第68話
澪から話の続きがあったのは数日後でした。
「これは、私が夢で見たものですので、本当の記憶かどうかは分からないんです。」
そう前置きをしてから澪は話始めます。記憶なのか、ただの夢なのか、そのことを考える時間が欲しかったようです。
「眠る前に、倉本さん……、ビアンカさんのことを考えていたことがあるんです。……そうしましたら、前世の出来事を夢で見ることになりました。」
「夢の中で……、ですか?」
「はい。ソフィア様が処刑されている時、私と悠花さんは何が起きているのか分からずに屋敷にいました。……その屋敷にいるところを襲撃されてしまったんです。その時の夢でした。」
「……そうでした。ソフィア様のお誕生日をお祝いするために待っていたんです。」
澪も悠花も、その時の記憶は覚えていたようです。
ただし、彩音同様に細部は曖昧で、恐怖心だけが心に大きく刻み込まれていました。
「夢の中で、その場面になったのですが、襲撃してきた方の一人が『ビアンカ様の許可は出ている。遠慮するな!』と叫んでいました。」
「え?……それは、襲撃を許可したのはビアンカさんだったということでしょうか?」
「そんな口振りでした。」
そうなると、前世でカトレア=澪と、デイジー=悠花の命を奪ったのはビアンカ=倉本になってしまいます。
二人にとっては、恐怖の対象であったはずです。
「……ですが、倉本さんと直接お話をしても怖いとか感じることは全くありませんでしたわ。」
悠花も驚いて聞いているということは、澪にしか甦っていない言葉になります。倉本沙織を前にした二人の笑顔は自然なもので、無理やりに作ったものではありませんでした。
「私も倉本さんを怖いと感じることはありませんでした。……もしかすると、夢の中のことなので前世の出来事とは違っているのかもしれません。」
「前世の再現ではなかったと、おっしゃりたいのですか?」
「はい。そこまでは分かりません。ただ、それにしては、あまりにも具体的な夢でしたので気になってはおります。……夢のことなので、お話することを躊躇ってしまいました。」
彩音も処刑台のシーンはトラウマになりつつあります。
澪や悠花も、前世で命を落とすきっかけになったシーンであれば、無意識に防衛本能が働いて再現することは避けるはず。
「そんな夢を見せられて、全く無関係とは思えませんわね。……ただ、ビアンカさんご本人が登場されていないことも気になります。」
処刑台の上には、ソフィアと一緒に『革命の女神』がいました。顔は思い出せていませんが、ビアンカとは別人であると思っています。
ビアンカ=『革命の女神』であった場合、彩音が思い出せていないわけがないと自信を持っていました。
「ただ、澪さんと悠花さんの襲撃にビアンカさんが関与していたとして、現在の倉本さんが私たちに危害を及ぼすことになるとは思えません。」
澪と悠花は同意しました。演説の時、手を取り合って頑張りましょうという話になっています。
「はい。……夢の中のことが本当にあったことだとしても、現在は違う状況になりつつあります。」
「そうですわ。きっと、良い方向に進めていることを教えてくれたんだと思います。」
悠花の前向きな発言に、彩音と澪は笑顔になれました。
時間は進んでおり、流れに身を任せていただけの前世とは違っているはずです。
倉本沙織が前世の記憶を取り戻した時、いろいろな疑問も解消されるかもしれません。ただ、ビアンカが襲撃に関与していた場合、倉本がショックを受けることになります。
――倉本さんとの関係が良くなっているのであれば、倉本さんが前世の記憶を取り戻す必要はないのかもしれませんわ。
嫌な記憶になるのであれば、戻らない方が良いとも考えます。
――これだけ前世の記憶が関係しているのであれば、やっぱり何もせずに17歳の誕生日を迎えることは危険ですわね。
現代で、処刑なんてものは非現実的でしかありません。
何もしなくても平和な17歳の誕生日を迎えられると、心のどこかで甘く考えているところもありました。
ここで、もう一度気を引き締めることになります。
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