月の押印はおされず
紫鳥コウ
月の押印はおされず
「ねえ、起きてる?」
「今日の朝は雪かきをしないとな」
「だから、寝たいの?」
「うん、ぼくは半分寝かかってる」
「あなたはいいわよ。ここで育ったんだから」
深い静けさの
「退屈なことを考えればいいよ。杏湖がいままで読んできたなかで、一番つまらなかった本のこととか」
あと一息で、暦は眠ってしまうのだろうと、杏湖は察した。
もちろん、朝早くから雪かきをする暦のことを考えると、寝かせてあげたかった。しかし杏湖は、一睡もできないであろうことを予感していたから、まだ起きていてほしいというのも本音だった。
「杏湖は、遅くまで寝てていいよ。母さんたちに言っておくし、そんなことで怒るような性格でもないからさ」
「そんなことできないわよ。わたしの身にもなって」
「と、言われてもなあ」
暦はあくびをかみころそうともしなかった。
――――――
すでに寝てしまった
眠気が失してしまうと、心身の空虚に不安が流れこんでくる。これから自分は、彼の
――しかし、考えることに疲れてしまうと、杏湖は寝息をたてはじめた。
眠りは浅かった。次に目を覚ましたときにも、杏湖の
変わっていたことといえば、あのこころをかき乱す吹雪が、止んでしまっていたことくらいである。
杏湖はふと、外の景色が気になった。それは、どれくらい雪が積もったのかを見たかったというより、横になり続けていることの息苦しさのせいだった。
「
杏湖はそう呟くと、今日はもう眠れないと覚悟をきめた。
そして、椅子を窓ぎわまで持っていき、もう一枚上着を羽織り、じっと月を眺めはじめた。
月の押印はおされず 紫鳥コウ @Smilitary
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