流星の夜
少女は、日の暮れた牧場に来ていた。
友人の男の子の家族が経営している牧場。通常日の沈んだ夜にとくに見るものがある場所というわけではないが、この日は違った。少し特別な夜だった。
家の中で同い年の男の子と遊んでいた少女だったが、「そろそろだよ」と言う男の子の父親に促され、揃って外に出た。
放牧場の柵の中で、二頭の馬が放されている。普段は馬房に戻されている時間だが、この日は外に出されたままだった。
近くに街の光のない広大な敷地の牧場では、夜空にたくさんの星が見えた。とても数え切れる数ではない。砂場に溢れ返る砂粒のように、夜空は星でいっぱいだ。
男の子が斜面になっている芝生に座った。少女も男の子の隣に座り、夜空を見上げた。
星々が、ずっと遠くの場所で、それでも確かに光り輝いている。こんなに多くの星が、宇宙のどこかにあるのだ。少女は絵を描くことが好きだった。家に帰ったら、この輝く夜空を絵に描いてみたい。両親には明日にするように言われるだろうけど。
しばらく空を眺めていると、夜空のある箇所で光が動いた。すっと線を引くように動き、そして消えた。
「あっ、今見えた!」
隣の男の子が空を指差し、少し興奮ぎみに声を上げた。
数秒経って、また光が動いた。まるで星が移動したかのように。
その後も立て続けに流れ星を目にすることができた。男の子は流れ星の数を数えることに躍起になっていた。
少女はふと、前方の柵の中で放牧されている二頭の馬に目を向けた。
それまでゆったり過ごしていた馬たちが、芝生の上を駆け回っていた。まるで踊りを舞うように、前後左右と動き回る。
少女は少し後ろに控えている男の子の両親を振り返った。二人は真剣な眼差しを二頭の馬に向けている。少し嬉しそうな、それでいて寂しそうな、そんな表情だ。
少女は前に視線を戻す。すると、馬たちの体が微かに白く光っていることに気づいた。
夜空では流星が駆けている。それに呼応するように、馬たちの動きが増していった。
大きく風を切る音が鳴る。
馬たちの背中から、白く輝く翼が生えていた。
馬たちは、翼を羽ばたかせながら地を駆ける。
一瞬、馬たちがこちらにしっかりと顔を向けた気がした。少女の背後で、男の子の母親のすすり泣く音が聞こえた。
二頭の天馬は並ぶように走り、地から足を離した。優雅に翼をはためかせ、足を動かし、空中を駆けた。
流星の夜空をキャンバスに、空へ昇っていく。天馬となった馬たちが、あるべき場所へ還っていく。
少女は、今しがた目に焼きついた光景を一生忘れることはないだろうと思った。
ある日の流星群の夜の出来事だった。
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