第7話

 澪と悠花が彩音のところに辿り着いた時には、周囲の状況も落ち着いていました。


「おはようございます。……昨日は、ありがとうございました。」


 澪と悠花が揃って彩音に挨拶をしますが、朝から声をかけられ続けて少しだけ疲れたような表情を見せています。


「おはようございます。朝から大変でしたね。」


「……彩音様も。」


 澪は彩音も同じように囲まれていたところを見ていたのかもしれません。


――朝から、疲れましたわ。……みんなさん、本当に私たちの体調を心配してくれているんでしょうか?


 彩音は、そんなことを考えていました。心から体調を心配しているのであれば、代表者一人だけが話しかけて余計な体力を使わせないようにすることが正解だと思います。

 ただ、『心配していました』アピールを繰り広げられてしまっただけのように感じてしまいます。


「ところで、悠花さん、どうして学校の中で新聞なんて持ち歩いているんですか?」


「あっ!彩音様と澪さんに見てもらいたい物があったんです。」


 悠花は、机の上に新聞を開いて置きました。そして、昨日の日付になっている新聞に掲載されていた写真を指さしています。


「……この方のお顔に、見覚えはありませんか?」


 彩音と澪は悠花の示している写真を見ました。その写真を見ていると不思議な感覚になっていきます。


――島崎剛徳、55歳。……会社の社長さんで、従業員が待遇の悪さに不満を持っていたみたいですね。……その不満が爆発して、土曜日の夕方に刺されてしまい重症。


 悠花からは見覚えがないかと聞かれましたが、もちろん友人関係ではありません。それでも、心のどこかでモヤモヤした気持ち悪さが生れています。


「……えっ?……このお顔、ずっと以前にどこかで……。」


 どこかで見たことがあるような感覚がありました。

 首は見えないくらいに太っていて、頭髪のない欲深そうな顔をしています。皺だらけの顔は、実際の年齢よりも年老いて見えてしまいます。


「……コルネーユ・ノバックさん。」


 写真を見ていた澪が当然に口にした単語を聞いて、彩音もハッとした表情に変わりました。ここでも前世の記憶につながる名前が登場してしまったことになります。


「……なんとなく記憶がよみがえってきました。……郊外の意地の悪い領主さんで、この領主さんも領民の暴動でケガをしていたはずです。」


 彩音は、前世の記憶で起こっていた出来事を語り始めました。その横で澪も頷きながら聞いています。


「私が思い出せた記憶では、その出来事もソフィア様のお誕生日に起こった事件のはずなんですわ。」


 悠花から聞かされることになった事実で、二人は更に驚いてしまいました。土曜日は彩音の誕生日でもあったのです。


「……それって、どういうことなんでしょう?」


 澪が悠花に質問しましたが、悠花は首を横に振ってしまいます。


「私にも、そこまでは分からないのです。……でも、この島崎さんという方は、彩音様のお父様の会社とも関係しているみたいなんです。」


「えっ!?……それでお父様は昨日、慌てていらっしゃったのでしょうか?」


「たぶん、そうだと思います。」


 そこまでの話をしていたところで、始業のチャイムが鳴ってしまいました。話を続けていたい気持ちは強かったのですが、記憶も曖昧で考えをまとめる時間も必要です。


「悠花さん、澪さん、今日の学校が終わりましたら私の家で緊急会議を開催したいと思いますが、いかがでしょう?」


 二人は真剣な顔をして彩音を見て、『承知いたしました』と言い残して自分の席に戻って行きました。

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