第27話 お風呂と朝霧ヨーコさん その2
クロガンスお爺さんがお風呂に入っています。
私は、クロガンスお爺さんが湯上がりに身に纏うためのシーツと、体を拭くためのバスタオルを準備すると、きちんとたたんで題意所へ置きました。
「クロガンスお爺さん、シーツとタオル、置いておきますね」
『あぁ、ありがとうヨーコさん』
クロガンスお爺さんのお返事を確認した私は、その足でベランダへ向かいます。
「あ、ヨーコさん」
テーブルのイスに腰掛けて、足をブラブラさせていたテマリコッタちゃん。
私に気がつくと満面の笑顔を向けてくれました。
私も笑顔を返します。
「クロガンスお爺さん、今はいっていらっしゃるわ。その後で一緒に入りましょうね」
私の言葉に、テマリコッタちゃんは嬉しそうに微笑みます。
「いけない、忘れるところだったわ」
すると、テマリコッタちゃん、
首からかけていたポーチの中身をごそごそし始めます。
「はい、これ。ヨーコさんのでしょ?」
そう言ってテマリコッタちゃんが私に手渡してくれたのは
なんと魔法袋です。
「え? 嘘!? これ、どこにあったのかしら」
私はびっくりしながらそれを受け取ります。
……間違いありません
少しくたびれた感じ……それでいて生地がしっかりしてる、この感触。
私の魔法袋に間違いありません。
私は、思わず頬ずりしていきます。
そんな私の様子に、
テマリコッタちゃんはニッコリ微笑んでくれます。
「あのね、オトの街でね、ヨーコさんがいなくなったじゃない?
あの後、またしばらくして戻ってきたでしょ?
あのベッドの枕元に置きっぱなしになっていたのよ」
あの時
そう、この世界にやってくるときは、いつもこの家のベッドの上
それが1度だけ違った、あの日です。
……ひょっとして……魔法袋は私を追いかけてくれたのかも知れません。
『おいおいヨーコ、今日はそっちでお目覚めかい?』
みたいな感じで……
ふふ……ごめんね、置いてけぼりにしちゃって……
おかえりなさい
私は、魔法袋にもう一度頬ずりしていきました。
◇◇
私が、魔法袋との再会を喜んでいると
「ヨーコさん、あがったぞい」
と、お風呂の方からクロガンスお爺さんの声がします。
私は、テマリコッタへ視線を向けると
「さ、今度は私達の番ね」
そう言い、にっこり微笑みます。
「そうね、私達の番ね、ヨーコさん」
テマリコッタちゃんも、ニッコリ微笑み返してくれました。
2人して部屋に戻ると、
クロガンスお爺さんの姿がリビングにありました。
クロガンスお爺さんは、シーツで体を二重に覆い、片方の肩の上でその端を結んでいます。
そうですね……ギリシア神話に出てくる人みたいな服装、と言えばいいでしょか。
「では、テマリコッタちゃんとお風呂に入ってきますので、これでも飲みながらお待ちくださいね」
私は、紅茶の入ったカップをクロガンスお爺さんの前に置き、にっこり微笑みました。
その横では、テマリコッタちゃんが私の手を引っ張っています。
そんな嬉しそうなテマリコッタちゃんの様子に、クロガンスお爺さんも思わず笑顔になっています。
私は、テマリコッタちゃんに引っ張られるようにして脱衣所へと入っていきました。
「さ、テマリコッタちゃん、服はこの中に入れてね」
私は、すでにクロガンスお爺さんの服が入っているカゴを指さします。
するとテマリコッタちゃんは、服を急いで脱ぎ去ると
「これでいい? ヨーコさん!?」
自分がカゴに入れた服を指さしながら、私に確認してきます。
「えぇ、それでいいわ……では、入りましょう」
私も、着衣を脱ぎ去ると、同じカゴに服を入れて裸になりました。
裸といいましても、
この世界の私は人の姿をした白狐です。
体の前側、おへその周囲以外はすべて白い毛で覆われています。
でも、そんな私の姿を見たテマリコッタちゃん、
「ヨーコさん、やっぱり綺麗……」
そう言いながら、どこかぼ~っとした表情を浮かべています。
元の世界では
両親はおろか、元彼にすら一度も言われたことがない台詞に、なんだかくすぐったい気持ちです。
クロガンスお爺さんは、わざわざ湯船の湯を入れ直してくださっていました。
おかげですぐに使えます。
私は、手桶で湯船の湯をすくうと、
「はい、テマリコッタちゃん、目を閉じて」
そう言いながら、手桶をテマリコッタの頭の上へと持って行きます。
テマリコッタちゃん
少しおっかなびっくりな感じで目を閉じています。
私が、ばしゃっとお湯をかけていくと。
「きゃあ、あったかい」
そう言いながらはしゃいでいます。
ふふ、嬉しくて仕方ないのね。
私は、手桶で3回
テマリコッタちゃんの頭の上からお湯をかけてあげました。
テマリコッタちゃんは、その都度嬉しそうに悲鳴をあげていきます。
ボディソープをカシュカシュしていると
「ヨーコさん、これは何?」
テマリコッタちゃんは、とても不思議そうな視線を向けていきます。
「これはね、体を洗う水の石けんよ。この棒の部分を上から押すと中から出てくるわ」
私がそう説明すると、テマリコッタは、私を見上げて
「ヨーコさん、私もやってみていい?」
そう聞いてきます。
ふふ、やってみたくてしかたないのね。
「えぇ、良いわ。
さ、そのノズルの先に片手で受けをして……はい、その状態で押してみて」
テマリコッタちゃんは、私の指示通り、
ボディソープのノズルの前に左手を置き、右手でノズルを押していきます。
プシュ
「で、出たわ、ヨーコさん。すごい!」
テマリコッタちゃんは、左手の上にのっかったボディソープを見つめながら大興奮です。
その後、その手にのっかったボディソープを使って、2人で体の洗いっこを開始です。
当然その一回分ではたりません。
テマリコッタちゃんは、嬉しそうになんどもその手にソープを追加します。
そしてそれを私の体に押しつけて、両手でワシャワシャ洗ってくれます。
時折、私がお返しに、テマリコッタちゃんの体をゴシゴシ洗っていきます。
「さ、耳の裏もしっかり洗いましょう」
私は、テマリコッタちゃんの体を、いとおしむように、綺麗にしていきます。
ホントに……
私に子供が出来たら、こんな感じで接してあげたいわ……
今は、テマリコッタちゃんがその代わりね
私達は、お互いにいっぱい洗いっこすると
今度は、シャワーで石けんを流していきます。
「あったかい! 魔石がちゃんとお仕事しているわ」
テマリコッタちゃんは、嬉しそうにシャワーの出口を見つめています。
お湯が落ちてくるので、とても細い目で
さ、今度は湯船にはいりましょうね。
まずはテマリコッタちゃんが湯船につかっていきます。
「ヨーコさん、手足は伸ばせて気持ちいいわ」
テマリコッタちゃんは、嬉しそうにそう言います。
私だと、少し狭いので足は伸ばせないんですよね、この湯船
私は、そんな嬉しそうなテマリコッタちゃんを横にして、タライにお湯を張っていきます。
「ヨーコさん、何をするの?」
湯船から、テマリコッタちゃんが不思議そうな顔で、私の方を見ています。
私は、そんなテマリコッタちゃんににっこり微笑むと
「先に洗濯をしちゃいます。早く洗っておかないと、帰りに着る服がなくなっちゃうものね」
私がそう言いながら、脱衣所のみんなの服を手にしていくと、
テマリコッタちゃんは湯船からざばっと立ち上がり
「ヨーコさん、私も手伝うわ」
そう言って、湯船からでてこようとします。
ですが、私のお風呂はそんなに広くありません。
タライを置いてしまうと、作業する私が1人座るのが精一杯です。
テマリコッタちゃんは、お手伝い出来ないとわかると、すごく残念そうな表情になりました。
……そうだわ
「テマリコッタちゃん、じゃあ、干すときお手伝いしてくれるかしら?」
私がそう言うと、テマリコッタちゃんは、ぱぁと微笑むと
「わかったわ、ヨーコさん任せて!」
嬉しそうにそう言いました。
私は、湯船からテマリコッタちゃんが見つめる前で、みんなの服をゴシゴシ洗っていきます。
100均製の洗濯板を、すごく不思議そうに見つめていたテマリコッタちゃん。
洗剤の箱も、すごく興味津々な様子で見つめています。
ふふ、テマリコッタちゃん
お風呂が、いろんな意味で楽しくて仕方ないみたいね。
その後
洗濯を終えた私は、洗濯物を新しいカゴへといれていき、
さぁ、テマリコッタちゃんの待つ湯船にはいっていきます。
一度手桶でお湯を体にかけていき、
テマリコッタちゃんの後方からゆっくりと、お湯につかっていきます。
お湯がさばぁ、ってこぼれていく中、私は立て膝の体勢で湯船に膝を付けると、
その体勢でテマリコッタちゃんを抱きしめました。
「えへへ、ヨーコさん」
テマリコッタちゃん、すごく嬉しそうに微笑みながら、私の手に自分の手を重ねています。
ふふ
なんだか、とっても幸せな気分。
◇◇
たっぷり時間をかけて湯船を満喫した私とテマリコッタちゃんは
脱衣所でお互いの体をふきあいっこしてからあがりました。
テマリコッタちゃんは、バスタオルで体をぐるっと巻いています。
私は、いつもの作業着姿。
私は、先ほど洗い終えたばかりの洗濯物が入っているカゴを片手に家の外へ
テマリコッタちゃんも続いてきます。
テマリコッタちゃんに、カゴを持ってもらって、私は庭の物干し台へ
一度雑巾で竿を服と、そこにみんなの服を掛けていきます。
衣紋掛けを使い、1つ1つ服をかけ、パンパンと手で叩きます。
ふふ
なんかのテレビでそうやってたわよね、そう思ってやっただけ
この動作が何の意味があるかなんて、実は知りません。
さてさて
そんな中、私とテマリコッタちゃんが頑張って、洗濯物を干しました。
テマリコッタちゃんは、私へ視線を向けると
「ヨーコさん、お疲れ様」
そう言ってにっこり笑いました。
「テマリコッタちゃんも、お手伝いありがとう」
私がそう言いながら頭を撫でると、テマリコッタちゃんはすごく嬉しそうに微笑みました。
すでに外は暑いほどです。
この分だと、お昼前にはみんなの服、乾きそうね
私が空を見上げると、抜けるような青空がそこにありました。
あぁ、風が心地良いわ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます