第34話

 学園での出来事で異変は続きました。

 学年が上がってすぐに実力試験が実施されていました。これは年間予定にはなく、実力を測るために抜き打ちでテストをすると説明を受けています。

 聖ユトゥルナ女学園は余程のことがない限り高等部へ上がることができるので、抜き打ちのテストが行われても慌てたりはしませんでした。

 ただ、『変な時期にテストをするんですね?』くらいにしか話題に上らなかったのですが、問題は結果でした。


 毎回、テストの結果は上位50人の名前が廊下に張り出されることになります。


「あら?今回の1位になっているのは悠花さんじゃありませんか。素晴らしいですね、おめでとうございます。……それに、澪さんが2位なんですね。」


「ありがとうございます。……彩音様は3番だったのですね。」


「ええ、また細かなミスをしてしまいました。その割には、良かった方だと思いますよ。」


 三人で当たり障りない程度の会話をして、テストの結果の話をしていました。

 上位であっても三人に喜びはありません。テスト結果に関心がないのではなく、この結果があまりにも不自然なことを気味悪く感じていました。

 そして、何人かの生徒が張り出された順位で盛り上がっている後ろには理事長の姿があります。


――この状況で、瀧内さんが5位になっているなんて……。さすがに鈍感な私でも怪しいと気付けますわ。


 順位に納得していない様子で眺めている理事長を三人は横目でチラチラと見ました。


 最近の彩音は裁縫を習得することが優先になっており、勉強に集中できていませんでした。そのことが彩音を3位という微妙な結果にしてくれて、理事長の思惑通りにはいかなかったようです。


「……瀧内さん、わざと順位を落としたんでしょうか?」


 悠花が小声で二人に話しかけてきました。悠花本人が実力でトップになったわけではないと疑っています。


「ですが、瀧内さんがそんなことをする意味があるんでしょうか?」


 澪も小声で答えています。理事長の存在を気にしてのヒソヒソ話でしたが、振り返ると理事長の姿は見えなくなっていました。

 その代わりに、三人を睨むようにして見ている瀧内千和が立っています。彩音が振り返ったことで瀧内千和はその場を後にしましたが、その瞳に宿る嫌な感覚は彩音の中に残ります。


――『反感を買うかもしれない』、楓さんがおっしゃっていたのは、あの瞳のことだったんですね……。


 ただ、反感を買うことになったとしても彩音たちは何もしていません。理事長が何を画策しているのかも分かっていません。

 ソフィアが処刑台の上から見た観衆の瞳は、もっと闇が深くて憎しみの色が濃い物でした。瀧内千和の瞳には悲しさがあったように彩音は感じています。


――……怖い……。


 理事長がテスト結果を見に来ることなんて一度もありませんでした。

 彩音のところへ突撃訪問をしてから一ヶ月も経っていない状況で、その時に指摘された生徒会とテスト結果で急激な展開があれば恐怖を感じます。

 そして、三人に恐怖を与えている存在がミケーラ学園長であれば、前世との繋がりを考えるしかありませんでした。


「……どうすれば良いのでしょうか?」


 一番上に名前が書かれている悠花の不安げな言葉。素直に喜べていない悠花を見ていると可哀想でした。

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