第2話複雑怪奇(ふくざつかいき)
時間は3日前まで遡る。
「大我、お前昨日駅前のビルの前でなにしてたんだよ、人が声かけても無視だし」
そう言って肩に手をおいてくる奴、
よく言えば好きなことをして人生を謳歌しているし。悪く言えばオタク気質でボッチ野郎だ。
「うん?何のことだ昨日は退社後まっすぐ帰ったし駅前になんか行ってないぞ?」
「またまた 、女の子連れだったからってつれないよなあ」と言って両の掌を上に向けてオーバーアクションをする。
一体隆文は何を言ってるんだ。昨日はまっすぐ帰った。ましてや女連れなどありえない、そもそも今やってるゲームで忙しい。
「むう、おかしいな、あれは確実におまえだったぞ」俺の反応を見て、嘘ではないと思ったのだろう、真剣な表情で考えている
確かにこいつが俺を見間違うことはないだろうしなあ。
「なら大方俺のドッペルゲンガーでも見たんじゃないのか」
面倒くさいから適当に答える。
「おいおい じゃあ大我はもうすぐ死ぬのか」
ドッペルゲンガーとは自己幻視と呼ばれる現象で、自分と同じ存在を見かけるというものだ。本人がそれを見ると近いうちに死に至るといわれており、 元々死にかけの人間が多く体験するということもあるので、見たら死ぬのか、死ぬ奴が見るのか、なんとも言えないのだが。
「でも、そうとしか考えられないな、こりゃ絶好のネタじゃね?」
適当に答えたはずだったのに、食いついてきやがった。こいつ他人事だと思って。隆文は俺のドッペルゲンガーをいいネタにしようと思ったようだ。
隆文と俺は趣味半分、実益半分で動画投稿をしている。内容はオカルト、都市伝説系だ。
実を言うと俺は霊感持ちだ。見えると言っても時々だし、だからと言って祓ったりすることはできない。周囲を怖がらせるだけで役立たず、とはよく言われる。
俺としては、だからこそ超常現象の原因を確かめたいと思っているのだが。隆文は単なるオカルト好きだ。疑いもなく信じてる。
過去には心霊スポットに出向いてその原因を調査したり取り除いたりなんてこともやった。霊能力と呼ばれるものでは力不足で無理なので、ある仮説をもとに幽霊退治装置っぽいものを作ったのだ。そのためか時々だがゴーストバスター系の依頼も舞い込んだりする。会社は副業禁止なんで正体は隠してるんだが。
「じゃあ次のネタはドッペル君でいこう」と隆文
確かに都市伝説としては一般的なネタではあるが・・・解説は見たことあるが実際に追いかけて見たという動画はあんまり見たことない。
「わかったよ 、どうせ、見間違いでしたー、見つかりませんでしたー、の落ちで終わると思うけどな」
こういったネタは不発が多いし、次の動画のネタも今のところは無いしな。
そういうことで俺たちは、「俺」を探すことになった。
まあ実際に見つかって伝説が正しければ俺は死んじゃうんだがな。
2日後の土曜日に俺たちは俺をみかけたという商業ビルの前にいた
駅前なのにテナントがほとんど入ってないビル。廃墟といっても差し支えないほど
隆文の話によれば俺の偽物は女の子と連れだってビルに入っていったとのこと。全くうらやましい限りである。偽物のくせに
俺と隆文はビルの入り口が見えるところにワゴン車を駐車して中からカメラで撮影してドッペルを待つことにした。
どうせ見つからないと高をくくっていたが、案外早くその時は訪れた。
監視を始めて30分くらい立った頃だろうか突然カメラの映像が乱れ始めた。
カメラから転送された映像をタブレットで見ていたのだが画像のブロックのノイズがひどい。
たまりかねて外を直に見る。そこには
「俺だ・・・・」
俺は息をのんだ。それは明らかに俺だった
あの寝癖のついた髪、着こなしを意識しない服のセンス、どっからどう見ても俺としか思えない。
ただ一つ違うのは隣にいるのが白人の金髪のショートカットのお姉さんが寄り添っていることぐらいか。
「でたでた。じゃあちょっと声かけてお前か確認してくるわ」
横で一緒に見ていた隆文が言うや否や車から降りようとする。
「ちょっと待て、」
俺はあわてて静止するも聞かず、隆文は車から飛び出していった。全くあいつは、トラブルを面白がるのも大概にしてほしいものだ。正直様子を見て判断したかったのだが飛び出していったものは仕方ない、
俺は隆文に付けておいたマイクのスイッチを入れると車の中から隆文の動向を観察した。
「おーい、大我何やってるんだ」
そう言って隆文は道路を横断して俺(偽)に近づいていく。
「ああ広瀬か、 いや実は動画の依頼があってな、現場を見に来たんや」と俺(偽)
答えに澱みがない
「なん?俺に黙ってそんなことしてるんか、聞いてないで」と隆文
「すまんすまん 急な依頼だったんでね」と言って隣に佇む女性をちらっと見る
「急?こちらの女性が依頼者なのか?」
隆文は金髪の女性の顔を覗きこもうとするが、すっと俺(偽)が隆文と女性の間にわって入る。
「すまんそうなんだ、が、彼女からの依頼には俺が一人で調査に同行することが条件になっていてな、たとえお前でも詳細は言えないんだ」
「またまた、 そんな美人だからって」
ぐいぐい行く隆文、お前それお近づきになりたいだけやろ
「申し訳ないが、この件は神代一人に依頼したのであって他者には関わってほしくない」
突然黙っていた彼女が口を開いた。日本語だ。彼女の声は穏やかだが氷のように冷たかった
あまりに唐突すぎたため隆文はおたおたしている
「ええっとずっと一緒にやってる相方なんですけどねえ」と顔色をうかがうが、彼女の冷ややかな顔つきは変化することはなかった。
「わかりましたよ、大我今度おごりな」彼女のその表情に気おされて隆文は折れた。
「ああ、すまない、よろしく頼むよ」
そういって俺(偽)と金髪の彼女はビルの中に入っていった。
様子を見ていた俺は、2人の陰がなくなるを見届けて隆文と合流する。
「なんだあれ 、完全にお前じゃんか、全然違和感なく話したし、むしろあっちが本物でお前が偽物とかなと思えるぐらい」
隆文の感想はもっともだ。どう見ても俺だった。
俺は顎に手を当てて考え込んだ。
本当に俺なのか、いやいや、ちょっとまて俺は俺だし そんなありえない 。
ともかく落ち着け、いや落ち着こう。 事実は事実だ。
事実をありのままを受けてその上で、考えを整理しよう、本当に違いがなかったか?いやあったはずだ。少なくとも俺は隆文を広瀬とは呼ばない。隆文の知らない人間の前だったからということも考えられるが、いきなり出会ったんだ、そんな機転も利かせられないだろう。
しかも関西弁が出ていた。関西在住だが俺は関西弁はほとんど話さない。やはりあいつは俺にそっくりほぼ俺だが、あくまでほぼなのだ。
ならばどうする。どうする・・・
こうなったら直接見て確認するしかない。ドッペルゲンガーを見たら死ぬといわれてるが、あれはおそらくドッペルゲンガーじゃない。
ここはやるしかない。
俺と隆文はやつを追いかけてビルの中に入ることにした。
問題はどこに向かったかだ。エレベーターを見ると最上階に止まっている。
最上階に行ったんだろうか。彼らの話していた内容を思い出す。
依頼を受けて・・・そう俺は金髪の美女から依頼を受けてと言っていた。俺が受けれる依頼ということなら、オカルト系しかない。
ということは、このビルにもオカルト系の調査に来ているに違いない。
俺はスマホを使って検索する
すると出るわ出るわ、すべての階で目撃例が発生しまくり。
むしろなぜ今まで知らなかったのが不思議なくらいだ。
「えっとなになに、元々神社の敷地だったと書いてあるな」隆文もあきれ顔だ。
全く無茶をするもんだ 、いわゆる聖域というやつは人の思念が集まっているから
怪奇現象がでても当然と言えば当然か。
建物全体で発生しているということわ、どこか中途半端な階ではなく地下か屋上かどちらかに元凶があるのだろう。2択だがエレベーターのこともある。2人は最上階から屋上に向かったとみるべきか。
「隆文、どう思う」
「屋上かな」
どうやら同じ考えのようだ。俺に遭遇した際に”やっぱりついてきましたー”みたいな言い訳が使えるエレベーターは隆文が、俺が非常階段で二手に分かれて登って行った。
非常階段は屋内に設置されているタイプなので音が大きく響く。足音を立てず、耳を澄ませながらゆっくりと登った。
このビルは7階建てだ。 4階ほど上ったがまったく人の気配はしない。屋上にいると踏んだのは間違いだっただろうか。
そうこうしてるうちに7階までたどりつく。
隆文はすでにいて、俺の到着を待っていた。
2人して屋上に出る階段を上りゆっくりと外に出る扉を開けた。
事情がこみあっていて不思議でよくわからないさま
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