第50話
彩音が生徒会へ立候補するように催促されたのは、今回が初めてではありませんでした。これまでも瀧内千和の存在がなければ、強引に彩音が生徒会に参加させられる流れを作られていたはずです。
「……あのぅ、彩音様?……どうされましたか?」
惚けた顔で彩音が自分のことを見ているので、千和が戸惑ってしまいます。まだ一時間も経っていない中で、彩音に対する千和の印象はガラリと変わってしまっていました。
「あっ、申し訳ございません。……それで、私が生徒会に立候補しなければ、瀧内さんが立候補してくださるのですか?」
「えっ……、それは……。」
千和の反応が良くないのは一目瞭然です。
彩音としても、自分がやりたくないことを千和に押し付けるような方法は選びたくありません。
ただ、それだと、これまでの千和が生徒会に渋々参加していたことになってしまいます。渋々とか嫌々とか、千和の態度から感じ取るようなことは一切なかったので疑問でした。
答えにくそうにしている千和を見ていた楓が、
「まぁ、普通は、そう思うよな。」
と、千和の気持ちを代弁するように言いました。
彩音は、楓が『普通は』と言ってしまったことに過剰に反応します。全く理解できていない顔で聞いていた彩音が、少し恨みがましい顔になり楓を見ました。
楓も空気が変わったことを敏感に察知して、慌てて言葉を付け足します。
「あ、あれだろ?……瀧内さんとしては、テストの件もあるから学園に対して不信感が生れてるから、生徒会に参加する意欲もなくなってるんだろ?」
「……そうですね。……不信感とまではいきませんが、あまり積極的に学園のことに参加したくない気持ちはあります。」
「一生懸命やってたからこそ、裏切られた時の反動は大きいんだよ。」
最後の言葉は彩音に説明するように語られました。それを聞いていたい彩音は、『なるほど』の表情に変わって頷いています。
――そうであるなら、瀧内さんにお願いするのはいけませんね。
当然、彩音自身も立候補する気持ちはありません。千和にも立候補するようにお願いすることも選択肢から消えました。
それでも、今回は既に別の手段も考えてあるので彩音は落ち着いています。
「……これまでは、生徒会に参加できていたことで、何かお役に立てることがあればと考えていました。……ですが、今回のことで、それも全く意味のないことだったと思うようになってしまったんです。……もう、以前のような気持ちになることはできません。」
「そんなことありませんわ!……勉学を疎かにすることなく、生徒会に参加されていた瀧内さんは素晴らしいと思います。生徒会で皆の前に立っているお姿は清廉で凛々しくて素敵でした。……意味がないことだなんて絶対にありません。」
彩音が力説する言葉で、皆の注目を集めます。
そして、突然の誉め言葉で真っ赤になってしまっている千和に微笑んで、皆はそれぞれの時間を過ごし始めました。
「瀧内千和さん、私の友人になっていただけませんか?」
気持ちが高ぶっていた彩音が思わず言葉にして伝えてしまいます。多少の困惑状態に陥った千和は、彩音の勢いにつられてしまい、
「あっ、はい。よろしくお願いいたします。」
となっていました。
この返事を後悔することはなかったのですが、友人関係を宣言された体験として貴重な思い出となります。
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