第92話
「……今回のことも、試験でのことも、生徒会選挙でのことも、全て私が原因になっていることを知らされました。それは父の影響に因るものなのですが、これから先も同じようなことが起こるかもしれません。」
「彩音様?」
楓からの話が終わり、彩音が語り始めたことに千和が驚きました。澪と悠花は何かを察しており、彩音が話そうとしていることを感じ取っています。
「私が普通に生活しようとしても、知らず知らずのうちに周りに迷惑をかけてしまいます。千和さんにも、倉本さんにも、嫌な想いをさせてしまいました。」
「そんなことありません。あれは私の思い込みだったんです。」
「そうですわ。私も彩音様のおかげで大切なことに気付くことができました。」
「ありがとうございます。……それでも、このままではいけないと考えていました。」
こんな風に伝えられる機会は多くありません。澪と悠花とは相談してあり、二人の手帳には彩音の書いた『外部受験』のサインが大切に保管されています。
受験の準備を進めることになれば、いずれは知れてしまうことになります。そうなる前に彩音の言葉で伝えておかなければ『友達』という存在も空虚なものに変わってしまうかもしれません。
「私は、聖ユトゥルナ女学園を離れて、違う高校に進学するつもりでおります。……澪さんと悠花さんも一緒です。」
意を決しての発表のはずでしたが、驚きの声が出てきませんでした。彩音の頭の中は『あれ?』という言葉が溢れてきます。
もしかして事前に澪や悠花が話をしていたのかもしれないと考えて、彩音は二人の顔を見ました。
すると、澪と悠花もキョロキョロとしてお互いの顔を見ています。
「……そんな予感はしておりました。」
千和が静かに話し始めました。
「最近の彩音様たちは、以前とは違って積極的に行動されているように思っていたんです。……実は、今日こちらに伺う前に三人でも話していたんです。」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。ここ最近の理事長のことを考えれば、彩音様たちが学園を離れるお考えを持たれることもあり得ると……。」
「そこまでお分かりになっていたんですね。」
「分かっていたというか、勘のようなものですわ。……『お友達』ですからね。」
千和が言うと、渉美と倉本沙織が一緒に笑っていました。
彩音たちは、そんな言葉が嬉しくて泣きそうになってしまいます。それと同時に、もっと早く相談していれば良かったと後悔することにもなりました。
「皆さんにも、もっと早くご相談するべきだったのかもしれませんが、私も理事長とお話をするまで気持ちが揺らぐこともあったので……。申し訳ございませんでした。」
「いいえ、彩音様から直接お聞きすることが出来て嬉しかったです。ありがとうございました。」
皆が笑顔になって、和やかな空気になります。修学旅行のことも、受験のことも、とりあえず一件落着となり彩音の気持ちは軽くなっていました。
若干、期待していた反応と違っていたので残念に感じていることもありましたが……。
「……あのぅ、この場でお話することか迷ったのですが一つよろしいでしょうか?」
倉本沙織が唐突に話始めます。彩音たちにとって、重めの話が続いていたので少しだけ緊張してしまいました。
「はい。どうされましたか?」
「すごく場違いかもしれませんけど、私も名前でお呼びいただきたいのですが……。」
勇気を出してのお願いに皆は再び笑顔になります。
「はい。これからは沙織さん、ですね。……それでは、私からも皆さんにお願いが一つありますわ。」
「彩音様からのお願い……、ですか?」
「ええ、これからは彩音『様』は禁止にしたいと考えております。」
彩音からの提言に、一同は驚き『えっ!?』となってしまいました。これまで話をされたことの中で一番の衝撃を与えることになったのは『彩音様禁止』だったのです。
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