異世界薬局/高山理図
【円卓の八人】
月初め、異世界薬局では毎日の朝会に加え、定期的にミーティングを実施していた。
「それでは、異世界薬局月例ミーティングを開催します」
ファルマは異世界薬局従業員全員を三階の休憩室に集め、司会をする。
「連絡事項ですが、調剤ミスを防ぎ、調剤にかかる時間を省くために、棚の配置換えをしています。棚番表を確認してください。薬品名の似ている錠剤瓶の色を変更しました」
「わかったわ。そういえば、提携薬局からブチルスコポラミンの吐き気止めの在庫が欠品していたって連絡があったから、本店の在庫を回しておいたわ。本店のほうは、またファルマ君が在庫を確認しておいてね」
続いてエレンが報告をあげる。
「それは把握してるよ。では、こちらが今月のシフト表です。皆さん、変更はありませんか? 有給休暇をきちんと取得してくださいね」
「あ。僕、結婚式の予定が入ったので、誰か十五日のシフト交代してくれませんか?」
「私の二十日と交換してくれたらいいですよ」
ロジェはレベッカと交渉に入る。
「今月は子供の日の市民イベントで、小児用のお薬の飲ませ方についての説明会の依頼がきています。これは私とセルストさんで対応しますね。セルストさん、冊子の準備をお願いします」
ファルマはセルストに目配せをする。セルストは両手のこぶしを握って気合が入っていた。
「私と店主様の着ぐるみの用意は万全です! クマとうさぎでいいですよね!」
気合を入れるのはそこかと疑問にと思いながらも、ファルマは頷く。
「……では、私はクマで。ほかに連絡事項はありますか。なければ、今月もよろしくお願いします」
ファルマが締めようとすると、ロッテが手を挙げる。
「はい! 薬局の備品の更新についてですが、まさにこの休憩室の食卓が手狭です!」
ロッテがテーブルに手をついてアピールした。それなりに質のよい木材から家具職人にあつらえてもらって、ファルマも気に入っていたチーク製の食卓だが、いつの間にかロッテとトムがはみ出している。
「確かに、六人用のテーブルだったもんな」
「そうです。六人用ではだめです。私たち、八人になったのですから!」
ファルマ、エレン、ロッテ、セドリックで開業した当初はテーブルも休憩室も広々していたものだが、ロジェ、レベッカ、セルスト、トムが加わって大所帯となり、確かに全員が席につこうとするのは無謀だった。
食事の度に腕が隣と当たりそうになるので、今では昼休みも店を開けて、お昼の休憩も全員で一緒にとらないことにしていたので、ひとまず問題は棚上げになっていた。
「今は時間差で食事をするようにしていますけれど、あまりよくないと思うんです。皆さん、それぞれ仕事をしながら食べておられますし。お昼は皆さんで一緒に、楽しく食事をしたくないですか?」
「お昼は店を閉めるってことですか、いいですね。店主様に診てもらいたい人はお昼も待ってるんですし、それなら一回閉めてしまったほうがキリがついていいでしょう」
ロジェは賛成のようだった。
「患者さんにはお待ちいただくことになりますが、帝都のお店は昼休みに一度店を閉めるものです。私たちも落ち着いて食事をしたほうが、よい接客ができると思いませんか? それに、慌てて食べるのはよくないとファルマ様もおっしゃっていました」
ロッテが一生懸命になってプレゼンをするので、エレンもくすっと笑う。
「言われてみれば、確かにそうね。最近は帝都のほかの系列店にも分散してくれているから、そこまで行列にもなっていないし」
エレンも利点に気づいたようだった。
「ミーティングや会議のときも、全員が席につけると意見がまとまると思います」
「わかった。それじゃ、大きなテーブルにしよう」
気を遣わせて申し訳なかったなとファルマも反省しながら、皆の意見に賛同した。
「それで、テーブルのカタログを取り寄せてきたんですけど……」
ロッテが家具職人から借りてきたカタログを従業員に示すと、カタログには大きなテーブルがいくつも掲載されていた。
ファルマがメジャーを持ってきて、休憩室に設置する際の寸法を測る。
「円卓がいいかな。皆の顔が見えてフラットに話しやすいし。デザートを取りやすいように、真ん中をターンテーブルにしようか?」
「わあっ、素敵です!」
ファルマの遊び心に、ロッテは小躍りした。
やっと納品された円卓の中央に、ロッテが帝都中のフルーツ店から買い集めたフルーツを盛り付けている。得意の鼻歌が休憩室中に響き渡っていた。
「今日は円卓がきたので、お昼ごはんの後はフルーツパーティーですよ!」
「楽しそうだね、ロッテも準備ありがとう」
ファルマは奮発してよかったと目を細める。
「このターンテーブル、さっそく回してみましょう。せっかくなので大きく回しますね!」
ロッテが勢いよくターンテーブルを回し、さらにトムも回転を加える。
「わー! そんなに勢いをつけると――」
ファルマが叫んだときにはすでに遅く、フルーツが遠心力で全部ぶっ飛んでいってしまった。
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