第3話前後不覚(ぜんごふかく)
屋上を見渡すとそこには錆びた祠があった、酸性雨のせいか屋根の銅が錆びて青緑色になっている。手入れもされていなさそうだ。
当たりを見渡すが、誰もいない。俺と隆文は祠へと向かった。
「以外に遅かったな俺 、もっと優秀かと思っていたぞ」
不意に、後ろから声がした。
振り返るとそこには俺が立っていた、さっき見たとは言え思考が追いつかない。
「いや大我ならこの程度」と隣の女性がツッコミを入れる
しかも、目の前の俺は別の俺がいることをはっきり認識している。
「ちょっとすみません あなたは俺なんですか?」
思わず声を出した。混乱してたとは言えなんとも間抜けな質問だ。
「ほらなこの世界の俺は・・あんまりよくないだろ?」と俺
「確かにそうかも」 とクスクスと笑われている
なんだかちょっと頭に来たぞ、初対面の奴に(俺だけど)なんでここまでコケにされないといけないんだ。
「やっと会えたな俺、わざと広瀬に見つかって誘い出した甲斐があったってもんだ」
「な?一体なにを」俺に会いたかったのか?俺が、一体なんで、俺は混乱の渦の底にあっという間に沈み込んだ。
「会って早々だが質問だ。お前は安倍有美という女を知っているか?」
いきなりよくわからない質問をしてくる
「一体何を言って」
「答えろ!反問は許さない」
そう言って俺を威圧してくる。
「いや、残念だが名前を聞いたこともない」
自分でも驚くほど素直に返事をした。
「そうか、この世界にも有美は存在が無いのか」
一体誰のことを言ってるんだ。しかも居ないじゃなく無いだと?
だがおかげで少しだが落ち着けた。疑問を持ち考えることで目線を変える。俺は昔からこの方法で色々なことから落ち着くことができた。
よくわからないが俺に似てるが俺では無いのは確かなようだ。
「おい、この大我もどき。一体お前なんなんだ」
黙っていた隆文が食って掛かる。
「おまえはどこにでもいるんだな、広瀬」目を細めて懐かしいものを見るかのような目線を送っている。
「すまないな、だが消えてもらう」
そういって俺は俺に近づいてきた。すっと手が伸びてくる
なんかやばい。本能的にだが、こいつに触れられてはいけないような気がする。
俺は思いっきりバックステップで距離を取るが、そこには金髪の女性がいた。
「残念ね、勘はよかったけどちょっと足りなかったわね」
そういって俺を羽交い絞めにする。小さいのにものすごい力だ。振り払えない。
逃げようともがいている俺に俺の手が俺の頭に添えられる。
触れられただけなのに意識が遠のいていく、これがドッペルゲンガーの呪いなのか
薄れゆく意識のなかで悲鳴を上げて逃げていく隆文が見えた。
よかった奴には何もないようだ
「なんだこれ、やっぱりこの世界の俺はダメだな通常の半分くらいしか魂がないな」
「変だね、この世界のは上物だって聞いたのに」そう言って2人は俺から遠ざかっていった。意識は完全にそこで無くなった。
「どお?思い出した?あなたがどうやって死んだか」
シュリーは頭を抱える俺を覗き込んでくる
ああ確かに思い出した、何だかよくわからないが俺に俺は殺されたんだった。
あれはいったい?
「あれわね、並行世界のあなたなの」
ん?さっきの話だと並行世界には同じ自分がいるから転移できないって言ったよな。
「そう確かにね、でもあなたは特別なの、といってもあなたじゃなくて並行世界のあなたね」
「ちょっとかいつまんで説明するわね」
そう言ってシュリーは説明をしだした。彼女が言うには
この世は世界が連なって構成されており、それらを行き来することは基本的にはできない。が、何事にも想定外の事柄というのはあって、それが並行世界の俺と俺の横にいた金髪の女性らしい。彼らは近似値の世界の渡り、その世界の自分を殺すことによって 魂を吸収強化し自身の存在を特異点化することが目的らしい、そうすることで近似値並行世界からではなく、物理法則とか違った遠い世界に垣根を超えて移動できる力を手に入れようとしているらしい。
じゃあ俺は魂を消されかけたのか、しかし消滅して無いのはなぜだ?
「確かにね消えてもおかしくなかった。でもそうなってない。あなた二元論ってわかる?」
正直死んだばかりで色々と投げかけられても困るのだが、
確か二元論とは世界は対で構成されているという。?陰と陽、 光と闇とかいった話だったか
「まあ 大まかにはその認識であってるわ」
じゃあ俺はイレギュラーな俺の対になる存在ってことか?
「察しがいいわね、あなたが陰と陽の陰ってことね、消滅しなかったのは消滅した部分が少なかったから。ついになる存在だから吸収できなかったのね。吸われたの2割くらいかも」
二割って結構なくなっていると思うのだが、それによる弊害なんかないのだろうか
が、ともかくも今は消滅はしてない。
さて本題だが、シュリーは俺に何をさせたいのだろうか。
俺はシュリーににじりよった。
想像はつく、陰と陽対になっているなら俺を俺に殺させるためか、そうだとすると二元論で言えば片方が消滅したら対も消滅するはず
そこにあるのは世界を救ったヒーローの滅エンドだけだ
「かもね、でも初めに言ったでしょう、妖異を倒してほしいと。今のところあなたに彼をどうこうしてほしいとは思ってないわ」シュリーが言う。
うわ、気にするなと言いながらしっかり今のところがついてるよ。
「ともかく、彼のことは私たちにまかせて、あなたには言った通り妖異を排除してほしいの、並行世界のあなたがここに来たせいで他世界の不連続体の魂が頻繁に来るようになったの」
不連続体とは?そして今私たちって言った?
「遠い並行世界のことよ、コピーでも少しずつずれが生じるでしょう、それと同じで遠い並行世界は基本構成は同じようでも違いが大きくなるの。そこの魂が世界を渡ると妖異になるの日本人にわかりやすく言うなら妖怪ね」いらだちながらもシュリーは続ける。
「わたってきた魂を元に戻してあげないとそれぞれ世界を構成する要素が揺らいでしまうの。だからあなたに元に戻すことをやってほしいの」
なんでただのおっさんの俺が?あとたちの説明は?
「イレギュラーの反作用要素だからよ、あなたなら簡単に戻せるはず。だいたい他世界とはいえあなたという個が起こした問題なんだからあなたが処理してあたり前でしょ。あと神は沢山いるでしょ、だから私たちなの、いちいち細かいのよ、だから独身なのよ」
なんちゅう無茶ぶりしかも余計なお世話、しかし、それが生き返る条件みたいなもんか?正直あんまり未練ないんでこのまま死んでもいいかなとも思うんですがね
「あら?いいのかしら あなたのPCに入ってる色々恥ずかしいネタの数々、後本棚の奥にあるブルーレイとかばれると人格疑われるわよ、いい歳してねえあれは無いわ」
おいおい、この神様脅迫してきたよ。
「しばらく心を覗かないでもらえます?」
俺はあえて声に出した。まったく、心が筒抜けじゃゆっくり考えることもできない。
「わかったわ、死んだばかりで考えることもあるでしょうから見ないでいてあげる、ただわかっていると思うけど、あなたに拒否権はないわ」
彼女が言う通り神であるなら俺には拒否権はないだろう、何もできないし、死んでも安寧が待っているとは限らない、死んでからも苦しみが続くというのはたまったもんじゃない。そう考えると、まだ戻る方がいいのかもしれない。
俺は条件を2つ出すことにした。
一つは色々質問をすると思うがそれについては回答をすること、そして隆文のことだ。死ぬほど怯えていると思う。俺をおいて逃げちゃったけど実際逆の立場なら俺も逃げるだろうな隆文のために戦う正義感はもってないし。
「彼?あなた、ちょっと友達は選んだほうがいいわよ、見捨てて逃げるなんて、まあいいわ彼の記憶は消したから、覚えてると色々面倒だしこの時間は家でうたた寝してることにしておくね」俺が話す前に答えを言ってる。約束守ってくれてないやん。
「うるさいわねじゃあ体に戻すわね、あなたの2度目の人生が幸多い人生でありますように」
まったくだ、2度目の人生はお気楽に・・・願わくばこの神様と縁が切れますように
その瞬間俺の意識は途切れた
前も後ろも判断がつかなくなるような状況
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