第90話
ここでの話は一旦切り上げることにして、彩音たちは部屋に戻ることにしました。
「楓さんも来てくれませんか?皆さんへの説明、私だけでは少し不安なので……。」
「えっ!?あぁ、分かった。」
楓は立ち上がって、浩太郎に軽く頭を下げて挨拶をしました。彩音は、浩太郎の突然の提案に楓が怒っているのではないかと心配していたのですが、それはなさそうです。
「ところで、別の高校を受験するのは九条さん以外に誰がいるんだ?……もしかして、今待っている全員?」
「いえ。……全員、ではありません。相談しているのは、澪さんと悠花さんだけですわ。」
「あぁ、やっぱりね。」
「……私の他に受験を考えていることも、お気付きになっていたんですね?」
「え?だって、社長が『娘たちの新しい挑戦』って言ってただろ?」
彩音は、そこまでのことに気付いていなかったので浩太郎を見ました。浩太郎は笑顔で二人のやり取りを聞いていましたが、澪と悠花が一緒であることを知っていたので簡単に認めてくれたのかもしれません。
「他の子にも、話しておかなくていいのか?……友達なんだろ?」
前世のことを話すことが出来ない以上、隠し事は増やしたくありませんでした。楓が『友達』という言葉を使って確認してきたことが彩音の背中を押してきます。
「はい。そのことも、きちんとお話しておきたいと思います。」
「……だな。」
部屋を出ていく楓に『また話をしよう。』と幸太郎が声をかけましたが、楓からの返事はなく再び頭を下げるだけでした。
部屋に入ると皆が一斉に立ち上がり、彩音の近くに集まります。
「……彩音様、お話は済んだのですか?」
最初に質問したのは倉本沙織でした。今回の件では一番の被害者になっているかもしれません。
話をする前に倉本と楓が自己紹介をしていましたが、二人はお互いに不思議そうな表情をして見つめ合っています。楓には事前に『生徒会長の倉本さん』が来ているとだけ伝えてありました。
「どうかされましたか?」
彩音が話しかけると、『何でもない。』『何でもありません。』とスッキリしない感じになります。
気になってしまいましたが、皆を座らせて落ち着いて話が出来る状況を作りました。
彩音も座りましたが、楓は一緒に座ることを拒否しました。女子6人の中に混ざることが恥ずかしくなっていたのです。
冷静になればタイプの違う美少女が6人揃ったことになります。
「さぁ、何からお話すればいいでしょうか……。」
彩音の説明を待っていた皆が注目しました。カッコよく切り出してはみましたが、そこで彩音の頭の中は『?』で満たされます。
――理事長の息子さんの投資失敗を学園のお金で穴埋めしたかもしれない……。それって、横領になるのではありませんか?
理事長との話を要約すると、
『理事長が横領を誤魔化すために、お金が必要になり寄付金を思いつきました。』
『今回の修学旅行の記事も、それを利用するために理事長が書かせたものです。』
『セキュリティ強化という名目で寄付をお願いするために、理事長は来ていました。』
――でも、父にはバレてしまったので諦めました。……これって、修学旅行の記事よりも大問題なのでは?
そこに気付いてしまった彩音は上手く説明出来なくなります。
振り返って助けを求める表情で楓を見ました。そんな情けない顔を見た楓は、小さくため息をついて彩音の代わりに話し始めます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます