第35話
学園内で話しにくいことは会議の議題になります。一日も早く集まりたかったのですが、その日は開催予定日ではなかったため澪に用事がありました。
何もなかったとしても、周囲の目を気にするようになってしまいます。それは彩音だけではなく、悠花と澪も同じことでした。
――瀧内さんから、あんな目で見られるなんて……。私たちは何も責められるようなことはしていないのに……。
瀧内千和が一位陥落となったことは当然話題になっています。抜き打ち的に行われたテストで一位を取れなかったことで、彼女の実力そのものを疑うような内容で噂されていました。
――もう!あの理事長は何を考えているんですか!?
彩音は、珍しく叫びだしたいほどに不機嫌になっていました。
――私に何かさせたいのであれば、他の方を巻き込むなんて卑怯なことをせず正々堂々と来てほしいですわ。
紅葉の採寸方法は別にして、彩音は基本的にコソコソ何かをしたり、されたりすることが嫌いでした。
特に今回は瀧内千和が巻き込まれている可能性が高いのでイラ立ちも大きいものになっています。
「ちゃんと頑張っている人が正しく評価されなくなるような状況は絶対にダメなんです!」
学園から帰ってきた彩音は自分の部屋の中で立ち上がって声を上げました。対応策が分からなくても、今回は弱気にならないように自分を鼓舞します。
ちょうど、そんなタイミングでスマホが鳴ります。
「……えっ!?あっ……楓さんから。」
まるで見ていたかのような絶妙な着信でした。
「……あの、九条彩音です。」
緊張のあまりフルネームで応答してことで、電話の向こう側から楓の笑いが聞こえます。
『今、大丈夫か?』
「大丈夫です!全く問題ございません。」
『えっと、あぁ、そうなんだ。……あれから何か変わったことがなかったか気になってたんだ。俺も不吉なこと言っちゃったし。』
鼓舞した後の彩音の勢いには、楓も少しだけ困惑した様子でした。それでも、気にされていただけで彩音は嬉しくなります。
テストのこと、そのテスト結果を理事長が不満気に眺めていたこと、瀧内千和のこと、順序立てて楓に話しました。もちろん、理事長が前世と関りがあるかもしれないことは伏せて話すしかありませんが、楓は冷静に聞いてくれます。
『……だいたい分かったけど、こんなにも早く動き出すなんて予想以上だった。……でも、あの理事長がバカで助かったな。』
「えっ!?……あの、理事長が……その……。」
会話の中で『バカ』のような単語を使ったことがなく、聞き返すことにも躊躇いがありました。
『あぁ、悪い。通ってる学校の理事長を悪く言われたら怒るよな?』
「あっ、そんな、怒ったりはしてません。……ただ、理事長をそんな風に見ていたことが意外だったので。」
『意外かな?十分に頭の悪い行動だと思うけど?』
理事長のことを『バカ』と言ったことも意外でしたが、『助かった』と言われたことも気になっています。
『……こんなにも分かり易いタイミングで行動してくれたおかげで、あの理事長が何か画策してることがバレバレだ。それに、ちゃんと対応策を考える時間もある。』
「そうですわね。私たちも気が付いたくらいなので分かり易かったと思います。でも、対応策があるんでしょうか?」
『それは、これから見つけるんだよ。……でも、たぶん大丈夫だ。』
やる気になった直後に、楓から安心させられる言葉を聞けたことで彩音は気持ちが高ぶっていました。
『まずは、順位を落とした子の家族を簡単に調べてみた方がいいんじゃないか?』
「えっ、学園を調べるのではなくて、瀧内千和さんのご家族を調べるのですか?」
『あぁ、何となく、そっちの方が正解に近い気がする。』
「……わ、分かりました。」
同級生の家族まで調べることになり、彩音は緊張しました。それでも楓の勘であれば信じてみたと思っています。
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