第14話
前日の会議が中途半端であったために悠花と澪が遊びに来てくれたので、彩音はエントランスに向かいました。そこには水瀬兄妹も一緒だったのです。
紅葉は驚いた表情で口をポカンと開けたまま屋敷の中を見回していました。
兄の楓は無表情で感情が読み取れません。それでも、彩音は楓を見た瞬間に自分が緊張していることに気付きました。
「こちらに伺う途中で偶然、紅葉さんをお見かけしたものですから一緒に来てしまいました。」
「私たちの体調を心配してくださっていたみたいですが、彩音様にお会いすることが出来なかったと聞いて、お連れしてしまいました。」
悠花と澪が経緯を簡単に説明してくれました。おそらく、門前払い的な扱いを受けてしまったことを察して、気を利かせてくれた感じです。
彩音は、不思議な緊張感を振り払い膝をついて紅葉と向かい合わせになりました。
「先ほどは、せっかく訪ねてきてくださったのにゴメンなさい。……お花、ありがとうございます。大切に飾らせていただきますね。」
「あっ……。」
紅葉は悠花と澪の顔を見上げて、少しだけ困ったような表情を見せました。彩音の分の花しか持ってこなかったことを気にしていたのかもしれません。
「大丈夫ですよ。お花は、三人で一緒に楽しめる物ですから。」
「……もう平気なの?」
「ええ、もう完全復活ですわ。心配させてしまって、すいませんでした。」
彩音の言葉を聞いて、紅葉はやっと笑顔になってくれました。楓は黙って見ていただけでしたが、
「……じゃぁ、挨拶も出来たし、そろそろ帰ろうか。」
と、紅葉の頭を撫でながら言いました。初めて聞いた楓の声に彩音の胸は高鳴ります。
「えっ!?もうお帰りになるんですか?」
悠花は驚いて、楓に話しかけました。悠花の態度に不自然な様子もなく、いつも通りです。
――何か思い出せそうな感覚があったんですが、悠花さんは何も感じていないみたいですね。……前世で関りがあったのかと思いましたが、勘違いでしょうか。
最初に楓を見た時は離れた場所だったこともあり、彩音は何も感じていませんでした。ただ、ここまで連れてきてくれた二人にも変化はありません。
――何でも前世に関連付けて考えるのは良くないことですね……。
パーティーの手伝いをしていた時とは違い、古びたコートにジーパンとラフな服装で、髪の毛もまとめていません。彩音は、楓が普段接することのないタイプであることで緊張しただけだと思うことにしました。
「……そうですわ。……せっかくお越しいただいたのですから、少しはおもてなしをさせてください。」
彩音は絞り出すように声をかけてみました。
「紅葉さんと、あの時の続きでケーキをご一緒させてください。」
三人が気を失った後のことは分かりませんが、ゆっくりとお菓子を食べていることはできなかったはず。紅葉の顔を見ながら彩音は提案します。
そして、楓のことも気になっているので、このまま帰してしまうわけにはいきません。止められてしまう前に彩音は紅葉の手を握って、応接室まで強引に招き入れることになりました。
「……えっ!?……ちょっと……。」
楓は慌てて止めようとしましたが、悠花から『まぁ、いいではないですか』と言われてしまい渋々の了承となります。
そんな様子を澪だけは少しだけ怪訝な表情で眺めていましたが、彩音も悠花も気付くことはありませんでした。
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