お嬢さんが登るには大変なのでは。
登り始めると、お嬢さんはスカートを汚さないよう裾を持ちながら登っている。登ることに全く適さないドレスを着ながらだと歩きにくいのは当然だ。
「お嬢さn……お嬢様」
「リナでいいわよ」
「えっ?でも俺はボディーガードの身であって、そのように親しく呼んではいけなくて……」
「私がいいって言ってるのだからいいでしょ」
今日会ったばかりなのに親しすぎる気もするが、そこまで言うならいいか。
「ならリナ、一つ提案でおんぶしましょうか?」
「はぁ!?」
いきなり顔を真っ赤にし、顔を逸らす。
「おんぶのほうが服も汚れず早く着きますよ」
「でっでも……」
リナが小声で何か言っている。
確かにおんぶされるのは恥ずかしいのだろうと思い、腰をかがめいつでも背中に乗れる状態にした。
「仕方ないわね!乗ったげるわ!」
リナはおんぶされることを了承してくれた。背中に乗ってきたリナの体はとても華奢で女の子らしい体型をしている。
そのままおんぶをして登っていった
「おんぶされるなんていつぶりかしら」
リナがどこか悲しそうな声でそう呟く。
「昔ね、お父様が他国に出張した時、迷子になっちゃったの」
「お父様とはぐれて危ない人に襲われそうになった時、助けてくれたおじさんががおんぶしてくれたのを思い出すわ」
「勇敢な人ですね」
「ええ。あの人にまた会いたいわ」
昔話を聞いていると日が沈み始めてきた。
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