第39話 お手紙を書いた朝霧ヨーコさん
現実世界の朝霧ヨーコは今朝からご機嫌です。
いやぁ、昨夜の向こうの白狐のヨーコが楽しかったこと楽しかったこと。
いえね、いつもクロガンスお爺さんとテマリコッタちゃんと過ごす時間も大好きなのよ?
でもね、やっぱり同年代の女の人、ラテスさんが加わると楽しさがさらにドン、とでもいいますか。
いつも以上に楽しかったわけですよ。
結局、1日中
パンを作っては食べ
それをサンドイッチにしては食べ
パスタを作っては食べ
予想通りみんなで1日食べ続けていました。
なんかね、すっごく幸せでした。
こんな1日って、やっぱりいいですよねぇ。
なので、現実世界の私も鼻歌の1つも歌っちゃうよ、ってなわけですよ。
「朝霧さん、仕事中に鼻歌はやめなさい」
さすがに、お局様に怒られました。
は、サーセン。
怒られても、今日の私は満面の笑みのままなんですよね。
はい、お仕事もしっかり頑張りますよ~
◇◇
お昼時
今日の私は、あり合わせのおにぎりと野菜炒めのお弁当。
それをパソコンの前に置いてパクつきながら検索作業中。
検索ワードは「天然酵母」と「手作りパスタ」
昨日ラテスさんには、ドライイーストをおわけしましたけど、
やはり自家製での作り方をお教え出来るようにしておかないと、ラテスさんのお店で安定して提供出来ませんものね。
ラテスさんが
「これ、私のお店でも出したいなぁ」
そう言っていた、柔らかいパンとパスタ。
この2つを、ラテスさんのお店で出せるように協力したいな、と、思っているわけです。
「あれ?、朝霧さんってパスタを手作りするんですか?」
おや? いつもなら私の存在なぞ、無視している男の子のバイトくんが珍しく声をかけてきました。
私は120パーセントの作り笑いを浮かべると
「えぇ、ちょっとねぇ」
そんな感じでお答えしました。
するとバイトくん、なぜか急に興味津々な様子で私ににじり寄ってきましたね……ち、ちょっと近いってば。
「ねぇねぇ、朝霧さん。よかったら今度俺にもたべさせてくださいよ」
なんかそう言いながらニカッと笑ってきました。
「あはは、そ、そうねぇ……」
私は、きも~ち後方に反り返りながら愛想笑い。
結局バイトくん、お昼休みの間中
「ねぇねぇ、いいでしょ?」
とおねだりしてきたんですよねぇ……
うん、確かに君、ちょっと可愛い感じだしさ
一昔前の私ならちょっといいかなぁ、とか思ったかもしれないけどさ
「あはは、そ、そうねぇ……」
で、押し切りましたともさ。
今の私には、現実世界の友人関係よりも、向こうの世界の友人関係の方が大切といいますか
……なんか、普通じゃないですよね?
でもいいんです。
今の私が、そうしたいって思っているんですから。
◇◇
今日は少し残業有りでした。
とはいえ、夜の7時までには終えることが出来ました。
私は、相変わらず部下が残業してても自分は定時に帰ってしまう上司の机上に処理を終えた書類を置いて
「それじゃあお先にぃ」
って声をしました。
……まぁ、私しか残ってないんですけどね、総務。
私は苦笑しながら職場を後にしました。
あれ?
なんか職場の脇に見慣れない車が止まってますね?
よく見ると、なんか手を振ってる人がそこから駆け寄ってくる気がしますね
「朝霧さん、お疲れ」
おや? バイトくんじゃないですか?
「どうしたの、何か忘れ物?」
バイトは社員がいないと部屋に入れませんので、忘れ物を取りに行くくらいなら付き合うよ?
そんなことを思っていると、
「仕事終わりを待ってたんだよ、夜だしさ、家まで送るよ。朝霧さん歩きっしょ?」
あらあら、それってちょっとドッキリなシチュエーションってことかしら?
そんなことを思いながら改めてバイトくんの車へ視線を向けて、
私の目は一瞬で半開きになりました。
バイトくん、いい車に乗ってるねぇ? それ、中古でもウン百万するスポーツカーだよね?
「えぇ、親がね病院経営してるんで、買ってもらったんですよ」
……へぇ、親ねぇ
「朝霧さんさ、予定ないんだったついでに食事もどう? 奢るからさ」
なんか、軽い感じでそういいます。
で、
私は、そんな彼にニッコリ笑って言いました。
「ごめんね。私親のすねかじりって大っ嫌いなの」
えぇ、ニッコリ笑ってそう言いました。
一瞬、バイトくん「は、え?」
みたいな感じでたじろいでいましたけど、私はそんな彼を残してスタスタ帰って行きました。
えぇ、親のすねかじりは大嫌いなんですよ
今まで付き合った彼がことごとくそれだったんですよね……加えてマザコンで……
……なんで同じタイプしかよってこないのかしらね?
プンスカ
◇◇
帰宅前に少し嫌なこともありましたけど、家に帰った私はいつものようにまず掃除から始めます。
とはいえ、
すこ~し、20代に頃にあったすこ~し嫌な思い出を思い返して、嫌な感じの私。
そこで私は寝室へ移動。
枕からあの本を取り出しました。
魔女魔法出版から送られてきたあの本です。
中をめくると、たくさんの絵が描かれています。
元は何も描かれていなかった
真っ白な1冊の本でした。
今では、私が向こうの世界で体験してきたことが、絵として浮かび上がっています。
クロガンスお爺さん
テマリコッタちゃん
ネリメリアお婆さん
ガークスさん
いっぱいの人達が、いっぱいの笑顔で描かれています。
あぁ、なんでしょうね
このページを1枚1枚めくっていくたびに、思わず笑顔になってしまいます。
この本を使って行く向こうの世界
今の私の大切な生活の一部になっています。
そんなページを1枚1枚めくっていく私。
その時、私はフとあることに気がつきました。
この本
最初に届いたときは真っ白でした。
それが、私が向こうの世界で体験した内容が絵として描かれています。
そして
いつしか、その残りページの方が少なくなっていたのです。
私は、その残りが少なくなっているページを何度も見返していきます。
……もし……このページが全部埋まってしまったらどうなるんだろう?
私は、その残り少なくなったページを見つめながら、なんともいえない気持ちになりました。
「う~ん……よし」
私は、思い立つとそのまま机に向かっていきました。
持って来たのは紙とペン。
そのペンで私は紙に書いていきます。
『魔女魔法出版様
いつもお世話になっています。朝霧ヨーコです。
本の残りページが少なくなってまいりました。
私はまだあの世界に遊びに行きたいので、対応をよろしくお願いします』
そう書き終えた私は、その紙に向かって両手を会わせて拝みます。
めいっぱい気持ちを込めた~私的に~その手紙を、私はその本に挟みました。
……これで通じるのかしら……
そんなことを思いながらも、私は本をパタンと閉じました。
そして、いつものようにそれを枕へと戻していき、それをベッドに戻しました。
なんだかまんじりともしないまま
シャワーを浴びた私は、ベッドへと転がっていきました。
頭を枕に載せ、ゆっくり目を閉じます。
◇◇
目を開けると、そこはいつもの木の屋根でした。
……よかった
心のどこかで安堵しながら、白狐となった私はベッドから立ち上がっていきました。
……ダメダメ、今日はパンを売りに行く日ですわ
私は、台所へ移動していくとパン生地を作成するための準備を始めて行きました。
魔法灯の灯りの中で、
私は、材料を準備していきました。
まだ窓の外は真っ暗です。
今日も、良い天気だといいですわ……不安も何もかも吸い込んでしまうほど、抜けるような青空……
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