第51話

「彩音様も、紅葉さんと並んでお写真を撮りませんか?」


 千和との話がまとまったところで、澪から声をかけられました。

 もちろん断る理由もないので、すぐさま立ち上がって撮影会に参加することになりました。


「あのぅ、水瀬さんは、彩音様のお友達とお聞きしたのですが……?」


 テーブルに残されていた千和は楓に質問をしました。彩音からは十分な説明を得られないことが分かって、直接聞いてみることにしたのです。


「……友達っていうのも、どうかな?……俺も友達になっていたことには驚いてる。」


「えっ!?違うんですか?」


 楓は、これまでのことを簡単に千和に話してみた。話をしながら、楓自身も今の状況を謎に感じてしまっています。

 それでも、浩太郎と話をしていた中で浩太郎が楓に関心を持った理由は二つ聞かされていました。


 一つは、彩音たちを介抱した時の行動でした。それに関しては、周囲がオロオロしているだけで一早く動き出せた楓が注目を集めただけにすぎません。

 ただ、浩太郎が直接介抱している場面を見ていた時間は短かったので、もう一つの理由が大きかったと言っていました。


「君が屋敷に飾ってある絵を、すぐに複製画だと見抜いたところを偶然見ていたんだ。」


 楓と同じように臨時で呼ばれていたスタッフとの何気ない会話だったことは覚えています。たったそれだけのことが大きかったと浩太郎は言いました。

 この屋敷にある物は全て原画であると疑わない人が多い中で、すぐに判別していた楓は印象に残っているようでした。


「……あの絵は日の当たる場所に飾られていましたから、他の物はちゃんと考えて飾られているのに不自然に感じたんです。本物と偽物を区別できたわけじゃありませんよ。」


「それだけだったのかな?……君は自信を持って、『これはレプリカですね。』っと言ってたんだが?」


 それ以上の追及はありませんでしたが、『興味を持つには十分な理由だよ。』とまとめられてしまいました。



「……だから、本当に紅葉の付き添いでしかないんだ。友人と呼ばれるほどの関係性はないんだよ。」


「それなら、私も今日から彩音様の友人になったみたいですよ。……同じですよね?」


 一通りの話を聞いていた千和が笑いながら楓に言いました。千和も突然に彩音の友人枠に入ることになったのだから、同じ立場であるとも考えられます。


「まぁ、友人かどうかは別にして、ズレているから少し相談に乗ってたんだ。」


「……私のことも……、ですか?」


「少しだけね。答えが目の前にあるのに、全然見当違いのところを見ているから少し助言した。」


「そうでしたね。水瀬さんも理事長とお会いしてたんですから、当ですよね。」


「……それに、兄妹を利用するのは卑怯だよね。」


「妹さんが、私と同じように行動していたら、どう思いますか?」


「うーん、怒るかな?……そんなことは望んでないって。」


「そうですよね。」


「でも、俺たちみたいな人間には縁遠い話だから単純に言えるのかもしれない。……でも、紅葉がそんなことをするのは嫌だね。」


「……はい。」


 家庭環境が全く違うので当事者にしか分からないこともあります。それでも、断言して千和に伝えました。


「今日、このお茶会に参加することになって良かったと思います。……ずっと彩音様たちを誤解したままで、見当違いに恨んでしまうところでした。」


「ズレてはいるけど、恨まれるような悪人ではないと思う。……いや、ズレてるから恨まれるようなことになるのかな?」


 最後の言葉は楓の独り言のような呟きになっていました。

 それからは、楓と千和が巻き込まれての撮影会が始まります。

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