第52話

「彩音様、瀧内さんとのお話は成功したみたいですね。」


「瀧内さんの表情が全然違って見えますものね。」


 悠花と澪は気を使って離れてくれていたようです。二人で直接話をした方がお互いを理解しやすいと考えてのことでしたが、保険として楓を座らせておきました。

 理事長と楓のやり取りを見ていたり、彩音に色々と助言をしていることも聞かされていたので、悠花と澪の中で楓に対する評価は変化していました。



 一通りの写真を撮り終えたところで、お茶会は再開。

 テーブルは三つに分かれることになり、彩音たち四人は同じテーブルを囲んでいました。知世は紅葉を楽しそうに面倒見ており、楓は浩太郎に捕まっている状態です。


「…………それでは、瀧内さんも生徒会に立候補することはないのですね?」


 澪と悠花は、どんな話をしていたのか説明を受けました。


「はい。申し訳ありません。……いろいろなことを知ってしまった今、生徒会に参加する気分にはなれないので。」


「仕方ありませんわ。瀧内さんのお立場で考えれば、同じ判断になると思います。」


「そうですわ。……それに、熱意を持って頑張っている瀧内さんのお姿が見られないのなら、意味のないことになります。」


「……ありがとうございます。」


 澪と悠花から無理強いするような言葉はなく、千和の判断に同意してくれます。そのことも千和は意外に感じていました。澪や悠花の立場であれば彩音を守るために、千和へ立候補を促すと考えていたからです。


「……と言うことなので、別の方法を具体的に考えていかなければなりません。そのために、瀧内さんのお力もお借りしたいのです。」


「えっ!?私でお力になれることがあるんですか?」


「もちろんですわ。」


 彩音が自信たっぷりに千和に伝えます。


「生徒会で立候補者がいなければ、推薦することが出来るはずです。投票日の一週間前までに立候補者がいなければ、推薦することが可能になります。」


 これは彩音たちが事前に用意していた別の手段でした。

 推薦された生徒は信任投票だけとなり、過半数以上の信任票を集めるだけになります。


「ですが、望んでいない方を無理やり生徒会へ推薦することも少し躊躇いがあるのです。」


 千和としては、強引な手段を躊躇っている彩音たちに好感を持っています。


「瀧内さんで、誰かお心当たりはないでしょうか?……生徒会に参加することを望んでいるのに、立候補を躊躇っているようなお方。」


 正直、質問しておきながら、そんな都合の良い人物がいるのかは疑問でした。


「……やはり、そんな方は難しいでしょうか。」


 澪が声をかけた後、千和を除いた三人は顔を見合わせて今後の対応を新たに考えるべきか悩んでいましたが、


「……お一人、いらっしゃいます。」

 

 千和からの返事を受けた三人は同時に『えっ!?』と声を上げました。一気に注目を集めたことで千和は照れてしまいます。


「そのお方は、生徒会へ参加することを望んでいるのですか?」


「はい。」


「ですが、立候補することには躊躇いがある?」


「はい。」


「……そんな方が本当にいらっしゃるのですか?」


「はい。」


 自信ありげな千和の答えを聞いて、自分たちで聞いておきながら驚きを隠せません。千和に心当たりがなければ、知恵を借りて探していこうとしていたのです。


「ちなみに、その方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「はい。倉本沙織さんです。」


「……倉本……、沙織さん?」


 生徒会に参加したいと考えている意欲的な生徒であるはずでしたが、三人は名前を聞いてもスグに顔が思い出せません。

 試験の結果発表で上位者に名を連ねていることは思い出せていました。ただ、もともと成績に関心が薄い三人だったので、名前と顔を一致させることはしていません。

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