第53話
「倉本さん、小学校の時には立候補したことがあったんです。……でも、ほとんど票が集まらなくて落選してしまいました。」
「そうなんですか。」
「当選した子は目立ちたかっただけで、当選した後に『別に、やりたかったわけじゃない』って言っているのを聞いてしまったんです。」
「やりたくなかったのに立候補したんですか?」
「はい。ただ目立つことをしていたかったんだと思います。……そんな子に負けてしまったことがショックだったんですね。」
彩音たちには『目立ちたいだけ』で立候補してしまうことが理解できませんでした。真剣に取り組もうとしていて、そんな考えしかない人物に邪魔されてしまえば嫌になるかもしれない。
「それでも、生徒会長の立候補者が出ていない現状で悩んでいるんだと思います。……先日、私に『今回は立候補しないの?』って聞いてきたんです。」
それが事実であれば、彩音たちも一度会ってみたいと思っていました。週明けに千和が教えてくれることになります。
「ですが、彩音様は、どうして生徒会に立候補されるのが、そんなにお嫌なんですか?」
「…………17歳の誕生日を幸せな気持ちで過ごすため、と言ったところでしょうか。そのためには、流されるままに生活していてはダメな気がするんです。」
全く想像していなかった答えに千和は困惑してしまいます。
それでも、彩音、悠花、澪、三人は真面目な顔をしているので冗談を言っている雰囲気ではありませんでした。
彩音も千和と友人になることを宣言した以上、出来るだけ隠し事は少なくしたいと考えていました。前世のことを言っても信じてもらえるかは分かりませんが、いずれは話をすることになるかもしれません。
「いずれ、ちゃんとお話を出来るようにします。……それまでは信じていただけないでしょうか?」
「……はい。……でしたら一つお願いがあります。」
「?……どうぞ。」
「私のことは『千和』とお呼びいただけませんか?」
穏やかに千和が三人に微笑みかけました。
お茶会に招待されて、こんな話を聞かされて、千和にとっては情報量の多い一日になっていました。そして、これまで接点もなかった彩音たちと友人にまでなってしまっています。
これ以上は千和の処理が追いつかなくなるので、ゆっくりと時間をかけて知っていこうと考えていました。
驚きや戸惑いと同じくらいに、千和はワクワクしてしまっています。これから起こることに自分も参加できることへの高揚感です。
倉本沙織とは会って話をすることになるかもしれませんが、現時点で満足できる結果は得られました。ここまで話が出来ていれば、あとはお茶会を楽しむだけでいいはずです。
――ですが、このままだと楓さんや紅葉さんとは今日限りとなってしまいますね。
浩太郎と楓の仲は良くなっているようでしたが、今後のことも考えなければなりませんでした。
電話で相談することは可能でしたが、それだけの関係になってしまうこともあり得ます。出来れば直接会える機会が作れるようにしておきたいです。
今回の件で、ズレていることには気付いているので楓の感覚を頼りにしていることもありましたが、彩音の個人的な感情が大きく関わっています。
紅葉は知世とお菓子を食べたりして楽しそうにしていましたが、浩太郎と一緒にいる楓は助けを求めるようにチラチラと彩音たちの動向を窺っていました。
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