異世界で手に入れた生産スキルは最強だったようです。 ~創造&器用のWチートで無双する~/遠野九重

             【8MFハチミツのマフィン】 



 黒竜こくりゅうを倒してからしばらく経ったある日のことだ。

 俺はアイリスを連れ、オーネンの北に広がる山々を探索していた。

 目的は【創造】の素材集めだ。

 野山を歩き回ってはナオセ草などを【アイテムボックス】に収納していく。

 そろそろ日も傾いてきたので街に戻ろうか、という話をしていた矢先――

「グォォォォォォォォォォォッ!」

 前方から、激しい咆哮ほうこうが聞こえてきた。

 俺とアイリスはほとんど反射的に足を止めて身構える。

「……魔物がいるみたいだな」

「戦うの?」

「とりあえず遠くから様子を見よう。危険な魔物なら、冒険者ギルドに報告だな」

「分かったわ。じゃあ、ここからは忍び足で行きましょう」

 俺たちは互いにうなずくと、物音を立てないように気を付けながら、ソッと声の方へと歩き始めた。

 しばらく進むと、木立の向こうに魔物の姿が見えた。

 アーマード・ベアだ。

 巨大な熊型の魔物で、首から下が鎧のような外殻に覆われている。

 両手には黄色い蜂の巣を抱えていた。

 いったい何をしているのだろう。

 俺が首を傾げていると、アイリスが小声でそっと教えてくれる。

「アーマード・ベアはハチミツが好物なの。咆哮で蜂を追い払ったあと、巣に残ったハチミツを食べるらしいわ」

「じゃあ、今から食事の時間ってことか」

 俺がそうつぶやいた矢先のことだった。

 ギロリ、とアーマード・ベアがこちらを睨みつけた。

「……まずいな。気付かれた」

「どうするの?」

「戦おう。アーマード・ベアくらいなら簡単に狩れるし、放っておいたら他の冒険者に被害が出る可能性もあるからな」

「分かったわ。……一応言っておくけど、アーマード・ベアは危険度A、本来ならベテランの冒険者を何人も集めて討伐する相手よ」

「大丈夫だ、問題ない」

 俺は短くそう答えると【アイテムボックス】から魔剣グラムを取り出した。


 決着は一瞬だった。

 俺はフェンリルコートの付与効果である《神速の加護EX》を発動させると、一瞬のうちにアーマード・ベアに接近、魔剣グラムでその首をねた。

 死体は【自動回収】によって【アイテムボックス】にすぐさま収納される。

 その場に残されたのは、アーマード・ベアの咆哮によってもぬけの殻となった蜂の巣だけだ。

「相変わらず、すごい強さね」

 アイリスが感嘆のため息を吐く。

「あたしの出番、全然なかったわ」

「黒竜みたいな強敵ならともかく、アーマード・ベアが相手ならこんなものさ」

「アーマード・ベアを雑魚扱いできる冒険者なんて、たぶん、コウくらいでしょうね」

「それはどうだろうな」

 俺はアイリスの言葉に答えつつ、ハチの巣を【アイテムボックス】に収納する。

【解体】に掛けると『上質なハチミツ』が手に入った。

 これを素材にして新しいアイテムが【創造】できれば嬉しいところだが、残念ながらレシピは浮かんでこなかった。

 ちょっと残念だ。


 その帰り道、ハチミツのことをアイリスに話すと「少し分けてほしい」と頼まれた。

 もちろん断る理由はない。

 俺が持っていても使い道はないので、余っていた瓶に入れてすべて譲ることにした。

「こんなに貰っていいの?」

「ああ。好きなだけ使ってくれ」

「ありがとう。……ふふっ。明日、楽しみにしててちょうだい」

 アイリスは俺からハチミツを受け取ると、クスッといたずらっぽい笑みを浮かべた。


 翌日も俺たちは北の山々で素材集めを続けていたが、昼食を済ませたところで、アイリスがポーチから小包を取り出した。

「昨日のハチミツを使って焼いてみたの」

 小包の中には、こんがりとキツネ色に焼けたマフィンが入っていた。

 全部で八個、どれもおいしそうだ。


 アイリスの手作りマフィン上質なハチミツを使い、心を込めて丁寧に焼き上げたマフMFィン。とても美味。


 んん?

【鑑定】の説明文に妙なルビが入っているな。

 気のせいだろうか。

 まあいい。

 せっかく作ってきてくれたんだから、早速いただくとしよう。


 マフィンはずっしりとした重みがあり、かぶりついてみると、しっとりもっちりした食感が歯に伝わってくる。

 同時に、ハチミツの甘味が舌に広がる。

 これはうまい。

 もぐ、もぐ、もぐと口を動かしているうちにマフィンを食べ終えていた。

「二個目、もらっていいか?」

「ええ、もちろん」

 アイリスは俺の言葉に頷くと、次のマフィンを手渡してくれる。

「もしかして、気に入ってくれた?」

「ああ。これならいくらでも腹に入りそうだ」

「ふふっ、よかった」

 アイリスは嬉しそうに微笑んだ。

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