第4話暗澹溟濛 (あんたんめいもう)

ぽつぽつと顔に何か当たっている

「寒っ」

俺は寒さでで目を覚ました。手で顔を触ると濡れている。

どうやら雨の中屋上に倒れていたらしい。

顔どころか体も下着までびっしょり濡れている、

どうにも意識がまとまらない、朦朧としているともいえるかもしれない。ともかく早く帰って着替えたい。ただただこの場所から早く離れたい、その思いだけが俺を占めていた。

俺はふらつく足どりでビルからはなれ、車に乗り込み家へと急いだ。色々ありすぎて頭がついていけない。

本当に俺は一回死んだんだろうか、車を運転しながらも体を触るが何の違和感もない。少しだるい程度だ。並行世界の俺、そして神との邂逅。色々あったはずなんだが実感がない。ともかく今はゆっくり風呂にでも浸かって酒でもかっくらって寝たい。

そんな思いしか出てこない。

俺はスマホを操作して家の風呂を沸かす指示を出した。

ほどなくして自宅についた。ふう、と息を吐いてマンションの自室へと向かう、

ドアの前につくと、なんとなくだが違和感がある。なんだろう、そう思い静かに見渡す。誰もいないはずなのに窓から薄くだが光がもれている。俺はゆっくりと静かにドアノブを回して引いてみる。カギはかかっているようだ。

電気を消し忘れたのだろうか、それとも誰か家に侵入してるのか? あんなことがあった後だけに思考がシリアスモードになっている、しばらくそこに立ち尽くしたが疲れが勝った。考え過ぎか。そう呟いて俺は鍵を開けて家に入った。

直ぐに風呂に入るべく衣服を洗濯機に脱ぎ捨て着替えとタオル取りにリビングをあけた瞬間。

「おかえりー」

「うぎょおおおおおおおお、お前なんでここに!」

ま、間違いない、そこには奴、シュリーの姿が

「まーまー 、そんなことよりまずは粗末なもの隠したら?レディの前なんだし」

あっけにとられる俺にシュリーは下半身を指さして言う。

いや不法侵入者にそんなこと言われたくないし、しかも粗末とか言うな自信はないけど。がともかくも近くにあったお盆て隠す。まるで温泉旅館の宴会芸だ


「座ったら?、落ち着いて話もできない」

立ち尽くす俺を見ながら、そういって床を指さす。しかもお茶をすすりながら。

俺は警戒しつつ裸のままお盆で隠して正座する一体何の羞恥プレイなんだ。さらにここ俺ん家だし。

「えーと、先ほどお会いした神様ですよね、なんでうちにいるんですか」

恐る恐る聞いてみる

「私はこれからからを守らないといけないの。それにあなたを生き返らせた理由の妖異撲滅をちゃんとしてくれるか見届けないといけないしね。お目付け役ね。これからちょくちょく顔を出すわ、じゃあねそれだけ言いに来ただけだから。そうそう早くお風呂入入らないと風邪ひくわよ」

そういってシュリーは目の前からすっと消えた。一体何だったんだ。とぼやきつつ、俺は風呂に入った。

ともかく疲れた。ひと眠りして 目が覚めたらいつもの日常が待っていてくれるはず。そう願って俺は風呂からあがり、ベットに倒れこむように眠りについた


翌朝カーテンの隙間から差す光で目が覚めた、スマホの画面を見ると月曜になっている。確か今日は日曜日のはず。丸一日寝ていたのだろうか。。まあそれも仕方ないか。なにせ一回死んだんだし。起き上がろうにもめちゃくちゃ体がだるいし頭も痛い。俺は這いずるようにベッドを出ると体温計をとり、熱を測った。38度、結構あるな。もう今日は仕事休もう、そう決めた。

理由は昨日死んだためとは言えないなさすがに。まあ風邪でいいか。電話をかけようとアドレス帳を開く。

えっとあれ?会社関係をまとめたアドレスが全部ない。なんでだ一部のデータだけ消された?

「あーやっぱりねあなたの記憶は改変できてないんだ」

「へっ?」俺は引き続き妙な声を出してしまった。見ると俺のベッドにシュリーが腰かけている。

「そんなに驚かないでよ、ちょくちょく顔出すって言ったじゃない」

いや確かにそんなこと言っていたが。

「座ったら、落ち着いて話もできない」

なんかこの間も聞いたなその言葉。

気が付くとシュリーは今度は居間のソファーに腰かけている。

俺はコーヒーを2つ入れてシュリーの対面に腰かけた。

ありがとうと言うと彼女はコーヒーを受け取る。神もコーヒーを飲むんだ。

「さすがに混乱してると思ってあんまり説明しなかったのよ、これでもちゃんと気遣いしてあげたんだから」

「その前に仕事を休むっていう連絡だけさせてもらってもいいかな」

「必要ないわ、説明してなかったけどあなた仕事やめてもらってるから」

はっ?なんだって。俺はあやうくコーヒーを吹き出しそうになる。

「ちょっと説明するわね、まずあなたには私からの仕事に集中してもらうために仕事はやめてもらったわ。」

「ちょっ」

「だまって、まだ説明の途中!」シュリーは俺の声を遮ると話を続ける

「で、これから私の依頼を受けるごとに依頼料を払うわ、それなら生活していけるでしょ。」

「あと、私のことは妹としてあるからよろしくね」といって紙を見せてきた。

俺の戸籍だ。 確かに見ると妹が増えてる。

しかし仕事を辞めさせたり、戸籍を変えたりできる神、本当に俺必要なのか?

「あのさ、神様よ」

「さっき妹って言ったでしょ、これからはシュリーって呼んでね」

神様を呼び捨てにするのはちょっとはばかられるが、本人の希望というなら仕方ない。

「じゃあシュリー、あのさ」

「ん?なに」

「俺って本当に必要なの?こんな簡単に人間世界のことを改変できるなら妖異も倒せるのでは?」

「そこはね、残念。私の力が及ぶのは因果律がこの世界に根差している事象だけなの。だから、別世界から来たものは因果がこの世界にないから私からは干渉できないのよ。だからあなたが必要なの」

うむ話が突如としてシリアスか、ともかくそういうことか

ただ自分に何ができるかまったく想像できないが。

「じゃあさ、依頼料とかじゃなく預金を1億とかにすることも簡単に?」

「ええできるわよ、でもやらない。人って生き物は金があると怠けて働かなくなるからだめよ」ケチとは思ったが言わなかった。それよりも気になっていることがあった。俺はなんでこんないきなりの展開を認めて受け入れていられるのだ?もしかしてシュリーが何かしているのだろうか。

「俺はなんでこんなに落ち着ているんだ」

「さあ、私にも分からないなわ」

そう言ってシュリーは両手を上にあげるジェスチャーをする

「あなたって半分ぐらい魂なくなったでしょう?それで感情の起伏がなくなってるのかもね」

まったくこの神様は怖いことはさらっという。この間の話だと影響ないっていってたじゃん。

「じゃあ隆文の記憶は?」

「約束通り消しといたわ、あなたの交友関係などはすべて真っ白ね、誰もあなたのことを記憶している人間はいないわ」

それはさすがにあんまりでは。そらあんまり交友関係は広くも深くもない人間だが

「死んだんだから一からやり直すって思って頑張って、サービスでこれも作ってあげておいたから」

そういって彼女の差し出したタブレットには1つのホームページが表示されていた

「怪異よろず相談所」と書かれている。

「まさかこれ」

「そうよあなたの新しい仕事、ホームページも動画投稿のサイトにもちゃんとアカウントまで作ってあるんだから」

うそだろ、胡散臭いわ、いかがわしいわ、無駄にちゃんと作ってあるし。

正直もう俺の人生終わってくれてよかったのに。一体どうなっていくんだ。これから


暗澹溟濛あんたんめいもう

先が真っ暗で見えない希望の持てない状態


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