第2話 現実と混乱

 「どう言うことだ!西の森で今までこんな事無かったぞ!」


「どうもこうも無いですよ、慌てたって俺達下っ端は城の警備すっよ」


「分かってはいるが……」


 何処までも広く長い廊下、2人の兵士の声、いや周りからは2人以外にも慌ただしく声が響いえいた。


「それに、とっくに副隊長と腕のたつ奴が人選されて西の森に向かってますよ」


「だがその中に第一王女であるセシル様も同行なさる。いくら下っ端だからと言ってこの異常事態の説明が未だにされないなど可笑しいでは無いか!」


「セシル様の事は副隊長がしっかり護衛なさるでしょ、それにあいつもいるし」


「あいつて……、あー!お前また「そ・れ・に!」人の話をさえぎるなよぉ」


 「説明ならちゃんとされたじゃ無いですか、西てね」


 「だから!っ〜んごほん、すまん周りに載せられ興奮し過ぎた。だが国王が副隊長やあのお方、そしてセシル様まで送り出すなど、その説明が無いからこんなにも皆が慌ただしくなっている」


「国王の考えは知ら無いっすけど、必ず解決してくれますって!」


 バシン!バシン!


「いて!いってーよ!一応俺のが一年先輩なんだからな!あ"ーお前の冷静さがうらぁ……い、いや見習うべいって!だからイタイわ!」


「アッハハ!」


 バシン!バシン!と先輩の背を叩きながらも周りに少し目配せをするまだ若き少年兵、見ると2人の会話を聞いていた者は少しずつ冷静さを取り戻していた。


 「帰ったら話、聞かせろよ」


「?何かいって!」


「何でもないっす!こちの話っす!」


「だから話を遮るな!叩くな!」


「アッハハ」


 慌しかった空間が今や楽しげな笑い声が響き渡る。周りの者も2人のやり取りを呆れた目で見守るのだった。




    🐾🐾 🐾  🐾🐾 🐾🐾🐾




 「ウォーーン!」


 月明かりに照らされながら一匹の獣が遠吠えを上げる。


 「グッー、ガァーーグ!!」


 その獣に圧倒されながらも周りの野獣達は負けじと吠え叫び襲いかかる。数で言えば多勢に無勢、一匹の獣に勝ち目など無いだろう。


 だが、その獣は何度噛みちぎられようと何度押し倒されようと、それでも何度も立ち上がりその度に野獣達の何倍の力で圧倒していく--気づけば周りは更地となり野獣の数も減っていた。


 そして……。


 ドシャン!


 何度目の夜明けだろうか、遂に戦いに決着が着く。もう獣を襲おうと思う野獣は何処にも存在しなかった。


 朝日に照らされるその獣は白銀の毛並みが金に染まりとても、…………とても美しかった。


「はっ!つ、」


 夢を見ていた、長く気が狂いそうになる様なでも、その夢はとても……。


 「く、っあ!はっくうー!」


 --い、いたい!こえがで、ない!からだがうごかない!--


 目を覚ました夏に襲った身体の痛み、その痛みが夏を現実に引き戻す。だがその体には


「ふぅーはー、ゲホ!ふぅっ」


 息を吐くだけで感じる痛みに思考が支配され、苦痛と共に前後の記憶もハッキリしない。


 --なんで、何でこんなに痛いんだっけ?何でこんなに苦しいんだっけ?ここ何処だっけ?私は何を……!--


「っ!あ''ーーーー!」


 瞬間、その記憶が頭を駆け巡る。


 「レッ……ツ」


  涙を流しながら大切な愛犬の名を精一杯の声で呟く、身体中の痛みが夢では無い事が分かったからだ。だとしたらレッツは、あの事故に巻き込まれた後どうなったのか、何故自分は生きているのか、思考がぐちゃぐちゃになり涙を流すことしか出来なかった。


 「ワン!」


 何処からだろう、確かに夏の耳に届いた大切な声。


 「ワン!ハァハァ」


幻聴などでは無い、その声は夏の耳にハッキリ聴こえた。


 「ヒューフ、フー、レッゴホ、ハァーレッツ!」


 自分が出せる最大限、人から聞けばかすかだが、今の夏にとっては喉が壊れてしまう程の精一杯の声を出す。


 「ウーーワン!ハァハァ、--クゥー」


 頬に流れる涙を優しくぬぐってくれる。その暖かさが夢では無い事が嬉しくて、次から次に涙が溢れ出す。


 「ごべ、ごめんねっ、ヒック、無事でレッツよか、良かったよー!」


「ワン!」


 更に時間が経ち、落ち着いた頃には少しだが体が動かせるまで夏の体は回復した。


 「ナツもうダイジョウブか?」


「うん!少しならもう体を動かして、……てもだい、じょうぶ?」


 何処から聞こえた声に思わず答えてしまったが、一体誰がと体を仰向けのまま辺りを探るが、夏とレッツ以外には誰もいないのだ。


 「ねーレッツ……今、誰かの声、しなかった?」


「ナツとレッツだけだよ?」


「だ、だよねー!あ、アハハハ--」


 

   ……………………。



「…………ハアアアアーー!ゲッホゴホ、喉が肺が……」


ビク!「ワ!」


 レッツが喋った事に驚く夏と驚いた声に驚いたレッツがパニックになってしまい手の付けようがない状態と化してしまった。


 蒼葉夏15歳この時が人生初のカオス体験になったのは言うまでも無い。


 「レ、レッツが喋って!あ、嫌待てよ、待てよ自分落ち着け自分。此処が死後の世界なら有り得るのでは!想像と違うけど、体は痛いけど怪我は無いし……きっとこの痛みは神様からの罰なんだ「ナツー」お迎えが来るまでしっかり向き合いなさいって、きっとそう!「ナーツ」レッツが話せるのも神様からの最後のご慈悲……夢だったの。そう、夢だったのよレッツとお話し「ナツ!!」ハイ!っー!腰が!!」


 「ホネ!!」


「ぃてて、…………ほね?骨?」


 「○△□※△!○?」


 レッツの見ている方向に顔を上げて見ると、そこには人型の骨が訳のわからない言葉を発しながら遠巻きに見ている。


 「ほ、本当だ!本当に骨だ、でも学校にある様な骨格標本と全く違う……や、やっぱり閻魔様の御使みつかい?だから、言ってる言葉も理解出来ないし、う〜どうすれ「ホネーー!!」ば!?」


  本能には抗えない、それが自然の摂理の一つだ。


 「あ、あわ、あぁ」


 そう、レッツは自分の本能のまま動いただけだ、それが神からの御使であろうと、飼い主がどう思っていようと、関係無し。自分の好きなものがいっぱい集まって動いてるのだから。


 「ハァハァ!ワン!」


 夏にとっては地獄絵図だ閻魔様の御使?の骨を目の前でバラバラにされ、遊ばれ、いろんな事があり過ぎて頭がショート寸前だ。


 「レレレレ、レッツさん!お願いだからもう辞めて!やめてくだ、ギャー!こっちに投げないで!あーー掘るな!めようとすな!!」


 「ナツこいつオモシロイよ!バラバラにしたのにウゴイテル!なんでなんで?」


 「知らないよ!お願いだから!もう、もう辞めてぇー」


 「●▲!!■?※▲」


 さっきまでとは違う耳に刺す様な雄叫びを最後に上げ、コトリと動かなくなってしまった。


 「なんだよこいつ!ビックリしたー、ミミがキーてなったー!」


「ど、どうしよう、御使様が死んでしまった?骨だから死の概念あるかも分からんけど、動かんくなったし!どうしよう……これはもう、地獄行き確定なんじゃ、最後の断末魔この世の者じゃねー!!あぁ、折角のご慈悲もきっと此処で終わりだ〜」


 「!グウーー、ガァグゥーー」


 「レ、レッツ?」


 突然だったレッツが辺りの茂みに向かって唸り始める。夏でさえ滅多に聞かない唸り声に困惑と緊張で身体が固まる。


 ザッザッザッ


「○✖️※□?!」御使A?


「●▲#✖️!!」御使B?


「!?!○◇□△?」御使C?


「あ、あぁ--」


 気づけば時すでに遅し、夏とレッツは既に骸骨の群れに囲まれていた。


 --終わった。私達地獄行きだ、リーダーらしき御使様達も凄い怒ってる。どんなに言い訳しても逃れようも無い、レッツを止められなかった飼い主である私の責任だ……いや、その前にあの散歩が全てのきっかけ、レッツは何一つ悪くないじゃんか!悪いのは無理矢理連れて行った私なんだ--その事だけは閻魔様にしっかり伝えなくちゃ!--


 涙を必死に拭い夏は覚悟を決める……のと同時にレッツが夏を守るように前に立つ、夏は驚きその背を見つめる。その光景は何処かで見たような、そんな事を思ったが直ぐに意識をもどす。


 「レッツもう大丈夫だよ!これ以上はきっと取り返しがつか無い!だから、ね?後は私が何とかするから!」


「ダイジョウブ!ナツはレッツが……俺が守る」


 空気が変わる気配がした。側にいた夏だけでは無く骸骨達もその空気を感じ取り困惑し始める。


 何が目覚めようとしている--。


 その時だ、目の前に音もなく光り輝いたのは。


 「え?」


ドッシャーン!


 それは夏の声と同時だっただろうか、眩い光の後に鳴り響くそれは、雷を連想させた。


 「…………え?どうして、こんなタイミング良く雷が?レッツは……違う、音より早く私の腕に潜ってたし、今も震えてる。」


  夏は咄嗟に空を見るが雷雲など無い正に雲ひとつ無い青空だ。


 そして視線を戻せば黒焦げになりバラバラになった骸骨達。


 「何これ?何なの此処!レッツが喋って骸骨出てきて予想がつか無い雷落ちてきて!私達もう地獄にいるの!言い訳さえ許して貰え無いの?--ふっ、うっグス」


「あ!良かった、ようやく見つけました」


「ふぇ?」


「泣いているの?もう大丈夫です。私達が貴方達を--」


 その女性は声からしてとても美しく、その美貌に今までの恐怖が吹っ飛び、同じ女の子である夏ですら見惚れた。そのせいで女性が何と言っているのか正直頭に入ってこなかった。


 「天使?あ、女神様--」


 その言葉を最後に夏の意識は、シャットアウト、それもそうだろう。


 見知らぬ森から始まり、喋る愛犬、動く骸骨達、目の前に落ちた雷--そして、絶世の美女。


 夏のキャパシティは既にオーバーだ。


 だから、気づかなかった。


 --気づかなかった。この時、忘れてはいけ無い大切な記憶にまで私は蓋をしてしまった事に--










 





 

 








 




 



 

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