第10話愛執染着(あいしゅうぜんちゃく)

友加里さんの帰宅後、俺は一連の騒動をまとめようとこれまでの顛末を振り返った

一件落着といったもののわからない点がまだ残っている

裕美に球を、渡したのは誰か、そして友加里さんも持っているはず

なにか見落としているのではと俺はベットで横になりながら何気なく友加里さんのつぶやきをさかのぼってみてみる。

裕美さんと佐藤君と3人で京都に行ったときに撮った写真が何枚がアップされていた。どの写真も皆楽しそうな顔をしている。本当に嫉妬が混じった関係だったんだろうか。そのうちの一枚に違和感を感じる。彼女の目線の先は・・・まさか

俺は慌ててシュリーを叩き起こすと友加里さんの家に向かった。


友加里さんの家に着いたがインターフォンには応答がない。

部屋の灯りはついているようだが、

「シュリーなんとか家の中に入る方法はないか」

「なくわないけど何をそんなに焦ってるの今回の件はけりがついたでしょ」

「いや、終わってない。俺の想像が正しいなら今回の根本は友加里さん本人だ」

ともかく時間が無い。俺はドアノブに手をかける。カギはかかっていなかった

一気に部屋まで駆け上がる。そこにはベットに横たわっている友加里さんとその足元には枕が転がっている

やられた、友加里さんと言って彼女を揺さぶる、が起きる気配はない

くそっ

「なにどういうことなの、大我」

「詳しいことは後だ、ただ枕返しの正体は彼女だったんだよ」

枕が返されているということは彼女の魂は体に帰れずさまよっているはず。この辺にいるといいのだが。

「シュリー見えないか、彼女が」そう叫ぶ俺


「あそこ」

シュリーが指さす先にかすかだが影が見えてる。慌てて枕を彼女の頭に戻す。が彼女の魂は戻ってこない。

なぜだ、彼女の肉体をよく見るとくだんのキーホルダーを身につけたままだ。シュリーが回収したと思っていたのに。俺は慌てて球をむしり取ろうとする

触れた瞬間吹き飛ばされ壁に体を打ち付けた。

「やっと手に入れた現世うつしよのこの体渡さぬ」寝ていたはずの友加里さんが起き上がる。

彼女が発する声には似ても似つかない


なんてこった。どうやら別の魂が友加里さんの体に入ってしまっているようだ

一体どうすれば。ともかく突破口を探したい。

「おい!お前。なんで友加里さんの体がほしいんだ」

俺はそいつに質問する

「我はこの女が必要なのではない、実体がいる。そうでなければ紀州の山守に復讐できぬ」意外にも素直に答えてきた。

しかし、こいつは本当の枕返しだったのか。こいつが口走った言葉、 和歌山の伝承で枕返しに命を奪われる木こりの話がある。元々は木の精霊だったはずだが。紀州と言っているし山守というのも一致する。少なくとも200年前からの怨みか。未だ復讐の機会をうかがっているとは。ともかく友加里さんの体にこだわってないなら何とか追い出せる方法があるはずだ。

「もう、お前を伐採した木こりは死んでるんだ、それでも復讐を続けるのか?」

「当たり前だ、一族を根絶やしにするとそう誓った」

説得には効く耳はなさそうだな。となると実力行使か。

実体でなく霊体を相手するならもう一度武蔵を・・「宮」まで言いかけたとき

「だめよ」っとシュリーにたしなめられた。

「なぜだ!彼女の体に魂が無いなら、切っても彼女には影響ないだろう」

「ダメよ、体と魂をつなぐプラーナコードを切ってしまうかもしれないでしょう、そうなったら彼女は生き返らないわ」

ンなこと言われてもなあ。よし、なら

「わかった。だがそれより復讐するならこの女のほうがいいだろうどうだ?」

と言ってシュリーを指さす。

「相手が男なら色仕掛けでこの世の絶望を味合わせたほうがよくないかい?絶対男ならこっちの女を選ぶって」

そう枕返しに提案する。シュリーはあっけにとられた顔をしているがまあ問題ないだろう。

枕返しはしばらく考えたあと

「確かにおまえの言う通りかもしれぬな」

策に乗ってきた。

「ご所望とあればすぐに寝かしつけます。どうぞこの枕に入っていただければ、すぐあの体があなたのものですよ?それとも怖いですか?」

すこしあおり気味にまくしたてる。

「うむ、そんなことは無い、相分かった」

そういうと友加里さんの体は力なく倒れた。

俺は枕に向かって結界をはるため早九字を切る。

成功したのだろうか、断末魔の叫びなどは聞こえなかったが。

「やるわね、枕返しは枕に閉じ込められたみたい。まさか私を生贄に提案するとは思ってなかったけど」と言って横っ腹にパンチを入れてくる、思わず、ぐっと声が出た。マジで痛いんだが。

シュリーが枕に魂が入っているのを確認したのなら間違いなく閉じ込めは成功したのだろう。

「なあ木の精霊よ確かに木を切って森を荒らす人間を恨むのも仕方ないとは思うけど

違う人を襲うのは筋違いだわなあ、申し訳ないけど元の世界に帰りなさいや。ここはあなたのいた世界じゃないんだから」俺は枕にそう話しかけると枕を手刀できった。なぜそうしたの自身でもわからなかったが、そうしたことで枕からは妖異の気配は消えた。

これで友加里さんが帰るべき場所は問題なくなったのだが一向に帰ってくる気配がない。周りを見渡すと部屋の隅のほうでうなだれて浮かんでいる

俺はゆっくりとした口調で話しかけた。

「友加里さん、あなたが誰を好きでもいいんじゃないですかね?相手に受け入れられないからって自殺する必要はないと思いますよ。まだね若いんだしね。これで人生終わりにするのもったいないじゃないですか」

「うん?どうゆうこと?」とシュリーが、聞いてくる

「友加里さんは裕美さんのことが好きだったんだよ。ただ今回の件で裕美さんに好きな男性がいることがわかって辛かったんじゃないかな。そこにあの球だ。2つとも枕返しが封印でもされてたんかな」

心の隙間をつかれたといったところだろうか

そういってもなかなか帰ってこない。俺は仕方なく

「オン カカカ ビサンマエイ ソワカ」と地蔵菩薩の真言を唱えた。ちょっとでも彼女の苦しみをやわらげれればと。

唱え終わったあと、彼女の魂は薄い光に包まれて、体に戻っていった。

静かな寝息を立てている。球がなくなった今彼女たちが枕返しとなって人や自身を襲うことはもうないだろう。ただそれで平穏な日々が過ごせるかと言えばどうだろうか。まあ人生に悩みはつきもの。自力で乗り越えていくことを期待しよう。

俺とシュリーは静かに家を後にした。


「でもなんで友加里も怪しいって思ったの?」

帰り道そうシュリーは聞いてきた。

「いや、大したことじゃないんだ。直接的にそう思ったのは、写真かな」

「写真?」

「そう、友加里さんの視線は佐藤さんと裕美さんが並んでるときには友加里さんに向いていたし、被写体として中央に映っているのは裕美さんだったからなんだ」

そう不自然なくらいに裕美さんが中央だ。そして友加里さんの視線も。

「それだけじゃ根拠薄くない?」

確かにそうだろう。俺だって確信があったわけじゃない。俺自身行動を起こしたことをおかしいとは思っている。

「でも、そういったこと、案外大事なのかもね」そう言ってシュリーは優しく微笑んだ



愛執染着あいしゅうぜんちゃく


強い愛欲にとらわれるという意味 愛染の語源

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る