第67話
車で紅葉を送って行くことになりました。今度は彩音も一緒です。お茶会の時の写真は、また渡す機会があると思えていたので置いていくことにしました。
運転手が道を覚えているので、案内も必要なく目的地には辿り着けました。
モノトーンで落ち着いた雰囲気の小さなマンションでした。同じ親子三人でありますが、当然ながら彩音の屋敷とは全く違います。
「……あっ、お兄ちゃん。」
車が止まったと同時に紅葉が言いました。ちょうど出かけようとしていた楓が、彩音たちの乗る車を見つけて立ち止まっています。
一緒に来れば会えるかもしれないとは思っていましたが、彩音は一瞬で緊張してしまいました。
運転手がドアを開けると、紅葉は楓に向かって走り出します。
「……えっ!?……紅葉?どうして?」
「お兄ちゃん、ただいま。」
「友達の家に遊びに行くって、言ってなかったか?」
「ええ、ですから私のところへ遊びに来てくださったんです。私たちはお友達ですから。」
彩音と紅葉はお互いの顔を見て、笑顔で頷きました。誤魔化していなければ、楓が反論を述べることは出来ません。
「ねぇ、お兄ちゃん。来週の土曜日は、動物園じゃなくて、お姉ちゃんのお家に行ってほしいの。」
「え?……九条さんのところへ?……どうして?」
「父が楓さんに来てほしいと言っていたのです。……どうしてなのかは……、私にも分かりません。」
「……分からない?」
「ええ、本当に分からないのです。ただ、楓さんを呼ぶように言われただけで。」
楓は彩音が本当に何も聞かされていないと気付きました。短い期間ではありますが、彩音は嘘をついたり誤魔化したりすることが苦手なことを分かっていたからです。
「ねぇ、お兄ちゃん?……わたし、遊びに行きたい。」
彩音が何かを言うよりも、紅葉の言葉は楓を動かすのには効果的でした。
「あぁ。……そうだな。」
渋々な感じはしていますが、従うことになってしまいます。
迎えに来る時間を楓に伝えると、『わざわざ迎えまで来てくれるのか?』と驚いていました。お茶会の時も、楓は浩太郎に捉まって話をしていましたが、思い出しているのかもしれません。
学園で、澪と悠花には紅葉が訪問してきたことや、土曜日に楓が浩太郎に呼ばれていることも話をしました。
何が起こるのか分からない状況ですが、澪と悠花も来てくれることになります。紅葉が、浩太郎と知世に何を話していたのかも気になりますが、まずは土曜日です。
「あっ、せっかくですから、千和さんと渉美さんもお呼びしませんか?」
悠花の提案に、彩音も澪も同意します。
「倉本さんも、お誘いしてみたいですが……。まだ、ちょっと早いかもしれませんね。」
「……そのことで、一つだけ引っかかることを思い出した気がするんです。もう少し、頭の中を整理してからお話したいと考えております。」
あまり良い内容ではないらしいことは、澪の表情を見ていると判断できてしまいます。それでも新たな進展があることは歓迎したいことでした。
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