第87話
「それに……。わたしも娘の考えは今日初めて聞きましたが、名門校としての誇りを捨てた聖ユトゥルナ女学園が立ち直るには良いきっかけだと思います。」
「……えっ!?」
「わたしを舐めてもらっては困りますよ、理事長。」
浩太郎が態度を一変して厳しい口調になりました。父親として話をしていた時間の終わりを告げます。
「……そんな、そんなことは決してございません。」
「見苦しい言い訳は無用。既に貴方の息子さんのことも調べてあります。その後、学園にあった不審な動きも当然。」
理事長は、『あっ……。』とだけ声を漏らして下を向いてしまいました。彩音と楓は何の話か全く分からず、お互いの顔を見ていました。
「……あと、休暇中のわたしの秘書が旅行先で修学旅行中の娘を見かけてね。あの写真が撮られた瞬間を偶然見ていたんです。」
「えっ!?」
今度は川島郁也が反応しました。
浩太郎は淡々と話していましたが、そんな偶然があるわけありません。浩太郎の指示で動いていたことは明確でした。
「まぁ、先生が修学旅行の一コマとして記録しただけの写真が悪用されるとは思いませんよ。……そんな写真が、どうしてネット記事に使われたんでしょう?」
「……そ、それは……。」
全部を知った上で質問していることは、川島郁也も気付いていました。当然と言えば当然なのですが、理事長や川島が渡り合える相手ではなかったのです。
「娘たちの新しい挑戦に、理事長のご協力を賜りますようお願いいたします。」
浩太郎は頭を下げてお願いしましたが、対面する二人は項垂れてしまっており見えていないかもしれません。
「……はい。……承知いたしました。」
理事長は観念した様子で、受け入れることを認めました。
これ以上、浩太郎と話を続けてしまえば、何が飛び出してくるか予想できません。ここで諦めてしまうことが理事長の選べる最良の道でした。
「お父様、ちゃんとご説明はしていただけるんですよね?」
珍しく彩音が不貞腐れたように浩太郎を睨んでします。
理事長たちが帰った後、彩音と楓が浩太郎と向かい合うように座りました。
「ああ、もちろんだよ。そう、怒るな。……わたしだって、お前の進学の件は初めて聞かされたんだぞ。お相子じゃないのか?」
「いいえ、お父様はそのことも知っていたご様子です。全く驚いていなかったじゃありませんか。」
「いや、驚かされたぞ。何となくの予感はあったが、あの場面で突然だからな。」
「それも嘘です。お父様が、私に言う場面を作ったんじゃありませんか。しかも、修学旅行の写真についても、私にはお話してくれませんでした。」
彩音と浩太郎の口喧嘩になりつつありました。楓は、二人がこんな言い合いを始めたことも意外な展開です。
「あのぅ、俺が巻き込まれてることも忘れないほしいな。」
「えっ?あっ、申し訳ございませんでした。」
「他の皆も待たせてるんだろ?どういうことなのか、先に説明を聞かないと。」
彩音は部屋で待ってもらっている四人のことを忘れていました。二人は少し反省をして、お互い冷静に話す姿勢を作ります。
「では、順番に話していくとするか……。」
「はい。お願いします。」
「わたしが色々と調べるきっかけをくれたのは、楓君の一言だったんだ。」
「……俺、社長に何か言いましたか?」
先日も、彩音の部屋から立ち去る時に楓の言葉が役に立ったと言い残していました。その後、楓も考えていましたが思い当たるものはありません。
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