第44話
彩音が書き終わった文字を読んでも、二人はあまり驚いた様子を見せていません。それなりに衝撃を与えることを覚悟していた彩音は拍子抜けでした。
――私、書き間違いでもしたのでしょうか?
自分の書いた文字を読み返してみても間違いはありません。
「……悠花さん、澪さん、ご理解いただけましたでしょうか?」
「はい。もちろんですわ。」
澪が力強く返事をしました。隣りで悠花も頷いています。
彩音が伝えたかったことを二人は理解しており、しっかりと受け止めていました。
「実は、私も彩音様や澪さんにご提案してみたかったことなんです。……もしかすると、今回の件は、前世との繋がりを絶つためのヒントかもしれないと考えておりました。」
「そうですわね。前世と違う道を選ぶことも必要だと思います。」
彩音よりも悠花や澪の方が、ずっと前向きに考えていたのかもしれません。それと同時に、考えていることを二人に伝えることを迷うことが無駄に思えていました。
「……重大発表的にしたかったのですが、残念ですわ。」
彩音は今書いたページを手帳から取り外しました。その動きを目で追っていた悠花が慌てた様子で声を発しました。
「彩音様、それはどうされるんですか?」
「えっ……、他の人には見られたくありませんので、処分しようかと……。」
「でしたら、私に頂けませんか?……見つからないように大切に保管しますので。」
「……はぁ、別に構いませんが、保管するような物ではありませんよ。」
「いいえ、彩音様が重大発表で書かれた文字ですから記念に保管しておかないといけませんわ。」
彩音は意味が分かりませんでしたが、悠花から妙な熱意を感じています。
「あっ、右下に彩音様のお名前も書いておいてください。」
言われるがままに彩音は自分の名前も書き足しました。
その一連のやり取りを黙って見守っていた澪が少しだけモジモジしながら、
「……彩音様、同じ物をもう一枚、お願いします。」
「えっ?」
「私も記念に残しておきたいので、もう一枚書いていただけませんか?」
そして、彩音が書いた物を自分の手帳に大事そうに挿みました。重大発表と思っていたことが不発に終わったばかりか、意味が分からない記念品になってしまったことに困惑するしかありません。
困惑している彩音の前には満足そうな二人の笑顔がありました。
帰りがけになって、澪から、
「お茶会に瀧内千和さんもご招待することを楓さんと紅葉さんにもお伝えしておいた方が良いのではありませんか?」
と言われていたことで、彩音は楓に連絡をしました。
瀧内千和の件についての話は理解していたので、お茶会に誘うことを聞かされた楓の反応は、
『……いいんじゃないか。……わざわざ俺たちに断りなんか入れなくても良かったのに。』
「そんな。……楓さんと紅葉さんも大切なお客様ですから、事前にお知らせしておかないといけませんわ。」
『まぁ、ありがと。……それで、瀧内って子に招待状を渡すんだろ?』
「はい。来週お渡しする予定です。」
『それなら、出来るだけ目立つように渡した方が面白いかも。』
「目立つように……、ですか?……ですが、あちらにご予定があれば、断りずらくなってしまうかもしれません。」
『断られることなんて、絶対にないだろ。』
断られることはないと言い切れる理由は分かりませんでしたが、こんな時の楓は自信を持って話します。彩音に考えが足りていないだけかもしれませんが、従ってみることにしました。
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