第121話
ただ、基本的には真面目に問題に取り組むことになります。楓の言葉を守って、女の子同士で教え合う時間も増えていきました。
楓は本を探している紅葉に付き添って本棚の前で一緒に選んでいましたが、その状況に業を煮やしてしまったメイドが煽ることになります。
メイドの一人が悠花の傍らに立ち、そっと耳打ちしました。
「……悠花様、このままですと皆様のカウントで比較することが難しくなると思いますが、大丈夫でしょうか?」
「えっ!?そうなんですか?」
「はい。まだ、二桁に届く方がいらっしゃいません。彩音様については、僅か3回だけになっています。」
「……3回だけ?」
メイドたちは面白がって煽る気持ちもありましたが、何よりも退屈な時間を打開したかっただけでもあります。このままでは、ただ勉強をしている悠花たちを眺めているだけになってしまいます。
「ある程度少ないことは予想しておりましたが、3回だけなのは予想外ですね。……これでは検証が成立しませんわ。」
「はい。彩音様は皆様の後ろに隠れてしまっておりましたので、特に少ないのかと思います。」
「それでは、せっかくのお姿も見えなくなってしまいますね。」
「はい。まずは、彩音様がお覚悟を決めて、楓様の前で全身を見せる必要があるのではありませんか?」
「そうですわね。ありがとうございます。」
悠花は少し離れて座っている彩音を見ていました。真剣な顔をして問題を解いているので、悠花とメイドが話をしていることには気付いていません。
「……これでは、楓さんが前世と関りのある方なのか確認することが出来ませんわ。せっかく魔法学園の制服と同じものを作ったんですから、しっかり見ていただかないと。」
「悠花様?……何かおっしゃいましたか?」
「いいえ、何でもありませんよ。」
悠花と澪が記憶していた魔法学園の制服。
魔法世界の制服デザインを忠実に再現したはずの物なので、楓が前世と関りがあるのなら何か反応があると考えていました。
悠花と澪には、楓に転生したと思われる人物には該当者がいません。それでも、彩音が楓の存在に拘っている様子を見ていて、無関係だとも思えなくなっていました。
その事実を確認するためのイベントでもあります。そこに悠花と澪の『制服姿を見てみたい』という欲望を混ぜてしまったことで、競い合わせるという企画に落ち着いていましたが、本来の目的も忘れてはいけません。
「澪さん、ちょっとよろしいですか?」
悠花は隣りに座る澪にも現状を耳打ちして報せることにしました。澪をコソコソ話をした後、メイドにお願いをして本棚の配置を変更させました。
「ちょっと一息つきませんか?」
そして、悠花が唐突な休憩宣言を入れます。その言葉に合わせて、メイドがお茶とお菓子を運んできました。
「紅葉さん、こちらにどうぞ。」
澪が紅葉を隣りに座らせて、楓との引き離しに掛かります。そこで、すかさず悠花が紅葉に話しかけます。
「紅葉さんの好きそうな本はありましたか?……よろしければ、お持ちいただいても構いませんよ。」
「えっ?いいの?」
「もちろんですわ。紅葉さんが読みたいと思う本がありましたら、是非。」
そのやり取りを聞いていた彩音が、ハッと思いついた顔をして話しに参加します。
「それでしたら、私もお借りしたことがある本がお薦めですわ。」
彩音の発言で、悠花と澪はお互いを見て『キタッ』と思っていました。
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