第28話 お風呂上がりの朝霧ヨーコさん
お風呂からあがったクロガンスお爺さんは、のんびりベランダでくつろいでいます。
私のベッドのシーツを体に巻き付けただけの姿なのですが、どこか似合って見えています。
テマリコッタちゃんは、体にバスタオルを巻き付けた姿のまま。
しばらく、私の部屋の中を嬉しそうに見て回っていたのですが、
今は私のベッドの上
うつぶせになって寝息をたてています。
それもそうよね。
よく考えたら、クロガンスお爺さんも、テマリコッタちゃんも、今朝までオトの街に泊まり込みだったんですもの。
私は、寝息を立てているテマリコッタちゃんに、そっと布団をかけてあげました。
そっと頭を撫でてあげると
「ヨーコさん……えへへ……」
そう言いながら、嬉しそうに笑っています。
私は、ベッドの端に腰掛けたまま、しばらくテマリコッタをなで続けていました。
◇◇
ほどなくして
私はベッドから立ち上がると、一度台所へと移動しました。
お湯を沸かし、お茶の準備を整えて
……そうね、残っていたこのクッキーをお茶菓子にしようかしら。
テマリコッタちゃんが起きたときの分も残しておいて、と
私は、お茶の用意をトレーに乗せると、それを持ってベランダへと移動していきます。
我が家のベランダって、家の中からは行けないんですよね。
なので、一度玄関から外へ出て、それから低い階段を昇っていきます。
「クロガンスお爺さん、お茶でもかがですか?」
私が笑顔でそう言うと、
「そうじゃな、ちょうどお願いしたいと思っておったんじゃよ」
クロガンスお爺さんは、そう言いながら嬉しそうに微笑んでくれました。
ふふ、そう言ってもらえて、私もとてもうれしいわ。
私は、紅茶の入ったカップをクロガンスお爺さんと私の前に1つづつ
そして、2人の間にクッキーの入ったお皿を1つ。
「ほう? これは焼き菓子かい? 初めて見るな」
クロガンスお爺さんは、紅茶よりも先にクッキーを手に取ると、それを珍しそうに見つめています。
あらあら、さっきは紅茶をご所望だったんじゃなかったかしら?
私は思わず笑みをこぼしました。
「お口に合えばいいのですが。どおぞ召し上がってくださいな」
私が、そういって勧めると、
クロガンスお爺さんは、
「では、お言葉に甘えさせていただこう」
一度、クッキーを頭上にかざしてから、それをパクリと、一口で口の中へと入れていきました。
モグモグモグ
「ん!? これはうまい!」
クロガンスお爺さん、思わず身を乗り出しています。
そしてすぐさまクッキーの皿へ手を伸ばしていきました。
私は、そんなクロガンスお爺さんに、ニッコリ微笑むと
「テマリコッタちゃんの分はちゃんと残してありますから、さ、どうぞお召し上がりくださいな」
そう言いながら、クッキーの皿をクロガンスお爺さんの方へと押していきます。
するとクロガンスお爺さん、すごく嬉しそうに微笑みます。
「ほんとうかい? それはありがたいよヨーコさん。いやぁ、こんなに口にあう焼き菓子は久しぶりだなぁ」
クロガンスお爺さんは、そう言いながら嬉しそうにクッキーを頬張っていきます。
あらあら、こんなに喜んで頂けるのなら、また買ってこないといけませんね。
私は、遠慮なく食べ続けてくださっているクロガンスお爺さんの様子を見つめながら、なんだかすごく嬉しい気持ちになっていました。
◇◇
そのまま、2人でお話。
お茶を飲みながら、のんびりと
「……そういえばヨーコさん、この窯はいつ使うんだい?」
クロガンスお爺さんの言葉に、私は思わず苦笑してしまいました。
「本当は今日、初めて使ってみようと思っていたんですよ……それが、薪の準備が出来ていませんで……」
「あぁ、なるほどな……ここ数日雨も降っておったしなぁ」
クロガンスお爺さんは、そう言いながらベランダの前に広がっている窯を見つめています。
ふふ
クロガンスお爺さんはじめ、オトの街のみんなと一緒に頑張った成果ですものね、ここ。
薪がないせいで、すぐにが使えませんけど
今はこうしてクロガンスお爺さんと一緒に眺めることが出来るだけで、なんだか嬉しいですわ。
「ヨーコさんよ、薪なら今度家のやつを持って来てあげよう。
倉庫にいれておるのがあったはずじゃから、すぐ使えるはずじゃぞ」
クロガンスお爺さんは、そう言ってニッコリ笑ってくれました。
私は、その言葉に思わず笑顔です。
「本当ですか? それはすごく助かりますわ」
何しろ。元の世界でホームセンターから買って帰ることを覚悟していた私です。
あの5階までの階段を……
私は心の底から感謝の気持ちでいっぱいです。
そんな私を見つめながら、クロガンスお爺さんもニッコリ笑顔。
「そうじゃな、そのときはガークス達も呼んでやろう。皆で頑張ったんじゃしな」
その言葉に、私も笑顔で頷きました。
◇◇
お昼が近くなってきました。
そろそろどうかしら……
そう思って庭の洗濯物を確認に行ってみると……うん、もう大丈夫。
朝、テマリコッタちゃんとお風呂に入りながら洗った服ですが、もうすっかり乾いています。
私はクロガンスお爺さん、テマリコッタちゃんの服を取り込むと、それを両手で抱えて家の中へ。
途中、窓から顔をのぞかせて
「クロガンスお爺さん、服が乾きましたよ」
そう声をかけました。
すると、紅茶のおかわりを飲んでいたクロガンスお爺さん、
「おぉ、そうか、手間をかけさせてしまってすまんかったな」
そう言いながら家の中へと入ってきました。
私は、庭から取り込んできた洗濯物を一度机の上に置くと、
クロガンスお爺さんの分
テマリコッタちゃんの分
2箇所にきちんと分けていきます。
そうこうしていると、部屋に入ってきたクロガンスお爺さん。
「はい、これですわ」
私は、分け終わったばかりのクロガンスお爺さんの服のセットを手渡します。
するとクロガンスお爺さんは、ニッコリ笑い
「ほほ、手に持っただけであったかじゃな」
そう言いながら、私から服を受け取ると、そのまま脱衣所へと移動していきました。
私はそんなクロガンスお爺さんを見送ると、そっと寝室へと歩いて行きました。
すると、
ベッドの上では、相変わらずテマリコッタちゃんが寝息をたてています。
今は仰向けになっていて
私の布団をしっかりと抱きしめています。
なんだか、とっても嬉しそう。
今日は家中の窓をあけています。
おかげで、家の中には心地よい風が舞っています。
テマリコッタちゃんは、その風を頬に受けながら、
とても基地良さそうに寝息を立て続けています。
現実世界だと
こんな日はすぐに窓を閉め切ってクーラーのスイッチをいれているところです。
なんだか、とっても贅沢な気持ちになってきます。
自然の風で凉を感じることができるなんて
私は、もう一度テマリコッタちゃんの髪の毛を優しく撫でました。
「う~ん……ヨーコさん?」
あら……
私の手の感触で、テマリコッタちゃんが目を開けてしまいました。
まだ寝ぼけ眼のテマリコッタちゃん。
むくりと起き上がると、私に抱きついてきます。
「……ヨーコさんだぁ」
まだ、半分しか開いていない目のテマリコッタちゃんは
そう言いながら私を抱きしめています。
あらあら、どうしましょう。
身動きが取れなくなってしまった私は、とりあえず腰に抱きついたまま動かないテマリコッタちゃんを優しく抱き返しました。
そんなテマリコッタ。
10分くらいそのままの姿勢。
「これ、テマリコッタ。もう目が覚めておるくせに、ヨーコさんに甘えすぎじゃ」
そんな私達に、リビングからクロガンスお爺さんがそう声をかけてきました。
すると
「……もう、クロガンスお爺様ったら」
それまで、私に抱きついたままじっとしていたテマリコッタちゃんが、むくりと起き上がり、私から離れました。
その顔は少し恥ずかしそうに赤く染まっていた。
あらあら、私、甘えられていたのね
なんか、そうだとわかると無性にうれしく思えてしまいます。
大好きなテマリコッタちゃんい甘えてもらえたんですもの……ふふ。
微笑む私に、テマリコッタちゃんは申し訳なさそうな表情で
「ヨーコさん、ごめんなさい……怒ったわよね?」
そう言いながら私の顔をのぞき込んできます。
私は、そんなテマリコッタちゃんをギュッと抱きしめると
「いいえ、むしろ嬉しかったわ」
そう言いました。
テマリコッタちゃんは、その一言に安堵したように笑い、私に再び抱きついてきました。
◇◇
その後
私が作ったパスタをお昼にしたクロガンスお爺さんとテマリコッタちゃんは、ほどなくして家路につきました。
「もう少しゆっくりしたかったのじゃが、ワシも家の事がきになるでな」
そう言うと、クロガンスお爺は、私にニッコリ微笑みました。
「次は薪を持ってくるから、窯を使って美味しいものをつくってくだされ」
私も、そんなクロガンスお爺さんに微笑み返します。
「えぇ、精一杯頑張りますわ」
そんな私に、テマリコッタちゃんがもう一回抱きつきます。
「ヨーコさん、また遊びにくるからね」
そういうテマリコッタちゃん。
その首からかけているポシェットには、お土産としてクッキーが入っています。
「ヨーコさん、またね」
テマリコッタちゃんは、クロガンスお爺さんと手を繋ぎながら帰って行きます。
森に向かってゆっくりと
私は、そんな2人の姿が見えなくなるまで、家の玄関から見送りました。
途中、何度も振り返るテマリコッタちゃん。
私が手を振っているのに気がつくと、その都度笑顔で手を振り返してくれました。
ほどなくして、
2人の姿が森に消えていきました。
まだお日様は高いです。
さて、お片付けでもしようかしらね
私は家に入ると、まずは台所から
朝掃除したばかりの場所を、また掃除し始めました。
家の中を、気持ちいい風が通り抜けていきます。
振り向けばそこに、まだクロガンスお爺さんとテマリコッタちゃんがいるみたい。
私は、そんな奇跡を少しだけ期待しながら、その日の夕焼けまで過ごしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます