新しき世界は愛犬が経験値高めです🐾

@itigotaruto

第1話 いつもの日常

「ワン!ハァハァ…」


「はいはい、ちょっと待って!まだ玄関なのにかさないでー!」


 何の変哲も無い田舎町、何処にでも見る様な光景……。少女が玄関を開けると広がる景色は辺り一面緑の山。


 「んー、眩しい今日も天気いいなー」


「夏、あー散歩行くなら帽子かぶれ!ほう!暑かばい!」


 「じいちゃん心配せんでも大丈夫だって日陰の道行くし!虫除けスプレーしたけん」


 孫を心配する祖父の姿も特に珍しく無い光景だろう。


 「はーい!レッツお・ま・た・せ!散歩行こうぜー!」


 ただ、いつもと違うのは……。


 「ン"ン"ーワン、」


「どうしたの朝からずっと吠えてたじゃん!散歩したかったんじゃなかと?」


 この家で暮らしているレッツ。夏が小さい頃、親の知り合いから貰って来たというグレーのハスキー犬、一応雑種犬だそうだ。


 今年で13歳となるレッツは人間で言う60歳ぐらいの年齢だが、まだまだ落ち着きの無い元気さだ。

 

 「ほお、帽子帽子かぶってけ。……なつあー、レッツか……たぬきかイタチがおったんだろたい」


「帽子いらんて!てかこれ……じいちゃん達が畑仕事で使う麦わら帽子だし!私この帽子をかぶって出掛ける勇気ありません」


 因みに少しボケているいや!マイペースな祖父はまだまだ元気な70歳です!by夏


 そんなたわいの無い会話の中もレッツは落ち着かずソワソワしていた。


 だが本能には抗えず散歩に出掛ける事となった。


 「じゃ、じいちゃん行ってくんねー!今日は長めのコースで行って来まーす!」


「うんうん行ってらしゃい」


「おかーさーん!散歩行ってくんねー!」


 夏は玄関に向かい母親に元気いっぱいの声を掛ける。


 「はーい、行ってらっしゃい!」


  何の変哲も無いありふれた日常風景。


「それじゃあ、レッツおー!」


 「ワン」


 そう、何の変哲も無い何処にでもある日常風景。


 この選択が夏とレッツの運命を決めた何の変哲も無い、当たり前の日常最後の日常




   

   🐾 🐾🐾   🐾  🐾🐾





「さーて着いたよ!この道は歩道が広いし散歩しやすくて良いんだよねー」


 目の前に広がる道は、自然に囲まれながらも開拓跡が残る山道。


「……まぁ、ひらけた道路だけど山の中に入るからその分虫が飛んでるんだけどねぇ」



 夏とレッツのお気に入りの散歩コースの一つ山を切り開き造られた道路だ。


 「小学生の時はなんかしてるな〜、としか思わかったけどあの山がこんな大っきい道路になるとは夢にも思わなかったよねーレッツ」



「…………。」


「ん?レッツどうしぁ、こんにちは!」


「あー、こんにちは」


 新しく出来た道路の周辺はほとんどが田んぼである。

 今の時期は田んぼの周りに生えた草取り水の管理などが重要な時期なのだ。

 

 夏自身、挨拶をした老人の名前などろくに知らない、祖父・祖母なら分かるだろう。

 だが村の人なら知らなくてもすれ違ったら挨拶をするされる。こればかりは最近では珍しい光景だろう。



 「さー行こうー……。て、なっ何レッツそんなに引っぱって、ちっ違うよ!こっちだてば!」


「ヴ、グゥン"ー!ワァアン」


 「ちーがーうー、こっち!」


  意地だった。


 いつもならレッツの行きたい道に行かせる行き当たりばったりな散歩なのだが、この時ばかりは何故か夏は譲らなかった。

 

 何かに導かれる様に意地でもコースを変える気が無い夏と何かから必死に遠ざけようとするレッツ。


 「何で!そんなに意地になってるの!こっちなんだってば今日わ!」


「グゥー、アウアン!!」


 それはこっちのセリフだと言わんばかりにレッツ。


 この時にはもう既に日常の歯車が崩れていたのだろう。


 「ハァー、疲れた。若もんは元気がよかなぁー」




 少しずつ……、すこし……。




 「…………あ?」



 


 ブォォオオオオ


 

 




 

 「なぁんだ、あのトラック」


 


 一台の大木を積み上げているトラックが一直線に……。


 「くっそ!何でだ!さっきまで、こんなっ!」


 混乱している運転手には、目の前に近づいて来ている更なる危機に気づく事が出来ていない。


 「っ!なっあ、しまっ!」


 「おい!あぶね「ギャッ」!」


 勿論、そんな声が意味の無い声届く筈なく……。


 


 




 あぁ……。


 もっと、もっと早くお爺さんが声を掛けてくれたら、トラックの運転手がクラクションを鳴らしてくれていたなら。


 あぁ、違う……。私がレッツの声に耳を傾けていたなら。


 「うわ!いっ「ギャッ」!」


 レッツのひもゆるんだ事で勢いのまま地面に膝から崩れ落ちる……。と同時に聞こえた悲痛な声。


 「へ?がぁ!!」 


 少女の悲痛な最後の声は、トラックの衝突音で呆気なく掻き消され。気づけば身体は空に近づいていた。


 --あぁ……。そうだ、そうだった……。テレビ見た事あったな--


 夏のは宙を舞いながらスローモーションの様にある出来事を思い出していた。


 家族の様に兄弟の様に育った愛犬と男の子。その2人は本当に仲が良くて、だからその日もいつもの日常も男の子にとっては何でもない1日の始まりで、でも、その子愛犬にとっては違っていて。


 --そうだ、どんなに仲が良くても言葉が通じない2人は運命に抗えず男の子は……。私も同じだなぁ、何で今になって--


 


 --あぁ--レッツ、レッツ!ごめんねぇ--


 夏は人生初の走馬灯を体感しながら何処に行ってしまったのか分からない愛犬に必死に謝り続ける。


 それでも身体はゆっくりと……ユックリと?


 --これは、罰なのだろうか。愛犬の忠告も言う事も聞かなかった私への--


 身体中痛い声も出ないのに、思考だけは止まらない、地面にブツからない……。


 --いたい、イタイイタイイタイ!!


 終わりたいのに終わらない早く!早く終わらせて!!--


 そんな夏の願いも虚しくゆっくりと終わりの無い重量感に夏の思考も崩れ、理性を放棄し掛けたその時だ。


 あぁ--、ぁ?


 黒くなり掛けた夏の視界に眩い光が輝き、その光の優しさを感じた夏はまた思考が安定し、次は小さい頃の記憶が目覚めはじめる。


 --そうだ、小さい頃。多分私の思考がハッキリする時世界がゆっくり進む感覚があった。あの時もこんな感覚だった。かと思ったら次の場面ではいつの間にか友達になった子と……。なったこと?--


 記憶がハッキリする間際まぎわ目の前の光が強くなり記憶の片隅と共に夏とレッツは世界から消えていた。


 --約束だよ!--は何があっても!--


 --期待してない、期待なんてしない!でも--は、----だったよ--



 


 「……。やっちまった、ハハ、俺の人生も終わった「何ほうけとるか!早く救急車!警察呼ばんか!あん子が何処に行ったか分からんとぞ!」


 失意、嘆き、怒り、いつもの日常に生まれた非日常は次第に集まった野次馬に埋もれて行く。


 歩道には夏とレッツの血の海が既に固まりとなっており、警察が来る前にと撮影する者、そして謎の消失をした2人の遺体を純粋に探す者、謎を追求する者、話題に流される者。


 なんて事はない、これは彼らにとっていつもの日常なのだ。


 「えー、続いてのニュースです。先日のトラック事故で、蒼葉夏さんと飼い犬のレッツが巻き込まれその後2人の行方が未だ不明。この事件、神隠しなど囁かれていますが本日は専門家である先生を2人お呼びしております。この事件本当に夏さんと飼い犬のレッツは神隠しに遭ったのでしょうか?」


 「神隠し!?そんなもの有りませよ。この事故はトラックの整備不良で起きた事故です!近くには川も有り山の近く、捜査までに時間がかかったとすれば、あるいはトラックに巻き込まれ「いいや!それは違う!」何が違うんですか!」


「そもそもトラックの整備はしっかりとされていた!調べた結果も不具合無し!しかしあの山道道路の時だけ不具合が起きたドライブレコーダーでも運転手がしっかり対応しようとした記録も残されている!事故現場の川だって雨が降らない限り穏やかな川だ!あの日は晴れていたし夏さんだけで無くペットまで消えているんです!この不可解な事故は何者かによる儀式で!」


「辞めないか!そんな合間な事で遺族を更に不安させてどうするんですか!」


 「お二人とも落ち着いてください!えー、CMの後は現場の中継です」


 耳に馴染む音楽と共に画面が変わる。2人の失踪神隠し事件は、瞬く間にお茶の間をにぎわせていた。


 「どうもー!オカルトユッチバーのカコトモです!今回はあの事故の真実はいかに!謎の解明と2人の早期発見の為力になればと、考察動画撮るから皆んなも意見があったらジャンジャンコメント頂戴!」


専門家ですら解けない謎を解こうとする人気モノになる為に自分を持ち上げる者。


「こんばんはー、俺たちは今事故現場の町?村?に来ています!夜なので小声で話してまーす!」


「いやー流石にまだ事故現場は、見れなかったねぇー、て事でこの村に何かいわくがあるのか検証していきまぁーす!」


自分達の足で目で見て謎を解こうとする面白半分で足を運び、ある事無い事話す者達。


 何でもない彼らにとってはいつもの日常として溶けていく話だ。


 


「……。うぇー!ほんっとこの世界、嫌!人間って気持ち悪い!何て見るもんじゃ無かった」


 少女は廻るクルクルと。


 「それにしても、今回はちっとイレギュラーがあったけど、問題無くストーリーは紡がれたわ」


 不意に開かれた少女の瞳、まるで星空で有り羅針盤の様でもある。


 「さってと!私もこの世界から帰りましょ、戻ったら彼女はどんなストーリーを描いているかしら!フフ、アハハ!」


 廻る廻るクルクルと白い星の輝きの少女は廻り廻って消えていた。






 

 


 


 


 




 







 


 

 


 




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