第49話
「……あのぅ、彩音様に一つお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
彩音と千和、そして楓がテーブルを囲んで座っていた。
他の面々は紅葉の撮影会のようなことを始めてしまっている。カメラマンはタエであるが、かなり本格的な機材を使いこなして機敏に動いていた。
「本日のお茶会、どうして私が招待されたのか教えていただきたいのですが。」
「えっ?……そうですわね。……それは……あのぅ……。」
彩音も話さなければならないと思っていましたが、突然に質問されてしまったことで慌ててしまいます。
彩音と悠花と澪の関係性、浩太郎という人物を誤解していたことが判明した今、千和も正直に話をしようと思っていました。
「九条さんは、この前のテストで瀧内さんが気を使ったんじゃないかって心配してたんだよ。『誰か』から『何か』言われたんじゃないか……って。」
「あっ……。」
答えに迷っていた彩音に代わって楓が答えました。その答えが、あまりに正直だったので彩音は驚きます。
「……不自然でしたでしょうか?」
「だね。……本来なら、あまり登場しないはずの人物が出てきてるし。」
「……理事長ですか?」
「はい。……廊下で、テストの結果をご覧になっていました。」
「兄のこともご存じなんでしょうか?」
「あっ……、申し訳ございません。」
「いえ、それで私も招待された理由を納得できた気がしております。お気になさらないでください。」
「ありがとう、ございます。」
到着した直後と現在で、千和の様子は違っていました。スッキリとした表情をして、いつもの凛とした雰囲気が戻ってきています。
「……理事長は、彩音様が学園の顔になるべき人物だとおっしゃっておりましたわ。そのためには、周囲が『わきまえる』ことも必要になる……、と。」
「教育者の言葉じゃないな。」
「そう思いましたが、学園の生徒たちのほとんどが出来ていることらしいです。」
「……そんな悲しいこと、私は望んでおりません。」
「分かってるよ。……だから、ちゃんと『わきまえてない』二人がいるんだろ?」
楓は悠花と澪を見て言いました。彩音と千和も同じように二人を見ています。
「そうですね。私も、悠花さんと澪さんが不思議でした。……ですが、今日、お二人が彩音様の本当のご友人だったことが分かりましたわ。」
「まぁ、ただの友人が『こんな写真』を大切に持っているのもへんだけどな。」
楓が持っていたのは、彩音が8歳のころに赤いドレスを着ていた写真です。発表会を前にして不機嫌そうな顔で立っている彩音が写っていました。
「えっ!?どうして、楓さんが、その写真を持っているんですか?」
「さっき、俺にもくれたんだ。」
「あっ、私も頂きました。」
千和も写真をテーブルの上に置きました。これには彩音も少しムッとした表情を見せて、澪に無言の抗議をしています。
まるでお茶会の記念品のように彩音の写真が配られていることになっていました。楓の写真を回収しようと手を伸ばしてみても、スッと躱されてしまいます。
「学園の顔が、こんな不機嫌そうにしていたら印象が悪いとおもうんだけどな。」
「……仕方ありませんわ。……人前に立つことが苦手だったんです。」
前世の記憶が戻ったのは最近のことでしたが、こんな時から無意識に人前に出ることへの苦手意識があったのかもしれません。
実際に、ピアノを習い続けていても発表会に出たのは8歳が最後になりました。
「……人前が苦手なのですか?……でしたら、彩音様が生徒会にご参加されるというお話は?」
「ずっと、お断りしております。」
「そうだったのですね。……今回は、彩音様が立候補されるとお聞きしていたのですが、それも違ったのですね。」
もう一つの課題が出てきたことになりました。そして、彩音はハッとして、あることに気付くことになりました。
今回は、かなり執拗に生徒会に参加するように言われていますが、これまで断ることができたのは千和の存在があったからです。
――私が断っても、瀧内さんがいてくれたから周りが諦めてくれていたのかもしれませんね……。
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