第30話
「進級して落ち着いてから、と楓さんもおっしゃっていたので、4月以降になると思います。それまでに、それぞれ準備を進めておきましょう。」
悠花と澪も頷いて答えてくれますが、心の中は読めないので二人の本気度は分かりません。笑顔で聞いていますが、二人も負けず嫌いなところがあるので油断大敵です。
「……あと、理事長の件も何か思い出したことがあれば、学園のことを知るきっかけになるかもしれません。些細なことも情報共有をするようにしましょう。」
進展は微妙な状況となりますが、二人が帰ってからの彩音には急いでやらなければならないことがあります。
澪と悠花を見送った後、部屋の片付けをしているメイドを見つけて声をかけました。
「タエさんのお戻りはいつころになるのでしょうか?」
「あっ、はい。明後日からは仕事に戻ると聞いてます。……何か問題でもあったのでしょうか?」
「いえ、そうではありません。タエさんにお聞きしたいことがあったんです。」
日下部タエは、この屋敷で働く人たちをまとめている人物でした。浩太郎が生れた時には既に働いており、今年は喜寿のお祝いをしました。
孫の結婚式に出席するために海外へ行っており、しばらくは休みを取っていました。彩音の誕生日で人員不足を起こしていたことも、今日のようなバタバタがあったことも、タエが不在であったことが起因しています。
彩音はタエが戻る日を確認した後、警備室に向かい監視カメラの映像データを自室のパソコンに転送しました。
門やエントランスに監視カメラは設置されており、楓と紅葉の姿はバッチリ収められています。この映像データがタエが戻るまで消されてしまわないように保管しておかなければなりません。
慌ただしい休日になってしまいましたが、部屋に戻った彩音を紅葉が持ってきてくれた花が落ち着かせてくれました。
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そして、月曜日になると学校から帰った彩音は、真っ先にメイド待機室へ向かいました。
「タエさん、おかえりなさい。」
「あらあら、彩音お嬢様、お呼びいただければよろしかったのに。まだ、制服のままじゃありませんか。」
着物姿の小柄な女性。一日の大半をこの部屋で過ごして、屋敷で働いている人へ指示を出していました。とは言え、足腰も衰えておらず、目も耳も良いので緊急時には機敏に動き回ります。
今も、突然やって来た彩音に対応するために音もなく椅子から立ち上がり、素早く傍まで駆け寄りました。
「結婚式はいかがでしたか?ゆっくり過ごせましたか?」
「ええ、良い結婚式でした。……ですが、こちらは色々と大変だったようで申し訳ございませんでした。」
「せっかくのお休みだったんですから、そんなことは気にしないでください。」
「ありがとうございます。……それで、何か御用があったのではありませんか?」
「あっ、戻られて早速で申し訳ないのですが、タエさんにお願いしたいことがあるんです。……一緒に私の部屋まで来ていただけませんか?」
「はい、かしこまりました。」
タエは返事をすると、自分のタブレット端末だけを手に持って彩音の部屋に向かいました。
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