第15話
強引な誘いを受けてしまった楓は居心地が悪そうでしたが、美味しそうにケーキを食べている紅葉を見れたことで納得してくれました。
紅葉にはオレンジジュース、他の四人は紅茶を飲んでいました。
「……すごく美味しいです。」
紅葉は、一口食べるごとに頬っぺたを押さえながら美味しさを完璧に表現してくれています。幼い頃から礼儀作法にうるさく育てられてきた三人には新鮮な反応でしたが、見ているだけで幸せな気分にさせられました。
「どんどん召し上がってくださいね。」
純粋な気持ちで彩音たちを心配してくれたお客様をもてなすことに一生懸命で、楓と前世で繋がっていたかもしれない可能性を忘れてしまっています。
「……でも、悠花さんと澪さんが紅葉さんたちを見つけてくださって、本当に良かったですわ。」
悠花が乗っていた車で澪を迎えに行き、彩音の屋敷に向かっている途中に見つけたと聞きました。そこからは車を降りて一緒に歩いて来たらしいです。
「いや、事前に連絡する方法もなかったから申し訳ない。紅葉が、どうしてもお見舞いに行きたいって言い出して……、悪かった。」
楓が、ぶっきらぼうに謝罪を述べましたが、気を使ってくれていることは伝わりました。
「こちらこそ、家の者に失礼があったかもしれませんので申し訳ございませんでした。」
部屋の外で話をしていたメイドたちの様子から、どんな言葉で紅葉たちを帰してしまったのか想像することが出来ます。
彩音のことを心配して来てくれた人に対する態度でなかったことは間違いなく、楓に謝られてしまうと気が重くなってしまいました。
「昨日の件が気になっていたので、澪さんにお声をかけてみたんです。お伺いしてみて良かったですわ。」
もしも、二人が連れてきてくれていなければ、花を見る度に悲しい気持ちになっていたと思います。
「……私たちも、マリー・アントワネットさんの『パンがなければお菓子を食べればいい』について中途半端なまま答えが出せていなかったので、お伺いしてみて良かったですわ。」
「ええ、私も帰ってから調べてみたのですが、『無教養で、傲慢なマリー・アントワネットさんの国民感情を理解できていない言葉』としか分からなかったのです。」
悠花と澪が残念そうに話をしていると、楓が不思議そうな表情を浮かべて聞いていました。
「……それ以上の説明なんてないだろ?……何が分からないんだ?」
楓の少しだけ荒っぽい言葉遣いに戸惑いながらも、答えをしっている人物の登場を三人は歓迎しました。
「マリー・アントワネットさんの言葉の問題点が、お分かりになるんですか?」
「……マリー・アントワネット『さん』って……。」
楓は歴史上の人物にも『さん』付けで呼ぶ彩音の言葉を受けて少しだけ笑っていました。
「俺には、その問題点を分からないことの方が驚きだよ。」
三人が期待を込めた瞳で楓を見ているので、楓は変に緊張をしてしまいます。それぞれにジャンルの違う美少女に囲まれて、注目される状況は経験がありません。
「……まぁ、そ、それは、フランス国民が貧しくて食べる物を買うことも出来ずに困っているのに、お菓子を食べればいいなんて無神経なことを言われて怒ったんだ。パンを買うことも出来ないのに、お菓子を買えなんて経済感覚がズレてるんだ。」
楓は普通の説明をしただけだと思っていましたが、三人は明らかに表情を変化させて聞いています。この変化を見ていて、三人がマリー・アントワネットと同等にズレた人間であることを楓は認識しました。
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