第131話
澪と悠花は残って彩音と東雲樹生についての話をしたい気持ちもありましたが、樹生が前世の関係者であることくらいしか思い出せていません。
それぞれが思い出せることを整理して話をするべきだと考え、その日は帰ることにしました。
「……楓さんは、東雲樹生さんと以前からお知り合いだったのですか?」
「いや。あっちは大企業の社長の息子なんだ。俺と知り合う機会なんてあるわけないだろ?」
「ですが、親し気な雰囲気がありました。」
「気のせいじゃないか?俺も今日が初対面だけど?……向こうは俺を関係者だと勘違いしてるから、親し気に接してくれてるんだと思う。」
「……勘違いではないと思います。」
「大丈夫。今回、俺はここで退場するから。」
楓は独り言のように囁きました。彩音には楓の声が届いておらず何を言っていたのか気になってしまいました。
「え?……何かおっしゃいましたか?」
「何も言ってないよ。」
それからすぐに楓は浩太郎に呼ばれてしまい、彩音との会話を終わらせます。
彩音は、浩太郎が楓を東雲社長たちに会わせていたことも気になっていました。東雲社長が樹生を連れてきているので、会社ではなく自宅に招いたことは理解出来ましたが、楓を呼ぶ必要はありません。
「……はぁ……。」
自室に戻った彩音は珍しく溜息をつきました。東雲樹生の登場は次の段階に進んだことを意味しています。
――澪さんや悠花さんも東雲樹生さんを見て驚いていましたから、
おそらくは間違いないと思います。
ただ、東雲樹生を見た時に楓のことも思い出せそうな感覚がありました。楓と樹生が話している光景には既視感があります。
――たしか……、リカルド様。……ソフィアの婚約者候補。
現代の日本では14歳で婚約など考える必要はありませんが、前世では違っていました。
そして、その候補は1人ではありません。
――これから別の候補者も現れるんでしょうか?
候補者が何人いたのかは思い出せていません。聖ユトゥルナ女学園から離れたとしても別の問題が発生することになります。
このタイミングで東雲樹生が登場したとなれば、転生後も同じ展開が予想されます。
――まさか、お父様が私の婚約者を!?
前世のことがなければ考えもしないことですが、現代社会でも政略結婚的なものはあります。会社同士で協力し合うことになれば、そんな考えが的外れではないかもしれません。
彩音は楓が持っていた本のことや婚約者問題を抱えることになり、気が重くなっていました。
暗い気分で部屋にいると落ち込んでしまいそうだったので、部屋から出て歩いていると楓と出会います。
「……もう帰られるのですか?」
「『もう』ってことはないんじゃないか?これでも遅くなったから、車で送ってもらうことになったんだ。」
「よろしければ、ご一緒にお食事をされてから……。」
「ありがと。でも、紅葉が待ってる。」
「そうですわね。申し訳ございません。」
彩音の言葉には元気がなく、小声でボソボソと話をしていました。楓と話したいと思っていても、何を話せばいいか分かりません。
「元気がないな?」
「えっ?……そんことはありません。」
「いいよ。俺も細かいことまでは分かってないけど、東雲樹生は大丈夫だ。心配はいらない。」
「……どういうことでしょうか?」
「言っただろ。細かいことまでは分からないって。……でも、東雲樹生が違うことは分かってる。」
彩音は楓が何を言いたいのか分かりませんでした。
東雲樹生と初対面であるのに、『大丈夫』や『違う』などと何かを断言していました。
彩音が質問しようしましたが、楓は遮るように話を続けます。
「とにかく、そんな暗い顔をするなってこと。社長も心配する。」
「……はい。またお話を聞かせてくれますか?」
「あぁ。俺にも、まだ話せるようなことはないけどね。」
楓も何かを知っていることだけは確実になりました。
彩音が最初に感じたように楓とも前世で繋がりがあったことになります。ただし、他の人たちの名前まで思い出せいている中で楓の前世についての情報がありませんでした。
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