第91話

「あの記事の写真の出処は、理事長だよ。」


 単刀直入の言葉に一同は驚かされます。驚いている中には彩音も含まれていましたが、理由は他の皆とは違っていました。


――えっ!?……事実をありのままにお話になるんでしょうか?


 楓にも上手く誤魔化すことは不可能だったと思いましたが、そこからの展開が変わってきます。


「本当は『優雅に修学旅行を楽しむ一コマ』として学園の宣伝に使いたかったらしいんだ。……でも、写真を見た人間が別の使い方をしてしまった。」


「それが、あの記事ですか?」


「そうだね。面白おかしく使った方がネタになるだろ?」


「そんな……。」


 彩音以外は落胆の表情に変わっていました。ただ一人、彩音だけは修正されるシナリオを楽しんでします。

 質問者は倉本沙織で、楓が答える形で進んでいきました。


「女の子が旅行を楽しんでいる様子なんて話のネタにはならない。記事を読んで理事長も驚いたって言ってたよ。」


「どうして理事長は、そんなことを考えたんですか?」


「試験や生徒会の時と同じで、九条さんに注目させるため。九条さんの存在を皆に知ってもらうことで、学園が注目されて知名度が上がると思ったみたいだな。」


 この場にいる全員が理事長の企みを実感しているので、すんなりと受け入れることが出来ました。半ば呆れ気味で、彩音に同情してしまうような状況です。


「でも、全部が裏目。反省していたよ。」


「当然ですわ。」


 全員が声を揃えて言いました。誰も楓の話を疑ってはいない様子です。


「記事の出したところとは、九条さんのお父さんが話をつけることになってる。これでスグに消されるはずだ。」


「そのお願いをするために、理事長が来られていたんですか?」


「まぁ、理事長としては自分で蒔いた種だから直接文句は言えないよな。下手に動けば、理事長が写真を渡したことをバラされるかもしれないんだ。」


「あっ、彩音様のお父様なら、黙って従うしかありませんものね。九条グループを敵に回してしまったら大変なことになります。」


「……そういうこと。理事長としては隠しておきたかったけど、正直に話をして頼むしか手段が残ってなかったんだ。」


 皆が納得して聞いている中に彩音も加わってしまいます。

 楓は、嘘と真実を織り交ぜた説明をして、この場を乗り切ってしまう考えだった。


「でも、例え記事が消えたとしても、読んだ方の記憶には残ってしまってます。それをどうすれば……?」


「どうする必要もないと思うよ。皆は、ただ学園の行事に参加しただけなんだから。」


「それは、そうかもしれませんが、他の方に納得してもらえるでしょうか?」


「後ろめたさがあるのなら、今後止めればいい。周りに何を言われても、意義があると思えるのなら続ければいい。あの記事に込められた悪意を消すのは簡単じゃないけど、それは君たち次第じゃないのかな?」


「……私たち次第ですか?」


 倉橋沙織は、何かを考え始めていました。記事への対処は決まりましたが、これから生徒会として『どう向き合うか』は別の問題になります。


「まぁ、理事長も、それなりの責任を取ることになると思うけど、この話は表には出せない。……だから、ここからは九条さんのお父さんに任せるしかないね。」


「そう思います。」


 試験や生徒会選挙の時とは違い、生徒だけで解決出来る領域ではなくなっていました。ここから先は、九条浩太郎の影響力で収束させることになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る