第29話
「そうですわね。私たちも準備が必要になりますから、先にお伝えしておいた方が良いかもしれません。」
「準備……、ですか?」
「紅葉さんは、パーティーに着ていくドレスをお持ちでないことを気にされていたんです。前回、ドレスを着ていなかったことを注意されてしまったので、お断りしたみたいです。」
「……ドレス……ですか?」
彩音は誕生パーティーの時、同じクラスの子たちが紅葉に『ドレスを着てくるのが礼儀』と言って絡んでいたことを思い出しました。
子どもの誕生日パーティーで『ドレス』が『礼儀』になるとは思ってもいませんでしたが、紅葉は気にしていたのかもしれません。
「そんなことを気にされていたなんて……。一緒に過ごせるだけで良かったのに。それに、改まった会でもありませんし……。」
申し訳なさそうな彩音の呟きを聞いた澪が、
「『私が以前に着ていたドレスで良ければ、それを着て一緒に行きませんか?』と紅葉さんにお伝えしただけなんです。」
「そうだったのですか。それで、澪さんをお話しされた後は嬉しそうにしていたんですね。ありがとうございます。」
「ですから、彩音様も悠花さんも、お茶会の当日はドレスでのご参加をお願いしますね。」
紅葉だけがドレスを着て参加することになれば、また気にしてしまうかもしれません。ちょっとしたお茶会にドレスコードが設定されてしまったことになります。
「断られてしまった時は、紅葉さんに嫌われたのかと心配しましたが、可愛らしい理由で安心しました。……澪さんのおかげで、紅葉さんもご一緒できることになって嬉しいです。」
彩音の言葉を澪と悠花は真剣な顔で聞いてしました。何かを聞きたそうな顔にも見えてしまいます。
そんな顔を見ていた彩音は二人が何を考えているのか察しています。
「……大丈夫ですよ。紅葉さんの血を飲みたいから参加してほしいなんて考えてはいませんよ。」
澪と悠花は誤魔化すように笑いました。
このことも前世を考える上で忘れてはいけない要素ではあるのです。もしかすると彩音の前世は普通の人間ではなかったのかもしれません。
――それにしても、紅葉さんのドレス姿も楽しみですね。
そんなことを考えながらティーカップに口をつけた瞬間、
――えっ?……ドレスは澪さんの物を着られるってことですわね。
ティーカップを置きながら彩音は澪に質問します。
「……あ、あの、澪さん?……紅葉さんが着るドレスは澪さんの物になるんでしょうか?」
「ええ、私が昔着ていた物でサイズが合うかは分からないですが、探してみようと思います。……あっ、楓さんにお電話して紅葉さんのサイズを確認してみても良いかもしれませんね。」
彩音の中には新たな希望が生れていました。
――せっかくでしたら、紅葉さんの着るドレスは私が選びたい!……私が着ていた物を紅葉さんにも着てもらいたい!
ある意味で前世のことを考える時よりも真剣に頭を使っているかもしれません。
――新しい物では楓さんたちが気を使うかもしれないので、澪さんの『お下がり』判断は的確です。ドレスなんて着る機会は少ないですから傷みもありませんし……。
ただ、澪が心配しているようにサイズを測って準備することは難しいこと。彩音が考えている間、澪と悠花が談笑していました。
――楓さんにサイズを聞かなくても、私には紅葉さんの採寸をすることは可能です。
彩音の中で考えはまとまりましたが、それを二人に伝える必要がありました。澪が楓に連絡をしてしまってからでは手遅れになってしまうのです。
「あの、澪さん?……事前に色々と聞いてしまってはサプライズにはならないので、いくつか準備しておいて紅葉さんに選んでいただいた方が良いのではないでしょうか?」
「えっ?いくつか……でしょうか?」
「はい。ただ、澪さんお一人では大変でしょうから私もお手伝いしますわ。私が以前着ておりましたドレスも探しておきます。」
「それは面白いかもしれませんね。私もお手伝いしますわ。」
悠花も参戦することになり、三人が持ち寄った中から選択してもらう段取りは整いました。この段階で少し卑怯とは思いながらも、彩音は勝ちを確信しています。
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