フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~/埴輪星人

           【数に関するエトセトラ】



「たまに思うんだけど、なんでたこ焼きって八個入りが多いんだろうね?」

 邪神を倒し、帰るまでの日々を過ごしていたある日。

 ライムのリクエストでリヴァイアサンのタコを使ったたこ焼きを焼いていた宏に対し、春菜がふとそんな疑問をぶつける。

「……気にしたことあらへんかったけど、単純に舟に盛りやすい数やからっちゅうだけちゃうん?」

「そうかもしれないけど、それだったら七個でも五個でも十個でもいいよね? そう考えると、なんで八個入りが一番よく見かけるんだろうってちょっと不思議に思ったんだ」

「それ言い出したら、餃子とかも割と八個組が多いで」

「春姉。果物なんかも、一箱八玉が多い」

「やっぱり、出し入れしやすくてバランスとりやすいからじゃないの? あと、日本人って末広がりで末尾を八にするの好きだし」

 どうでもいい疑問を掘り下げようとした春菜に対し宏が反論し、澪と真琴も同調して追撃を入れる。

「二かける四とか三、二、三とかのパッケージが作りやすいってのもあるんじゃないか?」

「あ~、それはあるかも」

ちなみにちょっとした雑学だが、寿司一人前に十貫が多いのは、戦後寿司屋が飲食店としての営業許可が下りなくて配給の米を寿司に加工するって形で営業してた時期があって、配給の米一合で作った握り寿司が十貫だったかららしい」

「へ~」

 達也が披露した豆知識に、素直に感心して見せる春菜。

 とはいえ、恐らく大抵のものはそんなはっきりした理由や由来はないだろう。

「そういえば、昔は標準的な家庭が夫婦に子供二人の四人家族だったから、市販品は四の倍数で料理のレシピも四人前が普通だったわよね」

「今でも名残はある気がするよな、そのあたり。二十一世紀に入った頃から三の倍数が一般的にはなってるが」

「でも、一人分の数だと三、四、五、八が多い気がするよね」

「地味に、六個ってのも結構ある」

「そーいや、シェアして食べるって銘打っておいて、なぜか七個入りのお菓子あったわよね」

「素数の上あんまりその人数になんねえよ、って数だよなあ、それ」

「そそ。そういう理由で盛り上がってたわ」

 その後もなんとなくいろんな商品の数について盛り上がる宏以外の日本人チーム。

 なお、宏が口を挟まなかったのは、単純にタコだけでなくいろんな具材を入れて焼くことにはまっていたからである。

「おいしければいちにんまえが何個でもいいの!」

「アタシもそう思う。しいて言えば、分けやすくてめづらい数なら嬉しい、ってぐらい?」

「まあ、多すぎても少なすぎても困りはするからこれぐらいの数がちょうどいいとは思いますけど」

「それより、親方がタコ以外のものを入れて焼いているのですが、何を入れているのかちゃんと見てなかったのでそっちのほうが気になるのです」

 春菜達の会話が落ち着いたあたりで、最初の割り当てを食べ終えたライム、ファム、テレス、ノーラの四人が口々にそんな感想を言う。

「今焼いてんのはイカ入りやな。次はベーコン試してみよか、思ってんねん」

 最後のノーラの言葉を聞いた宏が、にやりと笑いながら何をやっているのか説明する。

「ねえ、師匠。今回の具材って、メイン級はどんなの用意してる?」

「基本のタコにイカ、ダイスカットしたエビとキノコと貝柱、ベーコン、チーズ、柔らかく煮込んだスジ肉の八種類やな」

「むう、結局ここでも八という数字が出てきてる」

「狙ったわけやなかったけど、ちょうどええオチがついたっちゅう感じやな」

 澪に突っ込まれて、言われてみればという表情を浮かべながらベーコン焼きを焼き始める宏。

 その後、ソースの代わりに醤油やポン酢を使うなど八種類の食べ方で味わい、この日のたこ焼きパーティは最後まで八という数字と縁が深いまま終わりを告げるのであった。



《邪神編の時間軸から書き下ろし》

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