第38話 みんなと楽しくすごした朝霧ヨーコさん
「いやぁ、パンも美味しいけど、このパスタっていうのもすごく美味しいわ」
ラテスさんはそう言いながら私が皆さんの朝食にと用意したトマトソースのパスタに舌鼓をうってくださっています。
「そうよ、ヨーコさんはパスタもとっても上手なのよ」
テマリコッタちゃんは、ラテスさんにそう説明しながらすごくうれしそう。
私が褒められたことを自分のことのように思ってくれているようです。
ふふ、ありがとう
そんな私の笑顔の前で、
テマリコッタちゃんは、満面笑みのままパスタを美味しそうに食べています。
最初の頃は、口に加えてずるずる……だったものが
最近はスプーンの中でフォークをクルクル……まだぎこちなさはありますが、上手にまとめています。
そして、フォークの先に丸くなったパスタを
あ~ん、パク……モムモムモム
見ているこちらまで釣られてしまいそうになるほど大きくお口を動かして食べていきます。
私がそうして食べているのを一生懸命見て覚えたテマリコッタちゃん。
とっても努力家ですわ。
「ヨーコさん、これ私でも作れるかしら?」
ラテスさん、パスタをマジマジと見つめながら私に聞いてきました。
ラテスさんが今日やってきたのは、ご自身の料理の腕をあげるため
食堂のメニューを充実させるためという思惑がお強い感じですけど
「これ、家で作れたら毎日食べちゃいそう……やだ、太っちゃうかしら」
そう言いながら、ラテスさんは楽しそうに笑っています。
ラテスさんの場合、
料理好き、食べるのが大好きだったその延長戦上に食堂があった、そんな感じがしますわ。
でも、そんなラテスさん
とても大好きです。
みんなでパスタの朝食を終えた私達。
私は食器を片付け始めると
「ヨーコさん、それは私がするわ」
「いいわ、私がするからラテスさんも休んでいてよ」
まるで競い合うかのようにして、ラテスさんとテマリコッタちゃんが私に近づいて来ました。
いえいえ、皆さんは我が家のお客様。
これくらいは私にさせてくださいな。
「今日の私はヨーコさんの生徒です。お客様じゃありませんよ」
そう言ってニッコリ笑うととラテスさんは私の手から洗い物を受け取って台所へと移動していきました。
もう、ですからそれは私が……
「ラテスさんずるいわ! 私だってヨーコさんの妹を目指しているんだから、そのお手伝いをするのは当たり前よ!」
テマリコッタちゃんも一生懸命ラテスさんを追いかけていきます。
でも
私の家の狭い台所では、下半身が蛇で長いラテスさんが洗い物をしに台所に入ってしまうとそれだけで台所がいっぱいになってしまいました。
すると
「よいしょ、よいしょ」
テマリコッタちゃんたら、そんなラテスさんの体をよじ登りながら洗い物の部分へ近寄ろうとしています。
「おいおいテマリコッタ、それぐらいにしてあげなさい」
この光景には、さすがのクロガンスお爺さんも苦笑しながら声をかけていきまして。
ですが、テマリコッタちゃんは
「いくらクロガンスお爺様のお言葉でも、これだけは譲れないの」
そう言いながらどうにか洗面台部分へとたどり着き、シンクの底に置かれていたお皿を手にとっていきました。
そんな、自分の体部分の側までやってきたテマリコッタちゃんを、ラテスさんは笑顔で見つめています。
「それじゃあ一緒に頑張ろうか?」
「うん、わかったわ」
2人はそう言って笑い合うと、そこからは2人で仲良く洗い物をこなしてくださいました。
そんな2人を
私のクロガンスお爺さんは、やれやれといった表情で見つめていました。
◇◇
洗い物を終えた私達は、早速パン作りに入ります。
いつものように材料をボールに入れてこねこねこね
テマリコッタちゃんは、私の大手伝いを日々していますので、すでに手慣れた様子です。
ラテスさんも、この行程はお店でもされているようでして
「ふんふん……このあたりの行程は一緒なのね」
と、メモを取りながら、かつ、しっかり手を動かして捏ねていきます。
やはりドライイーストを見たときに
「これは何なのかしら?」
と、ラテスさんに怪訝そうな顔をされました。
「これは、乾燥させた酵母と言う物ですわ。
今度乾燥させる前の酵母の作り方をお教えしますね」
とりあえず、今日はこう言っておきました……さて、現実世界に戻ったら天然酵母の作り方も勉強しておかないといけませんわね……そうそう、あと生パスタの作り方も……
ふふ……なんでしょうね
現実世界では資格の一つも面倒くさいから取ろうとしないほどずぼらな私が、こんなに一生懸命あれやこれや出来るようになろうとしているなんて……
なんでしょうね……なんだかすごく楽しいですわ。
生地を食パン型に入れてると
「窯の方はいつでもいいぞい」
庭からクロガンスお爺さんの声がしました。
今はまだ生地を休ませないといけない時間ですので、クロガンスお爺さんには
「しばらくそのままでお待ちくださいな」
そうお声をかけたのですが
「うむ? そのままと言われても……合間にトイレに行きたくなったら動いてもいいかの?」
そんな、少しとぼけたクロガンスお爺さんのお返事に
室内の、私、ラテスさん、テマリコッタちゃんの3人は大爆笑でしたわ。
「クロガンスお爺さん、窯の温度を保ってくださいという意味ですので……」
私が室内からそう言うと、
「なんじゃそうじゃったのか、いや、これは失礼失礼」
そう言って笑っうクロガンスお爺さんの、愉快そうな笑い声が聞こえてきました。
「もう、クロガンスお爺様ったら」
そう言うテマリコッタちゃんも、満開の笑顔で笑い続けていましたわ。
「ホントに生地が大きくなったわね……こんなの初めてだわ」
ラテスさんは、一休みさせた後の生地を見つめながら驚きの表情をなさっていました。
ラテスさんがのぞき込んでいる食パンの型の中で、生地が入れたときの3倍以上の大きさにまで膨らんでいました。
「これが先ほどの酵母の力なんですわ」
私がニッコリ笑って説明しますと、ラテスさんは目を輝かせながら
「ヨーコさん、早くこの酵母の作り方教えてくださいね」
私の肩を力強く握られました。
は、はい……し、しっかり覚えて参りますわ。
私は、若干プレッシャーも感じながらラテスさんに微笑み返していきました。
さて、あとは焼くだけですわ。
私達は、食パンの型を手に取ると、それを持って庭へ移動していきます。
玄関をあけ、
庭に出ると、その足でベランダ前にオープンキッチンへ
そこには、窯の管理をしながら待っていたくださったクロガンスお爺さんのお姿が。
「お、来たね。じゃあ焼こうかの」
クロガンスお爺さんは笑いながら窯の扉を開けていきました。
上下2段
その両方に、食パンの型を詰め込んでいきます。
あ、でも、ラテスさんは魔法袋をお持ちなのかしら?
私はたまたま中古の魔法袋をネリメリアお婆さんから譲っていただけましたけど、この魔法袋って新品だととても高価な品物らしいんですよね。
でも、焼き上がったパンを焼き上がった状態のまま保存して村まで持って帰るには、魔法袋は必要不可欠です。
この魔法袋に一度入れてしまえば、
その時点でのその品物の時間が停止してしまう、そんな感じです。
私は、その特製を利用して
家で焼き上げた直後のパンを、すぐに魔法袋へと入れて行きます。
そして、オトの村についてからそれを取り出します。
その結果、
焼き上がって数時間経っているのに、ふっくらふわふわ、焼き上がりたてのパンを皆さんにお売りすることが出来ているのですが……
私がそう思っていると、
ラテスさんは、にっこり笑って私に袋を見せてくれました。
あら? それは魔法袋?
「これはね、荷物運搬袋って言うの。
南の街にあるね、雑貨屋みたいなお店で最近売り出されたんだけどね、機能は魔法袋と同じなんだけど、収納出来る広さがすごく狭くなっている分、お値段がお安くなっているの。
だから、私のような一般人でも買うことが出来たのよ……あ、でも、まだまだ数が出回ってないの……これもね、友達の猫人、ルアって言うんだけど、彼女にすごく無理を言って手に入れてもらったのよ」
そう言って嬉しそうに笑うラテスさん。
そうですか、よかったわ。
と、なりますと、後はパンの焼き上がりを待つばかりです。
「うむ、もうちょいかの」
クロガンスお爺さんは、イスに座ったままそう言いました。
その横では、両手に大きなミトンをはめたテマリコッタちゃんが、すでに臨戦態勢に入っています。
この後も、
先日試験販売したクロワッサンと、残り生地を利用して作成してみたピザが窯に入るのを待っています。
ふふ
なんだか今日は一日食べ道楽になっちゃいそうですね。
そう思いながら微笑む私。
そんな私達を抜けるような青空が見下ろしていました。
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