36.フォレストコング
走り続けていると、道の真ん中に大きなモンスターを見つけた。それがフォレストコングだった。
街までは距離がある。ここで戦えば被害が出ることはないだろう。
フォレストコングは凶暴化した巨大なゴリラの姿をしている。本来その体毛は緑色なのだけれど、魔族領に生息しているのは森に溶け込むために濃色だ。
道の真ん中にいなければ、何処にいるのか分からなかったかもしれない。
フォレストコングは、私でも一度しか倒したことがない。危険なためわざわざ近づこうとも考えない。
けれど、以前街の近くまで来たことがあった。その時に討伐した。たしかモンスターランクはA。このメンバーでも倒せるのかは分からない。レベルがあきらかに足りない。でも、全員で倒さなくてはいけない。
攻撃をしてきたら、シルビアさんではなく私が戦斧でガードした方がいいだろう。きっとシルビアさんではガードしきれない。
一応レベルを確認するために【鑑定】を使うと、五十レベルだった。どうやらここら辺に生息している最低レベルのフォレストコングらしい。けれど体は大きい。
普通のフォレストコングはゴリラの三倍はある。けれどこのフォレストコングは六倍はありそうだ。レベルは低いのだけれど、サイズから攻撃力は高いだろう。
きっと、増巨剤を使われてるんだろうな。
「グオオオオオオオオオオ!!」
私たちに気がつくと、咆哮を上げて胸を打ち鳴らした。フォレストコングのドラミングによって、木々たちに振動が伝わり揺れ動く。
近くにいるということで、耳を塞がないと痛い。でも、戦っている最中には耳を塞ぐことはできないから我慢しなくてはいけないだろう。
長く続いているドラミングは、フォレストコングの威嚇だ。それ以上近づくとただじゃすまないと警告しているのだ。
けれどこのまま放ってはおけない。
「私が引きつける。転ばせれば、倒れてすぐには起き上がらないからその隙に集中攻撃を!」
「わかった」
全員が同時に返事をすると、左右に分かれた。近づけば突っ込んでくると分かったのだろう。私はドラミングを続けるフォレストコングに向かって、迷うことなく走りだした。
すると、ドラミングを止めたフォレストコングは両手を地面につけて走り出した。距離はまだある。興奮しているのか、フォレストコングの鼻息は荒い。徐々に速度を上げて近づいてくる。
最初は戦斧で突っ込んできたフォレストコングを受け止めようと考えていたけれど、私が吹っ飛んでしまう気がした。これは避けた方がいいかもしれない。
速度がついて止まれなくなったフォレストコングをギリギリで避けて擦れ違う。私を追いかけようとして急に方向転換をしたが、曲がりきることができずに顔面から倒れて地面に打ち付けた。
「今だ!」
リカルドが叫んだ。どうやら顔を打ち付けた衝撃によって気絶しているようで、フォレストコングは目を閉じていた。それでもいつ目を覚ますのかは分からないので、注意しなくてはいけない。
ノエさんが私たちに攻撃力増加の魔法をかけてくれた。これによって、ダメージ量は増加するので、通常より早く倒すことができる。そして、防御力増加の魔法もかけてくれた。あまり効果はないかもしれないけれど、フォレストコングが目を覚まして、攻撃された時のダメージ量が減る。
まあ、攻撃されたらただじゃすまないんだけどね。
リカルドとシルビアさんとグレンさんは武器で斬り込む。フォレストコングは火が弱点なので、戦斧に魔力を流して振り下ろした。
それを見ていたノアさんが、矢じりに火を纏わせて攻撃をする。弱点で攻撃すれば、倍のダメージが入るのでできれば全員火属性で攻撃をしてほしいけれど、武器に纏わせることができないのかもしれないし、火属性の魔法を使えないのかもしれない。
「グ、オオオオオオ!!」
僅かにフォレストコングの指が動いたのを確認して、全員が一斉に距離をとった。すると、両手をついて起き上がりドラミングをしながら咆哮を上げた。
これは怒っている。きっと、激怒している。目つきが先ほどよりも鋭い。
今度は走るのではなく、独楽のように回転しながら向かって来た。先ほどと同じように道には私しかいないので、攻撃対象は私。
けれど、この攻撃を止めるのは簡単だ。
「【アイスフィールド】」
フォレストコングはここを通らなくてはいけないため、地面を凍らせてしまえば滑って制御ができなくなる。
独楽のように回転していたのが、氷の上を通るとふらつき始めた。そしてそのまま凍った地面の上に仰向けに倒れて頭を強打した。
でかいたんこぶを作って気絶している。このフォレストコングはよく気絶する。
「この魔石を砕けばいいよな」
「砕いちゃえニャ!」
仰向けになったことによって、
仰向けになって気絶さえしてくれれば、魔石を砕くだけなので討伐は簡単だ。
リカルドが剣先で魔石を砕くと、フォレストコングはすぐに砂になり消えた。イビルラットよりも早く消えたけれど、誰も何も言わなかった。
「戻ろうか」
静かに言ったリカルドの言葉に頷いた。正直、今のフォレストコングを魔石を砕かずに倒そうとした場合、あと二回から三回は気絶させて全員で攻撃しなくてはいけなかっただろう。
気絶させていないと今の私たちでは倒すのは難しい。攻撃が掠っていたら大怪我をしてしまっていただろう。
とりあえず、無事に倒せたのだからよかった。
思っていたよりも早く決着がついてしまったけれど、私たちはマーキスさんとパパの元へと歩き始めた。
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