第2話


「ここがあの少女が住んでいる館か」


館というより城に近いと言っても過言では無い大きさだ。一体どれ程の財力を有しているんのだろうか。無職になった俺には計り知れない。


「おい!そこのお前は何者だ!」


館に近づく俺を門番が止めた。


「ここに住んでるお嬢さんに呼ばれたんだが……」

「お前のような不潔なカジノの黒服を呼ぶわけなかろう。とっとと失せろ!」

「お嬢さんからこんな物を預かっているんだが」

「こ、これは……!」


門番にお嬢さんから渡された腕輪を差し出した。


「持ってるなら早く言ってくださいよ!すぐに門を開けますので、どうぞどうぞ」


急に門番の態度が変わりヘコヘコし始めた。どういうことだ?

とりあえず館に入れるようになった。そして館に入ると、さすが貴族の家といったような内装。カジノでもここまで豪華ではなかった。色々感動していると嫌な視線を感じ取り振り向くと、執事であろう人物が出迎えてきた。


「私はこの館の執事でございます。お嬢様がお呼びになった方ですね。お嬢様はこちらでございます」


さっきの嫌な視線が気になるが、執事はお嬢さんの部屋まで案内してくれた。部屋にはお嬢さんが椅子に腰掛けていた。


「やっと来たのね。カジノを首になった黒服さん」

「なぜ知っている!?」

「秘密」

「ならなんで俺をこんな場違いな所にお呼びになったのはどういう意図なんだ?」


一体何をされるのか?人身売買か?それとも奴隷にされるのか?などと思っていた。


「この私、ルシアント卿のリナ伯爵のボディーガードを任せたいの」

「はぁっ!?」


意外すぎる答えにより自分の記憶しているボディーガードの意味をもう一度考え直すほど驚いた。こんな見ず知らずのやつを雇うなんて。


「本当にボディーガードとして雇ってくれるのか?」

「ええ、だって貴方はあの黒服の方なんだから相当お強いのでしょう」


黒服はカジノで働くにあたって特殊な訓練を受けており、一般の王国兵より圧倒的な戦闘能力を持っている。そこに目をつけたのだろう。


「貴方を選んだのはそれだけじゃないけどね」

「他の理由があるのか?」

「これも秘密」

「またですか……」


やけに秘密が多いな。こんな豪邸に住むお嬢さんにこの俺を雇う事情があるのか疑問が残る。雇って貰えるのはありがたいが……。


「給料ははずむわよ」

「その仕事、この俺が承ります!」

「いい意気込みね!早速なんだけど、貴方の強さをみたいの。だからちょっと付き合って」


お嬢さんは館の兵士達を集めた。この兵士達と俺を戦わせると思っていたが、俺の予想は大きく外れた。


「爺や、こっちに来て頂戴」


さっきの貧弱そうな執事が出てきたと思うと、俺の目の前まで来た。


「この老いた爺の相手をしてくれますかな?」

「なんだと!?」


こんな爺さんの相手をするのか?秒で決着がつくぞ。

決闘方式で爺さんと向かい合い、剣を構えた。


「初めっ!」


爺さんは剣もまともに構えない。そんな隙だらけの爺さんに刃を向けるのは可愛そうだと思い、気絶させようと柄で殴ろうとした。

その時、突然何のオーラもなかった爺さんから殺伐としたオーラを感じた。俺は命の危険を感じ取り、距離を取った。


「ほほっ、少し本気を出そうかのう」


爺さんがとてつもない速さでこっちに向かってくる。さっきまでの貧弱さが嘘だったみたいな速さだ。その勢いのまま蹴りを入れる。剣で防御したものの衝撃が響くほどの威力。それに続く剣による連続の鋭い攻撃。見切れないほどの攻撃の速さにより躱し切れずかすり傷を負ってしまった。


「この老ぼれごときに遅れをとっていてはお嬢様の護衛など務まらんぞ!」


爺さんは剣を天高く上げ、俺の真上に振り落とした……はずだった。


「ぐはぁ……!」


次の瞬間、爺さんは膝を突き、俺は立っていた。


「そこまで!試合終了よ」


お嬢さんが試合終了の合図を言う。


「おめでとう。あなたを勝った報酬として私のボディーガードに任命するわ」

「そんな事よりあの爺さんの手当ては大丈夫なのか?」

「爺やは丈夫だから気にしなくていいわ」


本当に良いのか?


「私のことはお気になさらず」


スッ……と気づかない内にお嬢さんの後ろに立っていた。

さっきまで膝ついてただろう。化け物か?


「やりますのう。黒服でも私とやりあえる者などいないと思っていたのですが、どこの世界にも逸材がいるものですなぁ。またお相手してもらいたいのう」

「爺や。手加減したのでしょう」

「ほっほっほ。お嬢様にはバレてしまいましたか」


えっ?あれほどの強さだったのにも関わらず手加減していたのか!?


「この爺さんは何者だ?」

「わしは剣聖エルガーと申します。どうぞお見知りおき下さい」


剣聖だと!?そう言われれば納得はするが、この爺さんがそうなのか。


「最後は本気で確実に彼を殺そうとしてやりましたがのう」

「あら、そうだったの?」


いやいや、会話が怖すぎる。

何はともあれボディーガードに就職でき、やっと無職脱出だ。


「早速仕事を与えるわ」

「なんでもどうぞ!」


と勢いで言ってしまったのが運の尽きだった。

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