第3話 ファーストコンタクト

 「これより向かうは西の森ラース、皆!覚悟はいいか!」


「「「「オオーー!!」」」」


 夏が目覚める少し前、ラースと言われる西の森の前に屈強な男達が集っていた。


 「それでは、セシル様」


 「はい」


そんな屈強な男達の中で一人、美しい女性が男達の前へ出る。


「皆様、此処はあらゆる国から猛獣達が集い、互いの腕を競い合う弱肉強食の森、腕の立つ冒険者だけで無く城で鍛え抜かれた騎士でさえ命を奪ってきた森です。しかしご安心を!あなた方の命は守護天使の冠ガーディアンエンゼル・クラウンの名において、必ず私が守ります!」


   「「「オオーーーー!!」」」


 「森では警戒怠るなー!索敵班!森の野獣達の探索及び数日前ラースで感知された魔力の居場所を突き止めろ!」


   「「「は!!」」」


「行くぞーー!!」


   「「「オオーー!!」」」

 

 「声は……もっと、抑えてくださいね」

 

  


     「「「ォォーーー‼︎」」」



 

 

  🐾🐾  🐾  🐾 🐾 🐾🐾 🐾




 「副隊長、此処は本当にあのラースの森なのでしょうか?」


「いつもなら直ぐ猛獣達が襲ってきて……、こんなに奥まで何の障害もなく来れる事は無かった、やはり……」


「お前らも感じたと思うが、いつもなら森の入り口に漂っていたあの禍々まがまがしい気配もなっていた」


「大人しく?」


「あぁ、野獣達は別にいなくなった訳じゃねぇ、よぉーく気配を探ったらそこかしこにいる。こんなに気配消されて、普段と大違い……ハ、あの野獣共がこんな能力持っていたとはな普段の森でこれで襲われたら俺たちゃ全滅だった。ま、……索敵班」


「はい!副隊長の言う通り野獣達は息を潜め身を隠しています。--それに普段の闘志とは違い、彼らは何かに怯えている……普段の彼らなら相手が何であろうと戦いを挑む筈なのですが」



 誰かの息を飲む音が響く、普段なら争いの声が絶えることのない森、そんな森が此処まで静かだと本来の姿を知る者達は不気味さを--恐怖を感じた。


 「すみません副隊長、セシル様、我々も過信し過ぎておりました。普段なら入り口の時点でその不気味さに気付かなければならなかった。」


 一体何があったと言うのか、誰もがそう思っているだろう。


 「なーに気にすんな!それにお前、最近昇進して今回の任務に選ばれたな」


「はっ!……はぃそう、です。いつもの編成と違いこれだけ心強い方々が集まっていたので、心のどこかで安心感……いえ、油断していたんです」


  数名の兵士がその青年の言葉に同意した。


 「そうか、その心意気じゃ命を落とすだが、周り見てみろ、お前らの先輩を」


 そう言われて青年兵と他数名が周りを見る。


 「どうだ、お前達にはどう見える?」


 青年兵達が見た先輩の姿は、確かに恐怖を感じている。が、その恐怖を楽しんでいる様な、何かに燃えているそんな瞳をさせていた。


 「っ!どうして……怖く、怖くないんですか!」


 そう投げかける青年兵に一人の屈強な兵士が近づく。


「よう!坊主共さっきから副隊長とばっかし喋りやがって!副隊長は副隊長だが、俺達の方が年上で経験も上なんだぜ?まぁ、腕っ節は負けちまったがよ!」


「そうそう!怖く無いのか?怖いさー!でも俺たち馬鹿だからなー!戦う事、強さを求める事しか頭に無かったんだよ!ただなー、国王と恩人に拾われて、認められて守りたいものが増えていったんだー」


「何が言いたいかと言えば、まぁ、守りたいものを守るために強くなる。その為にはどんな手段でもどんな状況でも関係無い!怖さより闘志が勝っちゃうのさ!」


 「フハ!言葉にするとラースの森の野獣達と同じじゃないか俺たち!酒場だったら皆んなして大笑いだぜ!」


「大声出すなよ!警戒緩めて無いとは言え、いつでも戦闘態勢でいろ」


「おう!副隊長!」「了解ー副隊長!」「ヘイ副隊長!」「隊列は崩してませんよ副隊長!」


「あんたらなー!たく……まぁ、あれだ、俺もこの人達の背中を一応見て上に上り詰めた訳だし?良いところは目に焼き付けな!その為に今日、お前達も選ばれた。その為にセシル様もいる。国王はお前達の成長を期待してるんだ」


 この言葉を最後にポカンとしていた青年兵達は一気に闘志が燃え始めた。先輩達が国王が自分達の成長の為に此処までしている。森の入り口ではどうだった?あの掛け声は油断によるやりとりだったか?違う!お互いを鼓舞する為のものだ!森に入った後は?恐怖に怯えている野獣達を警戒し、圧をかけ更なる恐怖を与えていた。


 入り口で油断していたのも、恐怖を感じているだけだったのも自分達だけだったのだ。



 「副隊長!ガーラ種の群れを感知!そこに見慣れぬ魔力を持った何かがいます!」


「ガーラ種だと!」


「●✖️▲※!?▲!!」


 「ちっ〜!この鼓膜の破れそうな鳴き声は間違いねぇな、仲間を呼んでやがる!」


「ガーラ種は魔物の中でも最弱クラス、だから群れを成す。普段ならこの森に入って来れない筈だ。このラースは奇襲無し、戦うなら正々堂々正面から、。群れを成すのは弱いものだけ、だから群れを成す生き物は入って来ない。どんなに群れで戦いを挑もうと奇襲もでき無いし勝てない野獣ばかり、あんたら兵士がラースに入るのは、ラースにしか無い薬草採取と自分達の腕を鍛えるためだろ?」


「何だシーロ、今まで大人しかったくせに急に喋り出して、怖くなったか〜?」


「ハァー、警戒を怠るなってあんたが言ったんだろバカ副隊長、子供じみた事はやめて下さい恥ずかしい」


「俺よりも年下のお前の緊張を和らげる為にからかってんだ、そんな返事じゃまだまだ子供だなー」


 「だいたい!っ、……大体、あんたになんて返しても直ぐ子供だから何だとからかってくる癖に!全く、出会った頃のあんたと大違い、性格変わり過ぎだろ」


 「んん!昔は昔、今は今だ!昔と今とで180度性格が変わったと思ってくれたんなら本望さ、なんせ--」


 --俺の背中を目に焼き付けな!お前は--


「フ、--憧れたんだから仕方ないだろ?」


 「あんた--」

 

 「副隊長!」


「あぁ、気引き締めろ!見えてきた……ん?あそこにいるのは犬?と人間か?」


 彼らの目に映ったのは、ラースでは考えられ無い数のガーラ種の群れ、その中心に一匹の犬とうつ伏せになっている人間がいた。


 「ちっ!この崖の下か、人間もいる!何か知っているかもしれねぇ、高さはそこまで無い!降りてたすけ!?」


 ゾクリ--


 その時この場にいる誰もが感じた、ただならぬ気配に一気にその場が凍りつく。


 「おい、これはどっちからだ」


「も、申し訳有りません!ふ、2人の距離が近過ぎてどちらとも!」


「おい、副隊長これはまずい、駄目だろ」


「あぁ、シーロこれは駄目だ。今力を使われたら、この近くにいる俺たちも攻撃対象になる!」


 彼らは長年の戦闘経験で分かってしまうのだ。何か起ころうとするそれは、今目覚めさせてはいけ無い!


 魔力のオーラで分かる。それは守る対象以外は全て敵なのだと。


 「っ!セシル!!」


 「はい!ライジングスコール」


 たった一言セシルが空に向かい杖をかざした瞬間だった。眩い光の後に雷の雨が降る。この技はセシルの数ある中で最速を誇る技の一つだ。


 「ぐ、げほ!セ、セシル様これはあの人間達は無事なのですか!?」


「えぇ、安心して!私が守りの力を発動させる前にシーロが彼らを守っていたから。それより早く下へ彼らの保護を!」


 「せ!セシル様!」


 「オラ!姫様に続くぞお前ら!」


 「こんだけ騒いだんだ!何が来ても遠慮無しだ!」


「あちょ!それそう言うの俺の台詞!」


「まだまだ、だな副隊長」


「くっ!負けるかよ!」


「アンタの方が子供だろ」


 次々と兵士が下へ降りる。セシルが放った攻撃で辺り一面ガーラ種共々まるこげだ。


一部を除いて。

 

 「--で----な--の」


 声が聞こえる。


 「女の子!」


  セシルが近づくと段々と2人の姿がハッキリ見えてきた。


 「女の子と毛玉のケモノ?モンスター?あぁそんな事より!」


 「ふっ、うっグス!」


 「あ!良かった、ようやく見つけました」


 そうしてセシルは優しく少女に声を掛ける。怖がら無い様に、安心させる様に。


 「ふぇ?」


 「泣いているの?もう大丈夫です。私達が貴方達を助けます!だから泣か無いで?」


 そっと少女に手をさしのべる。


 「天使?あ、女神様--」


 「え?」


 その言葉を最後に少女は意識を落とした。


 「大丈夫ですか!しっかり--」


  バシン!そのとき少女の側にいた獣が伸ばした手を振り払った。


 「っ!」


「セシル様!おのれ!このけもの風情が!」


「待って下さい!私は大丈夫です!」


「グーウゥ、--おまえたちなんだ!さっきのもおまえたちか!ビックリした!レッツがなんとかできたんだ!ナツをまもるのはレッツなんだ!」


けものが喋った!龍太様の保護下の生き物か?」


「だが首輪が無い!こいつ自分の力で喋ってやがる!」


「牙狼種の幼体とは又違う、体格も小柄だし……威嚇も正直迫力にかけるな」


「牙が長く無いからじゃないか?」


 レッツを見てさっきまでの恐怖も無くなり、まるで初めて見る生き物だと言うように会話が進んでいく。


 「さっきはいきなりごめんなさい、でも私は貴方達を助けたいの!その子も泣いていたわ、貴方もボロボロよ?私達はただ何があったか知りたいだけなの、どうか安心して私達について来て」


 そっと手を差し伸べる。


 ビクン!と、驚き警戒しつつもクンクンとその手を匂い本当大丈夫なのか害のある人物では無いかとさぐる……と。


 「さっき……ひっかいた、ごめん。おまえわるいやつちがう」


 「いいえ、良いんですよ。わたくしこそ驚かせてしまい御免なさい」


 段々耳と尻尾が垂れ下がりシュンとして謝るレッツ、セシルの匂いと人柄で悪い人物では無いと認識したようだ。


 動物とは不思議な感覚を持っており、時にその力でその人物が悪い人間か良い人間か、自分を好きか嫌いか見分ける事がある。人と接する事が多ければ多い程、人の感情がより伝わりやすいのだろう。


 「どうやらひと段落ついたみたいだな……。なぁ、副隊長は知ってるんだな」


「あぁ、シーロ知ってるよ」


 2人会話がひっそりとされる中、兵士たちはレッツをマジマジと、観察していた。


 「なぁーんだ、大人しくなりゃあ結構可愛いもんだな!ホーレよーしよし!」


 ガブ!


 「イッテ!」


 1人の屈強な兵士が挨拶をふっ飛ばし触ろうとするが、勿論レッツが許すはずも無く思いっきり噛み付く。


 「セシル様やはりこいつ危険です断たっ斬りましょう」


「まぁまぁ、先輩落ち着いて!流石に先輩みたいな顔が怖くてゴツイ人だとこの子もビックリしますって」


「あぁ〜ん何だと!!」


 怒る先輩を横目に次は俺だと自信満々にレッツに手を伸ばす。


 「なー、お前も怖かったんだよなー?」


ガブ!


 「イッーター!」


だが残念、手順が違うのだ。


 「ハーハッハッハ!お前も噛まれてんじゃねえか!て、オイオイ!」


 「止め無いで下さい斬れ無いじゃないですか!」


「おい、お前らなぁー、確かにあれだけ音も立てたし、この森にガーラ種もいて平気だったとしても騒いで良いとは言って無い」


 「ハァー、あんた達のせいで、こいつの警戒心が又強くなってますよ」


 そう言って次はシーロがレッツに近づき同じ目線にしゃがみ手を鼻の位置に持っていく。


 すると、セシルの時の様にクンクンと匂いを嗅ぐ、噛まれた2人とは違い噛む様子は無いがクイックイと何かに悩んでいるのか頭を傾げている。


 「クッソー!顔か!顔なのか!」


「先輩なら兎も角!俺は!……俺は、ましな筈だ〜」


「アンタらは手順が違うんですよ!知らない奴に急に頭を触られたら誰だって嫌でしょ」


「うっ、確かに」


「くっ!言われてみればそうだ、それはそれとして--オイコラてめー、先輩ならって何だ後でゆっくり聞こうかこの野郎!」


「せっ、先輩くっ、苦し〜」


 そんな2人を尻目に次々とシーロと同じやり方でレッツに自分達の匂いを嗅がせた。


 「それにしても、こんだけ騒いでこいつ起きる気配無いな……このままだと日が暮れる。今は大人しいが、いつ野獣達が暴れ出すか分からない今、明るいうちに森を抜ける方が良い、なぁー、お前の主人を安全な場所に運びたい、俺が担ぐ良いか」


 シーロがレッツに聞き、お互いにじっと目を合わせる。


 「わかった」


 コクン、と頷き一言、何処か不安そうだが周りの雰囲気で了承した。


 警戒を強めたのは2人だったが、さっきの2人の掛け合いで少し場が笑に包まれた事が、余計な警戒心をも落ち着ける事が出来たのだろう。


 ……馬鹿を見る目で2人をじっとレッツは見つめるのだった。


 「せっ、先輩あいつ変な目で見てますよ!」


 「あれを何で言うか分かるか、馬鹿を見る目っていうんだぜ!」

 

 「「アッハハハハ!!」」


 ……………。


「「--ヤンノカオラ!!」」


「やらせんはオラ!!」


ゴツン!!--と、大きな音が鳴り響く。


 「さー、馬鹿2人は置いて行くぞ」


 再び兵士2人を尻目に皆、自分達の城へと足を進めるのだった。


 ジーーーー


「ハッ、--ナツ〜!」


「「うぅー、クッソー!!」」


 猛獣集うラースの森に2人の雄叫びが響く。


 だが、猛獣達はそれでも……。


 


  🐾🐾  🐾  🐾🐾🐾 🐾



 

 光り輝く部屋、フカフカのベッド、オシャレに飾られたアンティークはどれも高級そうな物ばかり。


 そう、女の子なら誰もが一度は夢見る部屋で少女は目を覚ました。


 「それでは、初めまして、わたくしはセシル・スローンズと申します。貴方のお名前は?」


 「あ……はい。えっと、夏です。あ、蒼葉夏です」


 「ふふ!そんなに緊張しなくても大丈夫よ、ナツが貴方の名前、アオバが家名ね?」


 「は!はい、そうです。ええと……夏・蒼葉です」


 「大丈夫ですよ、ちゃんと分かっていますから、改めましてどうぞよろしくお願いします」

 

「えっあ!はい!よよよよ、ヨロシクオネガイシマス!」


--初めての世界でのファーストコンタクトは、私がぐだぐだ過ぎて……でも、とても綺麗だったんです--


 



 

 




 


 

 



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