第32話
お茶会は楓の言葉を受けて4月末くらいを予定しています。どんなドレスを選んでいるのかはお互い内緒にしておき、紅葉が誰の物を着てきたかで結果発表をすることになりました。
「……あのぅ、細かなお直しは必要になると思うので、私にお裁縫を教えてもらえませんか?」
「えっ!?彩音お嬢様が……、でございますか?」
最初は驚いていたタエも笑顔になり、
「かしこまりました。それでは、ドレスを出しておかないといけませんね。」
彩音は他の誰かにしてあげたいと思うことがあっても、自分が行動する前に解決してしまうことばかりでした。両親への誕生日プレゼントすら自分で選んだこともなく、当日の朝に準備されている箱を渡すだけになっていました。
全てにおいてタエが言うような心が動かされる場面は少なく、記憶に残るような日はありません。
――あの日の出来事は、きっと忘れないと思います。こうやって、記憶に残ることを増やしていけるように頑張らないと!
理事長と対峙したことや楓に助けられたこと、卑怯だと思いながらも監視カメラの映像を澪と悠花に内緒で進めていること。
――ソフィアとは違う道を選ぶことが必要なのかもしれませんね。
変化のない平穏な毎日を送ることが幸せであるとも思いますが、ソフィアと同じ時間を過ごすわけにはいかないのです。
聖ユトゥルナ女学園は基本的にクラス替えがないので、4月になって進級したからと言っても何も変わりません。タエの裁縫指導を受けながら、お茶会を待つだけのはずでした。
「……あれから、お父様は学園のことで何かお話しされたりはしていませんか?」
あの日以降、何故だか頻繁に出会うようになった理事長は同じ質問をしてくることが少し煩わしいです。それだけに止まらず、
「今回、生徒会長へ立候補する人が誰もいないので、学園としては九条さんを推薦したいと考えております。」
理事長の話と連動するように担任からの話がありました。
「……ですが、生徒会選挙は来月です。これから立候補される方が出てくると思います。……それに、私は生徒会に参加する意思はありません。」
「現段階で立候補を予定している生徒がいないので、学園としては先手を打って考えておく必要があるんです。……その時は、九条さんが快く引き受けてくれるように願っております。」
理事長との話を聞いていた澪と悠花に報告すると、やはり怪訝な顔をしていました。
「……生徒会には瀧内さんが昨年も参加されています。瀧内さんが生徒会長に立候補されるはずなんですが……。」
澪が語る瀧内千和は成績学年トップで、生徒会書記を務めていました。当然ながら引き続き生徒会で役職を上げて立候補すると考えられていました。
「なんだか、あまり良い展開に進んでいないような気がするのですが……。」
「ですが、悠花さん、私が生徒会に参加するのか、しないのかだけの問題ですよ。……それほど神経質に考えない方が良いのかもしれません。」
「そうでしょうか?井戸川理事長とミケーラ学園長に関係があれば、この選択は重要になると思うのです。」
珍しく少し強めの口調で悠花が彩音に言いました。
「……でも、瀧内さんは本当に立候補されないのでしょうか?」
澪の疑問が解消されてしまえば問題はありません。瀧内千和が立候補してくれさえすれば理事長が何を言っても彩音は生徒会と無関係でいられるのです。
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