第16話

「……そういうことだったんですね。」


 普通に聞き流してしまうレベルの内容としてしか考えていなかった楓は、こんな話で感心されてしまい困惑してしまいます。


「別に、分からなくても困るようなことじゃないから気にしなくてもいいだろ?」


「いえ、すごく困ることなんです。」


 若干前のめり気味に聞いている三人の様子からは必死さのようなものも感じていました。悠花が困ると言った理由は、学校の課題とでも思うことにしました。


「……でも、マリー・アントワネット本人が言った言葉でもないんだから歴史とは無関係な話しだ。」


「そうなんです。その理由も分からないんです。本人が言ってもいないのに、どうして言ってしまったことにされたのでしょう?」


 今度は澪が追求しました。


「悪役にするには、ちょうどいい言葉だからだろ?……マリー・アントワネットなら言いそうな内容だし。」


 三人は『悪役』という言葉に反応しました。ソフィアが悪役だったから処刑されてしまったのであれば、17歳の壁を越えるためのヒントはそこにあるのです。


「裕福な人間には庶民の感情なんて理解出来ないってことを表現してる言葉だよ。……だから、アンタらが理解出来なくても仕方ないのかもしれないな。」


 納得したように囁く楓の言葉を彩音たちは聞き逃しませんでした。それでも、『仕方ない』で終わらせてしまうわけにはいきません。


「……大変申し訳ございませんが、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」


 彩音は楓と紅葉に断りを入れて、悠花と澪を部屋の外に呼びました。廊下で待機していたメイドも離れてもらい、緊急の小会議です。



「……これで、少し前進したことにはなりましたが、今後のことを考えると私たちだけでは解決が困難な問題もあるのかもしれません。」


 彩音は部屋の中に聞こえないように小声で話します。


「そうかもしれませんわ。……私たちは食べる物を買うお金がない苦しい生活を想定出来ていなかったということですものね。」


 悠花の言葉で、彩音は処刑台の上で言われたことを思い出していました。


「……『無神経』で『穢れた公爵家の女』と言われていた意味が少しだけ分かったような気がします。」


 三人は溜息を漏らします。そして、彩音は本題に入る前に気になっている点を悠花と澪に確認することにしました。


「ところで、お二人は水瀬楓さんをご覧になって、前世のことを思い出すようなことはありませんでしたか?」


 突然の彩音からの質問に二人は顔を見合わせます。


「いいえ、気になるようなことは何一つありませんでしたわ。」


「私も悠花さんと一緒ですわ。楓さんを見ても島崎さんの時のように思い出せるようなことは全くありませんでした。」


 何も心当たりがない様子で、二人は不思議そうに彩音を見ていました。


「……お二人が何も感じていないのでしたら、私の思い過ごしかもしれませんね。……変なことを聞いてしまい、申し訳ありませんでした。」


 彩音も思い出したことがあるわけではなく、ただ何となくでしか感じていませんでした。現状、二人の記憶の方が確かな部分が多いので勘違いだったかもしれません。


「……大変申し上げにくいのですが、彩音様と紅葉さんがお話しをされている時には少しだけ思い出したことがあるんです。」


 楓の話題が出たことで、澪は躊躇いがちにではありますが質問をしてみることにしました。

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