第60話
「……だから、私が生徒会に参加することはできないのです。」
一旦、話を戻すために彩音は二人に笑顔を向けました。
緊張感のあった空気は少し和らぎ、推薦するための打合せになりました。
「彩音様の事情は理解しました。でしたら、倉本さんを推薦することに何の異議もありません。」
新谷の了承を得られたことで、推薦する用紙に『倉本沙織』と記入して、推薦人で五人の名前が並びます。
「千和さんと新谷さん。学業と運動で学年トップのお名前が並べば、誰からも異論は出ませんわね。」
彩音の言葉を聞いていた四人が少し呆れたような表情になりました。
「……いえ、彩音様のお名前が一番効果的だと思います。」
新谷が言うと、
「そうですわね。……それに、前回の試験でトップになったのは悠花さんですわ。私ではありませんよ。」
四人は笑っていましたが、ここでもズレている彩音は取り残されてしまいます。それでも、こんな風に笑いながら過ごせている時間は嬉しく感じていました。
「……新谷さんも、ありがとうございました。」
「あのぅ、新谷さんではなくて、私も渉美で呼んでもらえませんか?」
少し照れながらの要求に彩音たちは驚きましたが、親しく話が出来るのは歓迎すべき状況です。
「はい。……では、渉美さん、千和さん、ご報告はさせていただきますね。」
そして、五人がそれぞれに雑談をした後、推薦用紙を彩音が受け取って解散となりました。
これで、倉本沙織を推薦するための準備は整いました。
――倉本さんとも、仲良くお話ができるようになれれば嬉しいですね。
敵意を込めた目で彩音たちを見ていた千和とも楽しく話ができる状況にはなれました。同じように、敵意ある目で見ていた倉本とも仲良くなりたいと考えています。
違っているのは、倉本沙織がビアンカ・オリアーニであること。
前世での関係までが影響しているのであれば、簡単にはいかないかもしれません。
まだ直接話もできていない中で、いきなり生徒会に推薦してしまうことで更に反感を買ってしまう可能性もあります。
悩みながら一夜が明けてしまい。決行の日を迎えます。
授業が終わって、まだ皆が残っているタイミングを見計らい彩音は担任に近付きました。
これだけの行動でも注目を集めてしまい、クラスの子たちの目が気になってしまいます。
過剰演出気味で、注目されることに意味があるのですが、やはり緊張はしてしまっていました。
「……先生、少しよろしいでしょうか?」
「九条さん、何かありましたか?」
多少芝居がかった反応です。良い報告を聞けると考えていた担任は、満足気な顔で彩音のお願いを聞き入れました。
「はい。今回の生徒会選挙についてなんですが、お話をさせていただきたいのです。」
彩音は大きめの声で担任と話をしているので、教室の中はザワつき始めます。『いよいよ来た』的な感覚になっています。
少し離れた場所で、澪と悠花は緊張しながら見守っていました。
「ええ、立候補者が不在で学園としては困った状況なんですが、九条さんが立候補してくださるのですか?」
「いいえ、私は最初にお断りした通り、立候補はいたしません。……ですので、生徒会会長には倉本沙織さんを推薦したいと思っております。」
「……え?」
期待していた状況とは違ってしまい、担任はおかしなリアクションをしてしまいます。それは、周囲で聞いていた生徒たちも同じで気が抜けたようになってしまいます。
そして、推薦用紙を担任にかざして、推薦人も揃って準備は万端整っていることを証明しました。
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