第88話
「あぁ、理事長が突然訪問してきて、その後に問題が起こっただろ?そのことで楓君は、『どうして、このタイミングなんでしょうか?今までもチャンスはあったはずですよね?』と言っていたんだ。」
「あっ、移動中の車の中で、そんな話をしてた気がします。」
「思い出したかな?そのことを聞くまでは、わたしも大して疑問に思っていなかった。中等部最後の年だから、彩音にやる気を出させるために来ただけだと考えていたんだ。」
「……はい。私も最初は、そう思っておりました。」
「でも、楓君が言うように、もっと早くに彩音を生徒会へ参加させるように話をする機会はあったんだ。そう思うと、妙に気になってしまってね。」
「お調べになったんですか?」
「あぁ、簡単に色々と情報が出て来たよ。理事長の息子が投資に失敗して、多額の損失を出したこと。その後、学園の運営費に不審な動きがあったこと。……あの理事長は、本当に分かりやすいな。」
「それで、急いでお金が必要になったのか……。これまでの理事長のやってきたことは、社長に寄付金を出させるためだったんだ。」
楓は理解しているようでしたが、彩音は完全に理解できていませんでした。修学旅行についてはセキュリティ強化を名目にしていましたが、生徒会や成績のことは謎のまま。
彩音が理解し切れていないことに気が付いた楓が説明を加えてくれます。
「九条さんが成績がトップになって、生徒会にも加わるような学園の中心人物になれば、社長への寄付を要求できると考えていたんだよ。『娘さんも頑張っていますから、この機会に学園を盛り上げたい』とか言ってね。」
「はぁ、なるほど。……ですが、そんなことで寄付なんてしませんよね?」
彩音は理事長の行動を理解しましたが、それで浩太郎が寄付をするとは考えていませんでした。
「それは分からないよ。彩音が学園のために行動する中で悩んだりしていれば、わたしが助けてあげられるのはそれくらいしかないんだ。」
「……だから、今回はイイ線いってたんだけどな。理事長は焦って余計なことをし過ぎたんだよ。」
「余計なことですか?」
「今日、理事長たちが来てなかったら、社長は寄付してたかもしれないんだよ。」
彩音は頭をフル稼働させていますが、どうして理事長が来なければ浩太郎が寄付するのか分かりませんでした。
そして、だんだん楓と浩太郎だけで分かり合っているような状況が面白くなくて、不貞腐れ始めています。
「……申し訳ありませんが、私が理解できるようにお話いただけませんか?」
「あっ、あぁ、ゴメン。……今日、新しい生徒会長の子が来てるんだろ?そして九条さんは、その子と仲良くなってる。」
「はい。倉本沙織さんですね。」
「学園のセキュリティが不十分で困っている生徒会長の倉本さんが、友達である九条さんを頼ってきた。っていうシナリオで完成させておけば良かったんだ。」
「あっ、そのことを私が父に相談すれば、父が学園に寄付をしていたかもしれないんですね?」
「そうなるかな。だから、あの理事長は余計な行動が多過ぎたんだよ。……黙って待っていれば、息子の投資失敗がバレることもなかったし、九条さんが外部受験を決断することもなかった。」
「まぁ、全ては結果論だ。」
浩太郎の言うように結果論でしかありません。
理事長の狙いは『お金』であり、彩音を『悪役』にすることではありませんでした。もし、ソフィアが同じように『お金』のための企みに巻き込まれた結果で『悪役』にされたのであれば救われません。
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