第36話 幽霊? と、朝霧ヨーコさん その1

 2日に一度、オトの街にパンを売りに行くようになった私。

 前回は、新たにクロワッサンを加えてみたけど、あっという間に完売しました。

 食パンも相変わらず好調ですけど、いっそサンドイッチにして売ってみてもいいかもなぁ

 

 異世界の私、なんだかとっても充実中です。


 さぁ、そんな向こうの世界にあれこれ持ち込まないといけませんからね

 

 私は入力途中だった領収書の山を改めて手にとっていきました。


 カタカタ入力して、処理済みの判子をポン

 現金支給が必要な物は別途経理へ回して、と……


 書類があらかたまとまったところで、経理行きの書類を袋に入れると私は廊下へと移動していきます。

 基本、会社ではパンツルックな私ですけど、


 や~、困ってるんですよねぇ、最近どれもこれもウエストサイズがガバガバになって来ちゃってて。


 ホント、大まじめに釣りバンドでもしようかしらと思うくらいに、ベルトで絞めると貧乏タックが目立ってしまいます。


 う、うれしいことなんだけど、

 今、新しい服を買う度胸はないのよね……今までダイエット&リバウンドを繰り返してきた私としては……


 ま、まぁ、そんなに太ってるわけじゃないんだけど、

 すこ~し、お腹が、ね


 でも、それも異世界行き始めて、あっという間にストーンでした。

 まぁ、ダイエット成功自慢は、リバウンドしたとき辛いのでここまでにして、と

「事務で~す、現金分持って来ましたぁ」

 経理に入ると私は右手に持ってる書類入りの袋をひらひらと


 すると、経理のお局様がすっごく嫌そうな顔をしながら私に手を伸ばします。


「朝霧さん、ちゃんと請求書の内容確認までしてくれてるんでしょうね? こないだ間違った物が混じっていましたわよ」


 あれ?


 ホワ~イ? ケイリノオツボ~ネ


 内容審査はそっちのお仕事ですよね~?

 こないだ「違うの申請きてたんで出し直しさせました~てへ~」ってやったら

「越権行為です」って言って、私を飛び越して上司に文句言いに行きませんでしたっけ。


 まぁ、言いませんけどね~あはは



 で、経理をでるとですね、お局様の上司さんがなんか私を追いかけてきました。

「ゴメンね、彼女、子供さんが夏休みの宿題全然してなかったのが発覚したのに今日も朝から遊びにいったとかでね、すごく機嫌が悪いんだよ」


 あぁ、はいはい

 良いんですよ~私が怒られて会社が回るんでしたら、ドンとこいですよ。



 絶対忘れませけどね~



 さてさて、今日も残業案件はなさそうなので、私は定時にパソコンをシャットダウン。

 

 む?


 こういうときに限って、なんか「更新してシャットダウン」とか表示が出てますね

 これ、下手にクリックすると長いんですよねぇ


 で、しばし考えた私は


 「更新してシャットダウン」をクリックして、ディスプレイをパタン。


 さ、帰ろ帰ろ。


 明日には終わっててくださいね、更新さん~



◇◇


 今日は帰りにホームセンターへ。


 秋野菜の苗を買って帰りました。

 そろそろ裏の畑の夏野菜も終わりつつありましたので。


 でも、ナスだけはまだまだ元気です。


 そう言えばゴーヤが以外に実がならなかったんだよなぁ 

 会社のグリーンカーテンにはすごい量出来上がってたんだけど……


 むぅ


 向こうの世界では実がなりにくいのかな?

 まぁ、そういうことも含めて考えていこう、うん。


 私は家に帰ると、早速ベッドにブルーシートを敷いて、その上に段ボールに入れてもらった苗を段ボールごと置いていきます。

 さてさて、みんな向こうでのいっぱい実をつけてね~。


 

 いつものように、まずは家の掃除から

 日課になると不思議なもので、やらないとなんか気持ち悪くなっちゃうんですよね。


 お風呂にトイレ、キッチンまできっちり綺麗にしていきます。

 ……そういえば、こっちの世界の台所って結構長いこと使ってないような……


 ま、いっか。


 さて、私は掃除を終えると、服を脱いで洗濯機へポイ。

 明日の朝6時洗い終わり設定にして、そのままお風呂にはいります。


 まぁ、シャワーですけどね。


 最近は向こうの世界でも

 パンを売り終わって帰って来たあと、しっかりお風呂に入っているのよね。


 でもねぇ

 『この最中に現実世界の私が目を覚ましたらどうしよう』

 って気持ちもあるものだから、あんまりのんびり入れないのが難点かな。


 さて、お風呂から上がった私はいつものようにベッドに直行します。


 本が入った枕を頭の下にセットして……


 さぁ、いざいかん、異世界へ……あはは、なんてね


 ちょっとおふざけしてから私は目を閉じました。


◇◇


 目を開けると、そこには木の天井が広がっていました。

 いつもの、白狐のヨーコのお家ですわ。


 私は起き上がると、大きく背伸びをしまいた。


 なんでしょう、すごく不思議ですわ。

 現実世界の私は寝入ったばかりなのに

 こっちの私は熟睡して起きたところ……とってもすっきりした目覚めなんですもの。


 さて


 私はベッドの脇にのっかっている段ボールをとりあえず玄関に移動しました。


 まだ家の中は真っ暗です。

 星明かりが窓から入り込み、家の中をくっきり照らしていますので、暗いとは感じませんが、やはり少し見難い感じです。


 私は、寝室の魔法灯に灯を灯すと、それを片手に台所へと移動していきました。


 

 ふふ……なんだか不思議ですわ。

 この世界に来始めたころの私って、現実世界であれこれやってから……いつも寝ていた深夜0時頃にこっちにやって来ていました。

 そしたら、大概、夜が明けた後

 お日様がもう昇った後にやってきていたのです。


 ですが、今の私は家に帰ったら、ほどなくこちらの世界にやってきています。


 そのため、深夜の3時か4時くらいにやってきている感じです。

 でも、あれですわ。

 こちらの世界の白狐のヨーコは、夕暮れと同時に寝ていると言いますか、消えているはずですので、夜の7時頃に就寝している感じですね。


 なので、3時に起きても8時間は寝ている訳ですわ。

 ふふ、こちらの白狐のヨーコの毛並みがいいのも理解出来るわけですわ。


 さて、今日はパンを売りに行きませんので、夜が明けたら窯の掃除をしようと思っています。

 まだ夜明けまですし……


 私は台所へ移動するとお湯を沸かし始めました。


 紅茶を飲みながら山を眺めましょう。

 そう決めました。


 本当に贅沢な時間ですよね


 満点の星空が、少しずつ朱に染まっていって、そして、山の端から陽光が差し始める

 その一部始終を満喫出来るんですもの。


 聞こえるのは風の音の、森の木々のざわめき

 そして、時折聞こえる虫や取りの声


 そんな中、ベランダのイスに座って風景の一部に溶け込んでいく時間。


 私は、そんな自分を思い浮かべながら、カップの準備をしていきます。



 ……さん


 

 ん?


 何か聞こえたかしら?

 私が、台所をの中を見回していると


 

 ヨーコさん


「……はい?」

 今度ははっきり聞こえました。

 女性の声です。



 でもちょっと待って


 この時間に私の家を訪ねてくる可能性があるのって、この一帯を警邏しているガークスさんか、イゴおじさん、ションギおじさんくらいのはずです……


 ネプラナさんは警邏には加わらないって言って入らしたし


 テマリコッタちゃんの声にしては、大人ぎた声に聞こえましたわ……


 私が、台所で呆然としていると



 ズル……ズルズル……と、

 家の外で何か引きずるような音が聞こえて来ました。


 そして



 ~トントン



 ドアがノックされました。


 え?

 え?


 こ、こんなに朝早くに、一体何?


 出るべき?

 無視すべき?


 私は台所で身を固くしていました。


 すると


 ~コンコン


 再び、ノックの音がします……


 どうしよう

 こういうとき、現実世界ならすぐに警察に電話するところなのですが……

 この世界にそんな便利な物なんかありませんわ。


 私が困惑していると



~コンコン


 3度目のノックの音が家の中に響いていきました……

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