已己巳己(いこみき)の章
第5話戒驕戒躁(かいきょうかいそう)
俺は結局怪異探偵としての新人生を送ることになった。
新しい人生が始まって2ヶ月ほどたった。
今のところ相談は0件
やったことといったら自分の昔を見に行くことと都市伝説系の考察動画を何本か作ってアップした程度。
働いていた会社なんかを見に行った時、在籍していた記録や記憶も全てシュリーに消されているので隆文を見かけて近づいても不審者扱いされた時は正直泣きそうになった。シュリーにも俺の記憶を消してくれとお願いしたが、もう一人の俺の存在のせいで俺の記憶を改変することができないといわれた。
動画のほうは、再生回数は4桁、全然だめである。
2か月近くも暇な時間ができると不思議なもので過去にもだいたい諦めがついてくる。この辺は人との関わりを避けて生きてきたことが幸いしたのかもしれない。
「暇ね」
居間でゴロゴロしてるシュリーが言う。
2ヶ月間で一番変わったのはこいつだ。まがいなりにも女神だろうに、今やただの居候。話し方も威厳もへったくれもないただのねーちゃんと化している
「そらそうだろう、俺だってあんな怪しいページに何か相談を持ち込みたいって思わんぜ」
「じゃあさあこれはどう?」
「どうって」
そういって差し出されたタブレットを覗き込む、とあるつぶやきが表示されていた。
えーとなになに?
(最近に本当に眠れないの。というか寝れてるんだけど疲れが取れなくてつらい)
一見ただのつぶやきにしか、見えませんが
「これがなにか?」
「最後までちゃんと読んで」
へいへい
いくつかやり取りが続いてる。
(寝れなくなった理由思い当たることある?)
(特にないんだよね まあ、変わったことっていえば寝て疲れるときって決まって朝枕がどっか飛んでってるの)
(それって寝相わるいだけじゃない?)
(だよねえ)
ここでつぶやきは終わってる。
フム、シュリーが見せるってことはこれは妖異の仕業なんだな、だとすると。俺は顎に手を当てて記憶をさかのぼる、ここから思い当たるには、睡眠と、枕か。となると
「枕返しあたりかな」
「あなたほんと無駄な知識はあるわね」驚いた顔で見られる。
しかし俺にはピンとこない、
「言っててなんだが、古来からいる妖怪だろう?」
シュリーが言うには日本では古来から転移してきた妖異のことを妖怪として認識してきたんだそうだ。で、今回はおそらく枕返しの仕業だろうと。そしてそれを倒せと。
倒せば魂は元の世界にもどるらしい。シュリーは俺に下駄を履いた少年のような仕事をしろと言ってるのだ。もちろん格闘技経験なし、へたれに分類される俺には明らかに荷が重い。ためしに断るとどうなるか聞いたが、もとよりそんな選択肢は存在しないといわれた。神に睨まれてあの世に行けば確実に地獄かなこりゃ。
さて、そうは言ってるもののやらないわけにもいかないようだ。
つぶやきの主とどうやってコンタクトとるか。とりあえずさっきのつぶやきにコメントしてみるか。
(ども。はじめまして、しがない動画を投稿してます
ちなみに名前をおぼろとしてるのは自身の存在のあいまいさに対する皮肉だ。
さて、こんな怪しさ満開の書き込みに反応あるかな、俺はゆっくり待つことにした。
意外にも昼過ぎには返事があった。どうも若い女性のようで、
何でも俺の動画を見たことがあるそうだ。奇特な人もいたもんだ。
さらに、周りからは隙間男(都市伝説よく聞くベッドの下に隠れてる男)とか家にいるんじゃないとの?とか散々脅されていたので正直気になっていたんだそうな。相談相手もいなくて知り合いに都合よく霊能者がいるわけでもない。
ちょっとした霊感持ちなら周囲に沢山いるようだが皆家に来ては何かいるかもって言うだけでさっぱり役に立たないので俺からの連絡は渡りに船だったようだ
何度かのメールのやり取りのあと彼女からは夜に記録したという動画のファイルをもらった。
動画の再生を始める。シュリーと二人して動画を見る。はっきり言って真っ暗で何も見えない。
「あっ、あ、く、はあぁぁ」そんな中女性の苦しむような声が聞こえてきた。画面にくぎ付けになる。
「こ、これはまさか喘ぎ」
スパーンとシュリーのチョップが頭を直撃する。
「何言ってんのこのエロおやじ、ちゃんと見なさいよ」
ちょとは加減しろよな、と俺は頭をさすりながら真っ暗な画面を食い入るように見る。何も映ってはいないのだが、なんか違和感がある、暗闇がひずんでいるというか、ゆがんでいるというか。
「シュリーには見えているのかい?ここにいるものが」
「うーん、はっきりは見えないわね、さすがに光学による録画では無理があるんじゃないかなと、相手が映らないって意識を持っていれば記録に残すのは難しいわ」
なるほど、ということはこいつは映りたくないと思ってるってことか。世にある心霊写真というやつはみんな写りたいんだろうか。
「さあね、それぞれのことだからわからないわ」とシュリー
まあ確かにそうなるか。ただ今回のやつは正体を隠したい、見られたくないという意思が働いていることは確かだ。まあ正直なにがいるのか分からなかったが、何かいるのは間違いないらしい。
俺はいきなりだが、家に行く提案をした。見ず知らずの男性を家に入れてくれるか疑問だったが、知り合いの女性霊能者(シュリー)を連れていく話をすると二つ返事で okだった。
「ほらねあんただけだったら、ただの怪しい中年オヤジだから。 私いてよかったでしよ?」などと隣でのたまう奴。元をたどせばあんたにやらされてるんだけどなあ。
焦らず驕らず騒がずに慎んで物事を行うこと
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