第42話
学園では静かに状況を観察して、変化が生じていないかを確認します。テストの結果については一過性のもので、尾を引いているようなことはありませんでした。
5月に入ると生徒会選挙があるのですが、候補者の名前が少しずつ出てきています。ただ、会長の立候補者が空席になっていることが少し話題になっています。
「瀧内さん、会長以外でも立候補するご予定はないんでしょうか?」
「まだ選挙は先ですから、これからですわ。」
周囲の人たちも瀧内千和が会長になるだろうと考えており疑っている気配はありませんでした。
それでも、新学年が始まったばかりのソワソワした感覚があるだけで異変とまではいきません。
学園から戻り、彩音の屋敷での定例会議。開始する前に悠花から手帳の配給がありました。
悠花はピンク色、澪は黄色、彩音はオレンジ色で手帳とペンがセットになっています。色違いではありましたが、同じ物で買い揃えたようです。
「……悠花さん、これは……?」
「はい。前世の記憶で思い出したことやこれからのことを三人で共有するための物ですわ。……雰囲気を出すために手帳で揃えてみたのですが、いかがでしょうか?」
「ええ、大変すばらしいと思います。スマートフォンに記録したりするよりも、何だか戦っている感じが出ますわ。」
約款戸惑い気味になっている彩音とは違い、悠花と澪は盛り上がっていました。
「……私たち、戦っているんですか?」
もしかすると、彩音を守ったことによって二人のやる気が引き出されていました。
――先日、感謝の気持ちを伝えてから、お二人が前向きになってくれていることは喜ばないといけませんね。
悠花と澪は、彩音を守るという使命感のようなものを抱いているのかもしれません。気分としては得体の知れない何かと戦っている状況を演出していました。
「それでは、彩音様のお話から始めていただけないでしょうか。」
澪が進行役のようなポジションになっています。
二人が手帳を開いてペンを構えて待っていることで、彩音には不思議な緊張感があります。この二人と一緒にいる時に緊張することは初めてのことでした。
「……あのぅ、そのように改まった態度では、何だか緊張してしまうのですが……。」
「何をおっしゃっているんですか、大切なことですから集中しないといけませんわ。」
澪に注意されてしまったことで、彩音は二人のやる気を引き出してしまったことを少しだけ後悔していました。
彩音はテストのことや瀧内千和の兄の会社のことを、たどたどしくなりましたが説明を進めます。そこに楓から聞かされた話や、理事長が絡んでいる可能性についても言及しました。
「……彩音様のお父様が、そんなことで手心を加えることなんてありませんのに……。」
悠花が静かに漏らした言葉に澪が頷いて同意しています。
規模こそ違っていましたが、二人の父親が経営している会社も瀧内兄の会社と立場は同じことになります。
彩音『様』とは呼んでこそいますが、二人の言動には浩太郎の存在を感じさせるものはありませんでした。
「ですが、それは『仕方のないこと』らしいのです。」
「諦めるしかないと言うことでしょうか?」
「いえ、諦めるつもりはありませんわ。……楓さんがおっしゃることだと、『知らない』から『仕方ないこと』になるそうなので、知ってもらうことから始めようと思っております。」
そこまで話をしてから、彩音はタエを呼びました。
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