第43話
彩音はタエから受け取った招待状を二人にも見せました。
「今度のお茶会に瀧内さんもお誘いしてみようかと思っているのですが、いかがでしょうか?」
二人は驚いた顔をして、『まぁ!』と声を上げました。
そして、すぐに頬を紅潮させて、期待している表情に変化していきました。
「瀧内さんは、誤解されていることがあるのかもしれません。……分からないことを悩んでいるよりも、瀧内さんと仲良くなって直接お話をしてみたいんです。」
「それは素敵なことだと思いますわ。」
「はい。彩音様のことや、彩音様のお父様のことを知っていただく良い機会になると思います。」
悠花と澪から反対するような言葉は聞こえてきませんでした。勝手に招待状まで準備してしまっていたので、意見されることも覚悟していたのですが杞憂に終わりました。
「……では、来週お渡ししてもよろしいでしょうか?」
楽しそうな顔の二人は『はい』と声を揃えます。彩音はホッとして胸を撫で下ろしました。
「……実は私、瀧内千和さんのことが気になっていたんです。」
悠花が遠慮がちに語り始めました。
「成績が良いだけではなくて、生徒会にもご参加されて、完璧な印象があります。そんな瀧内さんと仲良くしてみたかった気持ちは、ずっとあったんです。」
身長はそれほど高くありませんが、いつも背筋をピンと伸ばしていることで品があり目立つ存在です。ただ、笑顔を見せたりすることが少なく厳しい雰囲気があるので、近寄り難い印象を受けてしまいます。
「意外ですわ。……お話されたりしたことはあるんですか?」
澪の質問に悠花は首を横に振りました。
「なかなか、きっかけが見つからなくて……。」
瀧内と雰囲気が近いのは澪の方で、悠花はふんわりとした感じの女の子でした。三人が出会ったのは幼稚園のことなので自然と仲良くなっていましたが、瀧内千和と新たな関係性を築くのは難しいのかったのかもしれません。
それは相手も同じことになり、この三人と積極的に深く関わろうとするには壁がありました。本人たちは意識していなくても学園内での三人は特別な存在となっているのです。
「……彩音様と一緒にいて、完璧は存在しないということが分かりましたわ。……ですから、瀧内さんにも苦手なことがあったり、おっちょこちょいなところがあるはずなんですわ。」
「もしかして、そんな一面を発見したいのですか?」
「はい。……私、『ギャップ萌え』というものに興味がありまして、ずっと探しております。……最近は、彩音様のおっちょこちょいなところは見慣れてしまった感じだったので。」
「はぁ……。」
彩音は悠花が失礼なことを言っていることに気が付いていません。悠花が本から得た知識で、二人が予想していないことに興味を持っていたりもするので、
――私のものは見慣れてしまった『ぎゃっぷもえ』って、一体何なんでしょう?
と考えてしまうだけでした。
言葉を理解して聞いている澪は、二人の横で平静を装いながら紅茶を飲んでドキドキした気持ちを落ち着けます。
「……ですが、お二人から賛同いただけて嬉しいですわ。」
結局、悠花が『予想以上に乗り気になってくれた』ことが分かったことで彩音は満足してしまいます。
「あと、もう一つ考えていることがあるのですが、聞いていただけますか?」
彩音が真剣な顔に変わって続けたので、二人も注目します。
「まだ、思いつき程度でしか考えておりませんので、具体的に決めているわけではありません。……ただ、思いついてしまった以上は、お二人にもお伝えしておきたいんです。」
彩音は自分用に渡されていた手帳を開いて、最初のページに何かを書き始めます。
そして、悠花と澪が覗き込むようにして、彩音が書いた言葉を見ていました。
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